俺の魂が美少女と交換されたのは地獄の姉ちゃんのせい:RE
多来明日
序章
享年一六歳
ぎぃっ……ぎぃっ。木材が軋む音がする。
(ここは……どこだ)
気がついたらここに在った。
そうとしか説明がつかない。
とても不思議な気分だ。
いつの間にでたのか。あたりには深い霧が立ちこめて何も見えなかった。
先ほどまでうるさいほどに聞こえていた、ニイニイゼミのジージーと鳴く声もぱたりと止んでいる。
静謐な空気が身体にまとわりつく。肌寒い。
周囲の状況が、まるで自身の存在の不確かさを代弁しているかのように思えた。
(確か俺は通学途中だったはず……)
白濁とする頭で、直前までの行動を思い出そうとした。
(そうだ……途中で委員長に出くわして……。それから、えーっと……空から巨大な影が落ちてきて……ふたりで逃げようと……)
だめだ。そこから先がどうしても思い出せない。身体は――動く。しかし重く、けだるい。ぼーっとあぐらを組んだままの姿勢でなんとはなしに首だけをひねり周囲を見わたす。一メートルほど離れた後方。ぼんやりと浮かぶ男の姿を見つけた。
いや、実際は男か女かわからない。子供かもしれないし大人かもしれなかった。
なにせそいつは、頭からすっぽりと全身をおおう頭巾を被っており、年齢や性別はおろか、その表情すらもわからないのだ。男だと推断したのは勘でしかなかった。
手には長い木の棒らしき物をもっており、規則正しい動きで前後に揺らしている。 軋みはその手元から発せられているようだった。
「なあ、ここがどこだか判る?」
「……」
ぎぃっ……ぎぃっ。
俺の問いかけに応えるものは何もなかった。静寂に響くのは、軋む音だけだ。
「もしもぉーし? 人が質問しているんですけど?」
「……」
「くぉのっ!」
気がつけば見ず知らずの場所に居るというのに無視されて、ふいに俺は怒りを覚えた。
首根っこをつかまえて問いただしてやる。
そう決意して立ち上がりかけようとしたそのとき、
「んなっ……な、なにぃ!」
足元が揺れてバランスを崩した。そのまま尻餅をついて倒れこむと地面が大きく沈んだ。
(沈むというよりこれは……傾く感じ? 船の上かッ!?)
船尾が跳ね上がり、男の身体をつつむボロ布がふわりと舞って、程なくして落ちた。両端に水しぶきがあがる。着水の衝撃で彼の正体を隠していた頭巾がずり落ちた。
「ひぎぃっ!」
俺は思わず悲鳴をあげて後ずさった。
男には表情がなかった。
正確には肉体がなかった。
生ける屍。
骸骨だったのだ。
ケタケタケタケタ。
やっと気づいたのかい兄ちゃん?
顎の骨を鳴らし骸骨が愉快そうに笑いやがった。
「あああああっ! まさかっ……あのとき……俺はッ……俺はァッ!」
俺の脳裏に記憶が鮮明によみがえる。
逃げ切れないとさとり渾身の力をもって委員長を突き飛ばした俺。驚きと悲しみの入り混じった瞳で見つめ返す彼女。零れ落ちるひとすじの涙。記憶はそこで闇に押しつぶされ――途切れた。
ここがどこなのか、そしてなぜここに辿り着いたのか。
俺はようやく思い至った。
「もしかしなくても、ここがかの有名な三途川なのか?」
山王警吾。高校一年生。享年十六歳。こうして俺は死んだ。
……ってマジかよ?
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