第34話 ハプニングと、突然の再会 4

「ホント、すいませんでした……」

「そんなに落ち込まないの」

「イツキがああなることなんて誰にも解らなかったし、わざとじゃないんでしょ? だったら気にしても仕方ないよ」

「でもさあ……どうすんのあれ」


 気晴らしに買ったアイスクリームのようなものを舐めながら、現実逃避をするわけにもいかず頭が痛くなる。この痛みはさっきの騒動故か、はたまたこのアイスクリームのせいか。雨宮たちも、俺の質問に顔を見合わせ微妙な表情を作る。これから先のことを考えた所為か、腹まで痛くなってきたような気がする。

 あの爆発の後、ギルド内は当たり前だが騒然となった。腕の立つ冒険者たちが飲んでいた酒を放り投げ武器を取り、臨戦態勢となる。事情を知らないギルドの職員も、襲撃だと思ったようで反撃の用意をしてしまった。部屋を軽々と吹き飛ばしたような犯人に、次は我が身かと、漂う雰囲気は弛緩した賑やかなものから張り詰めたものへと瞬時に代わってしまっていた。どの冒険者の瞳も、酒が入っているとは思えないほど冷静に、狙う首を探していた。

 人間固有の能力とされているもののひとつに、空想がある。現実世界では起こりえない出来事さえも、脳内では自由自在。物静かな見た目の男子が、頭の中では大乱闘していたり、可憐で清純とさえ思われている聖女の脳内が、実はとんでもないことになっているという事態が起こりえるのは、その能力があるからだ。

 あのときは、誤解だと説明する立場のはずの職員たちも、盛大に向こう側のテリトリーへと傾いていた。空想ができる《人間》が、いまの状況を分析して俺を犯人だと思い込むことなど実にたやすいだろう。あの状況で出ていけば、俺は血祭りにでも上がられていたのではないだろうか。衝撃から立ち直ったレーナの判断で、俺たちは避難という形をとって裏の扉から追い出されたのだ。もうしばらくはあの場所に近づくことすら禁止されている。というか近づきたくもない。

 本当に、どうやって弁償しようか……。


「ま、まあ、それはいま考えても仕方がないじゃん。私たちは次の目的を消化しようよ」

「頭、痛ぇー……」

「気にしない、気にしない。地図とお金は持ってる?」

「あ、それはわたしが持ってる。次は武器屋だっけ?」

「そう。武具店に行ってお互いの装備を揃えてきて。その恰好じゃ、卒業試験は厳しいでしょ? 自由に使っていいお金もあるから、途中で何か買うといいよ」

「いまさらだけど……他人のお金を使ってる罪悪感が凄い」

「そう思うなら、稼げるようになって返したまえよ。ハルカ氏」


 本当に気にしていないような様子で、俺を置き去りにし会話が続く。弁償だったらどうしようだとか、出入り禁止になったらどうするかとか考えないのだろうか。というか、さっきまで俺たち三人は似たような表情をしていたのに、この切り替えの早さは何なのだろう。女子はみんなそうなのだろうか。もしかしたら、感情・表情・行動の三つと、思想とは全く別駆動で動いているのだろうか。昼ドラのあれは、フィクションではなかったのか。


「ルナは、どこかに行くの?」

「私も、ちょっと野暮用があるから。終わったらこの場所に集合ってことで。ミレーナさんの書面を出せば少しは安くなるはずだよー」


 そう言って手を振ったルナの姿は、あっという間に人ごみの中に飲み込まれていった。


「……それじゃあ、わたしたちも行こっか――って、まだ気にしてるの?」

「なあ、雨宮」

「?」

「もしかして、大っ嫌いな人の前でも……俺が知ってる雨宮か?」

「それはない」

「…………そうか」

「え? なになに? 本当にどうしたの?」

「いや、何でない」


 ただ、雨宮は俺の知る機械女子じゃないのだと安心しただけだ。

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