長門有希ちゃん
事実は小説より寄なりというが、小説より寄にあふれた出来事があるならばどうか俺の目の前に持って来てほしい。平々凡々とした生活を送り、小規模ながらも波瀾万丈に生きて来た俺は、やがて、涼宮ハルヒに出会った。
涼宮ハルヒは、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら私の所に来なさい、と言った。
宇宙人といえば、地球外生命体と早合点する、偏った頭の持ち主もいるであろうが、この宇宙に存在する人間、と考えれば、人間も宇宙人であるから、俺は涼宮に「あんた宇宙人?」と聞かれたときに、「そうだ」と答えた。
宇宙人といえば、地球人も含む宇宙全体に存在する人間のことを指すと考える、偏った頭の持ち主もいるであろうから説明しておくが、宇宙人というのはつまり、地球外生命体のことである。先日出会った長門有希という少女は、どうもその宇宙人に該当するものであったらしく、同じ宇宙人として親近感を感じたのか、やたらと俺に宇宙の秘密を教えてくれるのには、なんだか申し訳ない気分になってしまった。曰く「この地球の言語表記方式には、表記内に時間概念が存在せず、無駄が多い」「宇宙には未来完了形というものが存在しない、そんなものは存在しないから」「この地球には私たちのように多くの宇宙人が、自身の身分を隠して居住している。あなたはどこの惑星の出身?」など、俺にはチンプンカンプンだったが、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
ところで、未来人といえば、未来からやって来たタイムトラベラーなどを安直に想像するテレビや映画を見すぎた夢見がちな輩もいるだろうが、時間というものが線形にベクトル的な方向性を持って進行している以上、今このとき、から数秒先の時間の自分は未来人であると言え、俺は「あんた未来人?」という涼宮の質問にも、「そうだ」と答えた。
ややあって知ることになるが、未来人といえば、現在の時間軸上に存在する自分から観測される未来の自分と考える、論理的に誤った思考をする者もいるだろうから説明しておくが、やはり未来人というのは未来からタイムマシンでやって来たタイムトラベラーを指すのである。朝比奈みくるという天使と形容しても天罰は当たらぬであろう美しい先輩は、先日来タイムマシンでこの時間に遡行して来た未来人であるらしく、この時代に一人ぼっちという境遇も手伝ってか、俺に様々な未来のことを話してしまったのも申し訳なかった。曰く「2045年問題の時は、大変でしたよね」「世界終末戦争で地上が全て焼け野原になって、雑草一本すら生存を許されない世界になった時、キョン君はどうしてましたか?大変でしたよね、あれ」「実は私、体の7割は生体機械で、ほとんどアンドロイドなんですよ、外見もアンチエイジングで処理してて、実は78歳なんです」などと様々な未来の知識を手に入れてしまった。最後の情報は、知らないでおきたかった、と思った。
超能力者というと、テレパシーであるとか、サイコキネシスであるとか、クレヤボヤンスのような分かりやすい超能力を想像する方も多いだろうからことわっておく必要があるだろうが、ミスターマリックが披露するマジックを超能力と呼称するのだから、やはり一種のタネのある手品を行う人を超能力者と呼称すべきであろう。故に、俺はハルヒに「あんた、超能力者?」と聞かれた時に、手から親指を取り外しながら「そうだ」と答え、ハルヒはたいそう驚いた様子だった。
超能力者というと、ミスターマリックのような手品師を想像する方もいるであろうから訂正しておくが、超能力者というのはつまり超常の力を用いる人のことである。小泉一樹という超能力者は、スプーンを曲げながら神人の居場所をクレヤボヤンスで透視し、空中浮遊を行いながら、人体発火現象を起こして真っ赤に光り、テレパシーで、(僕の名前は古泉で、小泉ではありません…)と訂正するのだった。もはや超能力のバーゲンセールだ。古泉は同じ超能力者として俺に親近感を覚え、異様に近い距離感で、超能力の秘密を洗いざらい説明してくれたのだった。どうやら、ハルヒに願われたから、小泉に超能力が備わっているらしい。(古泉です…)とまたもテレパシーで訂正を入れて来たので、俺は申し訳ない気持ちになってしまった。
ところで、神というと、キリスト教的な唯一神、インテリジェントデザイン説に存在する知性などの万能の存在を想像するような安直な思考の持ち主もいるだろうから、説明しておくが、人間の知覚範囲において、神とはつまり、自身のインナースペース、内面を統制する自身の意思に他ならない。つまり、小規模に、自分自身の内面のみを見るのであれば、この世の中に存在するすべての知性ある生き物は神である、と言っても過言でないのだ。俺はハルヒの「あんた、神?」という質問にも、肯定の意思を示した。
神というと、小規模な内面世界での随意存在である人間の精神的側面を指すような、視野狭窄に陥った者もいるであろうから改めて説明するが、神というのはつまり、全知全能かつ、強大な力を持ち、天罰も自由自在、なんなら、願えば生命ですらその手のひらの中に生み出せ、岩から生まれたサルなど、その手のひらのうちで弄び、指先を世界の果てと勘違いさせ、「斉天大聖」の直筆サインをいただくなど、操作もない存在のことを指すのである。というわけで、同じ神として、その身の上の苦労話を愚痴のように延々とハルヒは語るのであった。曰く、「キリストが処刑された時は、もう人間に慈悲を与えてもダメかと思ったが、なんとか自制した」「ノアが箱舟を作った時に、恐竜を載せなかったから恐竜が滅んでしまった」「ティラノサウルスとか超かっこいいじゃない」「宇宙開闢の際に宇宙と一緒に情報統合思念体も作った」「世界を四日で作っとけば金曜日も休みだった、失敗した」「体から毎日70リットルのワインと各種よりどりみどりのパンがあふれ出まくって、家がもうワインびたしの食パンだらけで困ってる」とか。
というわけで、自称宇宙人で未来人で超能力者で神な俺と、どう見ても宇宙人製アンドロイド、未来からやって来たご老人、超能力のバーゲンセール、そして神、とんでもないメンツの勢ぞろいしたSOS団は、すべての属性を併せ持つと勘違いされた俺を中心に、今日も今日とて異世界人を探して街を徘徊するのであった。
これまでのこともあってか、さすがにハルヒに「あんた異世界人?」と聞かれた際には「いや、違うぞ」と答えた俺のささやかなる健闘を讃えてほしい。何事も、見つからない不思議というものは、一つぐらいあった方がいいのだ。
「長門有希ちゃん」完
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