長門有希の異常な愛情 または長門有希は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
『さよならだけが人生だ』、と言う言葉が、誰の言葉だったかは思い出せないのだが、『吾輩は猫である、名前はまだない』と言う言葉を誰が言ったのかはわかる。猫だ。
とはいえ猫が話すなどということを信じていたかというとこれは確信を持って言えるが信じてなどいなかった。うちにはシャミセンという話す猫がいるが、あれは長門の腹話術だったので、ノーカウントだ。
という訳で猫が話すということを断固として信じないという意思を表明して以来、長門が俺の家に居候を始めたのである。
なんでも「いつ猫が話すかわからないから、いつでも腹話術をできるようにしている」とのことだ。そういえば古泉も閉鎖空間とかいうところに俺を連れていって神人なるものを俺に見せたが、やはりあれも、光の加減とか、空気の淀みとかで、そういう風に見えただけであろうと俺は思っている。
人がいなかったのは俺の知らない間にどこか遠くでバーゲンセールか何かやっていたんだろうし、神人がビルを破壊していたように見えたのも、光の加減で巨人らしき影が見えたあたりに、偶然老朽化で限界のきているビルがあったか、どこかの主婦の不注意でガス爆発が起こった、というようなところが真相だろう。
何も不思議じゃないな。
朝比奈さんは自分は未来から来た、と俺に言ったが、そんなことはあり得るはずがない、過去なるところにも連れて行かれたことがあるが、あれも、その前に起こった貧血のような症状を考えると、白昼夢であったことは明白だろう。
仮に、もし現実だったとしても、あの小さなハルヒみたいなやつだって、多分ハルヒの妹か何かだったんだろう。
俺はハルヒの家の家族構成を知らんしな。
今隣で漫画を読みながら焼き芋を食べている長門も、自分は情報統合思念体から派遣されたヒューマノイドインターフェイスである、とか言っていたが、やはりあれもちょっとした長門の妄想だったんだろう。
朝倉に襲われた時は随分面食らったが、ドアが開かなかった件にしても、あのドアはもともと立て付けが悪かったし、教室の風景が一変したのも、光のいたずらか何かだろう、長門が光になって消えかけたり、朝倉が光になって消えたりしたが、やはりあれも偶然に偶然に偶然が重なって、たまたま朝倉が光になって消えたように見えた翌日に俺に襲い掛かったのが気まずくなって転校したりしたのだろう。
それにひょっとしたら、朝倉は光になって消えるタイプの人だったのかもしれない訳で。
後日朝倉が突然帰ってきたり、ハルヒが消えたりもしたが、よくよく考えればクラス総出で俺を驚かすために仕組んだ、ハルヒ発案のドッキリだったのではないかと思えば辻褄があってしまう。ハルヒはそういうことをやる奴だ。
何より朝倉が帰ってきたということは、朝倉が光になって消えたことがトリックであったことを証明しているようなものだ。
という訳で俺の平々凡々で退屈な毎日は、今日も変わらず続いている訳である。ただ、俺の部屋で猫を抱えながら、延々と腹話術をやっている長門がいるということは、ちょっとした変化だと認めないわけにはいかないんだろうな。
そういえば、今頃ハルヒたちは何をやってるんだろうか。案外、俺の知らないところで不思議な現象に出くわしたりしているのかもしれんな、などと考えてみたが、やはりこの世に不思議なことなど何一つないのだ、と考え直した。
「長門有希の異常な愛情 または長門有希は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます