第四章 ナッティーとの出会い
幼馴染の親友を喪った僕は、大きなショックから立ち直れなくなっていた。
あの時もっと秋生の話を聞いてやれば良かった、一週間も学校を休んでいる間に、なぜ訪ねてやらなかったんだろう? どうして秋生の心の変化に気づいてやれなかったのか? 僕は親友だと言いながら、秋生のことに無関心で冷たい奴だった。秋生、ゴメンな、僕が不甲斐ないばかりに……。
そんな風に自分を責めて、責めて……僕は勉強も部活も手に着かなくなってしまった。
秋生に教えられたホームページは、なんだか怖くて開くことができなかった。悶々と苦しんでひと月ほど経った僕は、昔、秋生と一緒にゲームして遊んだSNSを開いた。ゲームをして気分を紛らわせようと思って――。
ふと、秋生のマイページを見にいこうと思った。主(あるじ)はもういないが誰がきているのかと気になったのだ。
秋生の伝言板には『ナッティー』という女の子のアバターがきていて、毎日々、秋生に挨拶を書き込んでいた。ひと月以上も秋生はログインしていないのに、それでも毎日伝言板にきていたし、とても心配している様子だった。たぶんミニメールもたくさん送っているのだろう。
……こんなに心配させて、可哀相に……ツライけれど秋生が死んだ事実を告げた方がよいと判断して、ナッティーのマイページにいってみることにした。
とってもチャーミングな女の子のアバターだった。
このSNSはゲームとアバターに人気があって、アバターに着せ替えする服や背景のアイテムに高価な値段が付いて、ネットオークションでも取引されていると、以前、秋生から聞いていたが、まさに彼女のアバターはレアモノで高そうだった。
ゲームのアイコンもたくさんゲットしているので、アバターだけではなくゲームもかなり遣り込んでいそうな雰囲気だった。それらのアイコンの中には秋生がよく遊んでいたゲームのもあった。――もしかしたら、秋生のゲーム仲間だったのかな?
まさか、秋生の死を伝言板に書き込むことはできない。僕は彼女にミニメールを送ることにした。
『 はじめまして、ツバサと言います。
僕は秋生のリアルの友人ですが、
彼は不幸な事故でひと月前に亡くなりました。
今まで、秋生にありがとう。
ツバサ 』
何を書けばよいか分からず……簡素だが、そういう文面で、ナッティーにSNSからミニメールを送った。
翌日、僕のマイページにナッティーからミニメールの返信がきていた。
『 こんにちは。わたしナッティーです。
秋生くんとはよくゲームをして遊びました。
死んでしまったなんて信じられないわ。
詳しい事情を聞かせて欲しいので、
チャット部屋にきてください。
チャット部屋 38番
入室パスワード****
午後7時~12時まで待っています。
ナッティー 』
いきなり、チャットで話を聞かせて欲しいという、ナッティーの申し出にいささか戸惑ったが、一ヶ月以上も毎日秋生の安否を確かめにきていた彼女の心情を思うと、やはり、きちんと事実を告げるべきだと僕は思った。
もしかしたら、秋生の自殺の理由を何か知っているかもしれない。――そういう期待も無きにしも非ず。
入室パスワードを打ちこんで、僕はナッティーが待っているというチャット部屋に入っていった。そこはバーチャルだが、小部屋風でお互いのアバターが表示される。
鍵をかければ(入室パスワード設定)誰にも邪魔されず、ふたりきりでゆっくり話ができる。ここは、ネットのカップルたちがイチャイチャするのによく使っている部屋なのだ。
チャット部屋に入ったら、ナッティーのアバターは表示されていたが、本人は別の場所にいるようだった。
「こんばんは」
チャットに書き込んだ。
――しばらく経っても反応がない。三十分ほど待って、もう部屋から出ようかと思ったら、やっとナッティーから返事がきた。
「待たせてゴメンね!」
「こんばんは」
もう一度、同じ挨拶を打ち込んだ。
「あのね、アバターの交換所にいっていたから、すぐに気がつかなくて……ゴメンなさい」
アバター交換所というのは、自分の持っているアバターアイテムと交換相手の持っているアバターがお互いに気にいったら、交換しあう場所なのだ。『アバ廃人』たちはここでレアアバターなどを手に入れると聞いている。
「いいよ、僕も他のゲームしながら待っていたから」
どうでもいいようなパズルゲームを僕も別ウインドウでやっていた。
「今日はきてくれて、ありがとう」
キュートなアバターのナッティーがそう打ち込んできた。
「僕は秋生と幼馴染で親友だった。だから君に秋生のことをちゃんと話さないといけないと思った」
「秋生くん、いつ亡くなったの?」
「ひと月ほど前」
「死因は?」
「自殺」
僕がそう打ち込んだら、しばらくナッティーから反応がなくなった。
たぶん、パソコンの向うでショックを受けたのだろう。――その気持ちは分かる。五、六分経って、十分以上過ぎて……もしや落ちてしまったのか?
「そうなるんじゃないかと心配していました」
やっと返ってきた返答が、あまりに意外だったから僕は驚いてしまった。彼女は何か知っているのかもしれない。
「知っているんですか? 秋生の自殺の原因を……」
「ええ……」
そう言うとナッティーはチャットの画面にURLを書き込んだ。
「このサイトにいってください」
「これは、なあに?」
「そこへいって、読んでくれれば分かります」
「うん……」
僕はウィンドウをもう一つ開き、そのURLをドラックしてコピーすると検索に貼り付けた。
――そして、パソコン画面に別のサイトが開いた。
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