第12話 女形の獣型

【火星:訓練施設】

《戦闘訓練:桜庭梨花さくらば りか


 梨花は、美大を救助するために光源こうげんの能力を使い、砂煙と衝撃音のあった方に向かう。

 すると、その砂煙が上がっていた場所から然程さほど遠くないところで獣型と戦闘を行っている怜雄れおを発見する。見かけたときはスルーしようかと思ったが、戦闘相手の獣型のことが少し気にかかり足を止める。

 

 「何しに来た。これは俺の獲物なんだが?」


 怜雄が梨花のことを警戒する。自分が頑張って追い詰めている獲物を横取りされたら誰もが怒るだろう。だが梨花は冷静に返答をする。


 「美大みとちゃんの悲鳴が聞こえたから助けに行くところです。

  ほら、多分あそこにいると思うの」


 先ほど砂煙が上がった方に顔を向けると、怜雄も相手の獣型を警戒しつつも目だけで方向を見る。


 「叫び声なんて知らんし興味ないな」

 「あなたがプライベート回線にしているからでしょう。

  それにあなたの能力が役に立つかもしれないから一緒に来てほしいのですけど」


 怜雄は相手の獣型を攻撃しながら考える。怜雄の攻撃方法は至って単純で多種多様な格闘技を組み合わせた攻撃だ。だが、一向に獣型に当たっている様子はない。

 今、怜雄と対峙している獣型は、梨花が見てきた初めの獣型と2番目の俊足の獣型・3番目の二刀流の獣型とは違い、スラっとしたフォルムに腕や足に数多の刃物が付いている獣型。まるで女性のような形だ。これが例え成長した獣型だとしても異形すぎる。梨花はすぐに先ほどに二刀流の獣型のことを振り返り、中身が同期した人である可能性を考える。

 怜雄が一通りの技を繰り出し終えたのか一旦引いてくる。


 「んで、助けにいくとしてもこいつはどうする」

 「来てくれるのですか?!」

 「まあ、こいつには俺じゃ敵わないだろうしな。攻撃が当てられる気がしないし、向こうからは攻撃してこねぇ。全く気にくわねぇけどな」

 

 確かに女形の獣型は傷一つ追っていない。それに向こうからは攻撃してこない。まるでさっきの二刀流の獣型と同じだ。攻撃してきたら反撃、又はかわすだけ。

 向こうが攻撃してこないことがほぼ確定してきたところで、梨花は怜雄に能力のことで質問する。


 「あなたの強化ストレングサンの能力で傷を和らげることはできますか?」

 「かなり強引だが、鎮静作用のあるエンドルフィンを大量に分泌させることならできるぞ。それで大抵の痛みは緩和できるはずだ」


 怜雄と梨花がそんな会話をしていると、女形の獣型は砂煙の上がった方角とは逆の方角に離脱していった。こちらが戦闘の意思がないと判断したのだろう。

 だが離脱した瞬間を2人は見逃さなかった。女形の獣型の離脱は2人が違和感を覚えるほど速く、光は纏っているかどうかは見えなかったが、梨花がを使ったときのように速かったのだ。

 

 「おい、今はいくらなんでも速すぎだろ」

 「明らかに何らかの能力を持っているわね」


 2人が呆れた感じでその場に立ち尽くす。するとまたも衝撃音が2人を襲う。先ほどよりも大きい砂煙があがる。場所は移動しているが然程遠くない。

 一瞬で移動できると判断した梨花は怜雄の手を取る。


 「防御面に強化を集中していてください」

 「はっ?」

 

 顔を若干傾け、少し笑ったようなその訓練機の顔は、一瞬で光に包まれ怜雄の体に膨大な重力と熱が襲う。梨花は怜雄を連れ、光の速さで移動したのだ。それに必死に耐える怜雄。


 「このアマ゛ァ!!急に光速で移動すんじゃっ……フンヌッ!!」

 「ごめんあそばせ~。フフフッ」

 

 急いで強化を再発動する怜雄を見て笑う梨花。距離があまり遠くなかったので一瞬で目的の場所付近に着き、槐たちを発見する。

 またも光速で移動する。


 「またか!!」


 怜雄が驚いている間に槐たちの前に到着する。梨花にとってはいつも通りのことなのですぐに立ち止まれるが、怜雄は少し踏みとどまるのが遅れ、槐たちの後ろまで行ってしまった。

 全身熱に覆われたまま変な船酔いのような感覚が怜雄を襲うが、美大を見た瞬間その感覚も吹っ飛ぶ。梨花が確認していた痛みの緩和とはこのためかっと、理解した怜雄はすぐに美大の様態を確認する。


 「こりゃひどいな。んっ? 意識はあるのか」


 その後は少し会話や槐たちを襲っていた獣型の確認をし、梨花が話があるとのことで今に戻る。




【解 説】

〇模擬戦闘兵器:女形の獣型

 腕や足を中心に刃物が付いている獣型。

 成長でここまで変わったとは考えられないことから、桜庭梨花から誰かが同期しているのではないかと怪しまれている。

 離脱の際に“光源”に近い能力を使って高速に移動していたことから能力持ちだと考えられる。

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