第80話 急襲の惨状


「はああぁぁ!!」


 私は飛びかかってくる魔物に剣を振るう。

 狼の魔物の攻撃を躱し、懐に入り剣を一閃。魔物は身体から血を吹き出しながら真っ二つになり地に落ちる。


「ユリーナ! お前はそっちに行け!」

「わかりました!」


 先輩兵士に言われた通りに左の道へ行く。



 今現在、このベゴニア王国の王都は急襲を受けている。

 私が市街地を仕事で見て回っていた時、それはいきなり訪れた。


 王都の門、そこにある鐘が突如鳴り、王都中にその音が響き渡った。


 その鐘の音を聞いたことある人はほとんどいない。

 私も生まれてからこの王都を出たことは数える程しかないが、今まで聞いたことがなかった。


 門の鐘の音は、急襲を知らせるもの。


 その鐘が鳴り、すぐに住民の避難が始まった。

 私もすぐに避難の誘導をし始めたが、急襲はすぐに来てしまった。


 門が破られ多くの魔物、そして兵士が入ってきた。

 兵士の鎧を見る限り、リンドウ帝国という魔族の国だということがわかった。


 魔物が何千体、何万体という数が入ってきて市街地が戦場と化した。


 平和だった街が今では至る所に人や魔物の血が飛び散り、どこかで火が上がっているのか煙が上がっているところもある。


 私も何体、何十体も魔物を斬っているが減っているのかもわからないほどだ。


 住民の人達が、死んでいく。

 死体を見れば様々な傷で死んだことがわかる。

 魔物に殺される人、崩れてきて家などに下敷きになる人、敵の兵士に斬られる人。

 果ては逃げてる最中に、人の雪崩に押しつぶされて死ぬ人もいる。


 住民の避難が完全に終わってない状態で攻め込まれてしまったから、住民の被害が大きい。


 今私がいるところは中心街の辺りで、ここより内側に行くと住民の人達が避難している場所になる。

 だから、ここから先には何が何でも通してはいけない。


 私は先輩と共に、魔物を殺しながら逃げ遅れた人を見て回っている。

 街の中を走り回るが、ものすごい数の魔物や兵士、住民の死体が転がっていて目を向けるのが辛くなる。


 今でも街の中では魔物とこちら側の兵士の戦いが絶えず行われている。


 それらから目にしながら私は私の仕事をしないといけない。

 生き残っている人がいるか探し回る。


「っ! 声が……!」


 走っている最中、どこからか声が聞こえてきた。

 とても小さく、掠れていたが確かに聞こえた。


 どこからだ……!


 そう思って見渡すと、もう一度小さな声が聞こえてきた。


「そっちか! 待ってろ、今助ける!」


 声が聞こえてきた方向に行きながら、大きな声で答える。

 そちらに行くと、家が崩れており木材やら石などが転がっている。


 だが、声を発したであろう人物の姿が見えない。


「たす、けて……!」

「っ! 大丈夫か!?」


 すると、崩れた家の中から声が聞こえてきた。

 女性の声だ。


 私が声を頼りに近づいて木材を退かしたり、斬ったりしていくとその中から女の子の顔が見えた。


「大丈夫か!?」

「うん……だい、じょうぶ……」


 その子は幼く、五歳くらいだろうか。

 砂煙などで身体は汚れているが、目立った傷はない。血も出ていないようだ。


 どうやら運が良いことに、家が崩れたときに上手く小さな隙間に入っていたみたいだ。

 小さな子供だからこそ、偶然その隙間に入れたのだろう。


 私はその子を抱きかかえ、その崩れた家から出す。


「もう大丈夫だ! 今から安全なところに行こう!」

「お母さんが、まだ、家の中に……」


 女の子はそう言って崩れた家の方を指差す。


「っ! すまない、もう君の母親は……」


 さっき、見えてしまった。

 この子を助ける時に全く隙間などない、大人が入るわけない場所から血だらけになっている腕が出ていたのを。


「行こう、ここは危険なんだ」

「お母さんは……?」

「……っ!」


 何も答えられずに、私はその子の手を引いて歩き始める。


 その子は何かを言いたげに私を見ていたが、黙って歩いてくれる。


 私はさっき別れた先輩兵士の人と合流した。


「残ってた子を見つけたか!」

「はい、この子を安全な場所まで連れていきましょう」


 そして女の子を連れて行こうとしたが、目の前に魔物が何体か現れた。


「私が殿しんがりを務めます。その子を連れて逃げてください」

「っ! 頼んだぞイレーネ!」


 先輩はすぐに判断してくれる。

 失礼だが、先輩より私の方が強い。私が残って戦った方がいいだろう。


「お姉ちゃん……? 行っちゃうの?」


 女の子が私を涙目で見上げながらそう言ってくる。

 私の服の裾を握っている。


 その仕草に場違いではあるが少し可愛く思ってしまい、ふっと笑ってしまう。


「大丈夫だ、私は死なない。また君に会いに行くよ」

「約束だよ……?」

「ああ、約束だ」


 私は魔物の方に気をやりながらも、女の子の頭を撫でる。

 その子はさっきまで落ち込んでいたが、少し笑ってくれる。


「先輩、頼みました」

「ああ、お前も死ぬなよ!」


 そう言って先輩は女の子を抱きかかえて走り去って行った。


 私は一人、そこに残り魔物に立ち向かった。


 

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