第十六章 謎のメール

 相変わらず何をやっても僕のパソコンは動かない。

 仕方ない、親に事情を説明して《たぶん、信じて貰えないだろうけど……》パソコンのプロに修理してもらおうと観念した頃であった。一通の謎のメールが僕の携帯に送られてきたのは――。


 ベッドの上に寝転がって天上を見上げ僕は溜息をついていた。もう自分の手には負えない、パソコンも秋生の件も……結局、何もできずに諦めてしまうしかないのか……こんな結果でしか終われないのか? なんて不甲斐ない奴なんだ。

 そんなことを考えながら悶々としていた僕の耳に、いきなり携帯の着信音が聴こえた。メールなんか、どうでもいいやと放って置いたら、またしばらくしてメールが届いた。面倒臭いなあ……と、しぶしぶメールを開いて見て、びっくりした!


 そのメールは自分宛てに、自分から送られてきたメールなのだ。

僕は携帯を一台しか所持していないので、誰かのイタズラだと思ったが、送り主のメールアドレスは僕の物だった。

 送り主:福山翼 ⇒ 宛先:福山翼 そんなバカなっ! しかも、そのメールには……、


『 ツバサ、元気をだせよ!

  おまえのことはいつも見守っているからな

                      秋生 』

 

 秋生だって? これは悪趣味なイタズラか?

 死んだ『秋生』の名をかたってメールを送ってくるなんて、いったい誰なんだっ!?

 許せない! さっきのメールと合わせて二通削除しようとボタンを押したら、また次のメールが届いた。


 『 ツバサ、信じられない気持ちは分かる。

   秋生は死んだけど、実はおまえの傍にいるんだ。


   ちゃんと、今までのことも見ていたから

   ナッティーを一緒に助けだそう!

                      秋生 』


 えっ? ナッティーのことをどうして知っているんだ。

 こいつは誰だろう? もしかして、これは敵の罠かもしれない……。


 疑心暗鬼で染まった僕の心は、謎のメールをやすやすと信じることなんかできない!


『 ツバサは、僕のことがどうしても

  信じられないようだね?

  

  だったら、僕ら二人にしか分からない

  質問をしてみろよ。

                  秋生 』


 ――僕らにしか分からない質問。

 秋生とは小学校に入る前から友だちだった。お互いにドジやら恥やら、いろんなことを知っている。

 そして内緒事や秘密も僕らはいっぱい共有していたのだ。


 じゃあ、あのことを訊いてやろう。すごく昔のことだけど、本物の秋生なら、きっと覚えているはずだ。


『 小一の頃、僕らの宝物は何だった?

  それをどこに隠した?

                ツバサ 』


 それだけ書いて、僕は送信ボタンを押した。


 ――すると、すぐに返事が返ってきた。


『 小一の頃、ビールの王冠集めが流行った。

  僕の叔父さんがペルーから買ってきた

  「クスケーニャ」というビールの王冠がレアで

  子どもたちの間で、すごい人気になった。


  それが僕らのふたりの宝物だった。


  マンションの児童公園、ブランコに向かって、

  右から三番目の桜の根元にふたりで埋めたんだ。

                         秋生 』


 そのメールを読んだ、瞬間、僕は言葉を失った――。


 小学校に入学する少し前に、僕らが住んでいるマンションが完成して、分譲として売りに出された。僕の家も秋生の家も建ったと同時に、このマンションに引っ越ししてきた。

 マンションの中に自分と同じ歳の秋生を見つけて、僕らはすぐに友だちになった。いつもふたりで、マンションの児童公園で元気いっぱい遊んでいた。

 小学校に入学してしばらく経った頃に、なぜかマンションの子どもたちの間で『ビールの王冠』を集めることが流行りだした。僕の家はお父さんが晩酌にビールを飲むので集まったが、秋生の家では、お母さんがお酒を飲まないので『ビールの王冠』が集められなかった。それで僕は自分の王冠を秋生に少し分けてやっていたのだ。

 その頃、お祖父ちゃんの家や親戚の家に行ったら、大人たちがビールを飲むのが楽しみだった。珍しい『ビールの王冠』が手に入ると僕は大喜びだった。


 そんな、ある日、秋生がすごくレアな『ビールの王冠』を持ってきた。

 南米にいっていた叔父さんが、お土産にビールを買ってきたのだ。「クスケーニャ」という、ペルー産のビールで日本ではとても珍しいものだった。

 そんなレアな『ビールの王冠』を手に入れた秋生は、一躍マンションの子どもたちの人気者になった。そのレアな王冠をみんなが見せて欲しがったのだ。……そんな風に、みんなの注目を浴びている秋生が羨ましくて、面白くない僕は、些細なことで秋生とケンカになった。何も悪くない秋生を、先に叩いたのは僕の方だった――。


 それなのに……翌日、秋生はペルーの王冠を持ってきて「これ、ツバサにあげるから、仲直りしよう」って、自分から頼んできたのだ。小さい時から争いごとが嫌いな秋生だったから……。

 心優しい秋生の態度を見て、自分の方が悪かったのに……僕は反省して謝った。だから『ビールの王冠』はいらないと断ったら、秋生が「じゃあ、これはふたりの宝物にしようよ」と言って、二度とケンカをしないように埋めてしまうことにした。

 マンションの児童公園のブランコに向かって、右から三番目の桜の木の根元に、ふたりで小さな穴を掘って、紅茶の空き缶に入れてから埋めたんだ。


 ペルー産の『ビールの王冠』は、当時の僕らの宝物だった――。


『 間違いない。

  僕の知っている村井秋生に

  おまえは間違いない!

             ツバサ 』


『 やっと、ツバサに信じてもらえたか。

  僕は死んで、肉体は失ったけど

  違うカタチで生きかえることができたんだ。

                     秋生 』


『 どういうことだ?

  何があったんだ?

  秋生、僕に教えてくれ!

             ツバサ 』


 ――この後、僕は死んだはずの親友から、とても信じられない話を聞かされることになったのだ。

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