知らないところで

菜麻華文

第1話 事件の日

『みなさんこんばんは。今夜は手汗握る夜が待っています!今夜の映画は・・・』


「しょうー!早くしろよー!」

こたつに入りながらポテトチップスの袋を開けている男の子が言った。

彼は地元の小学校に通う六年生の田中光太郎たなかこうたろう

光太郎はポテトチップスをバリバリと食べ始めた。

「あーっ!食うなよ兄ちゃん!今持っていくってば!」

コップとペットボトルのコーラを両手に抱えた男の子が不機嫌そうに言った。

彼は小学校四年生の田中章介たなかしょうすけ。同じ学校に通う光太郎の弟だ。

彼らが見ようとしているのは毎週日曜に様々な映画を放送している映画番組。

今回は主人公が人類未踏の地に眠る秘宝を目指して冒険するアドベンチャー映画だ。

章介がコップにコーラをつぎながら言った。

「そういえば兄ちゃん、いつ友達からゲーム借りてくれんだよー」

「しょうがねえじゃん、あいつクリアしないと貸せないつってんだもん」

「その友達金持ちなんだろ?もうひとつ買ってくれればいいのに」

「あー無理無理。あいつすっげーケチだから。」

2人が飲み食べしながら映画を見ていると、ガチャッと音がして両手に袋を抱えた男が入ってきた。

「だだいまー」

「父ちゃんおかえりー!」

男は2人の父親の田中諒一たなかりょういち。警備会社で働いている。

「あー疲れたー寒い寒い」

諒一はドカッと座ってこたつに入った。

「ほらこれ、会社で余ったからやるよ」

2人が受け取ったビニール袋をガサガサとあさると中には大量の笛のような青いキーホルダーがあった。

「なにこれ?」

「防犯とか災害用の笛。ほら、かばんにつけられるぞ」

諒一はもう一つのビニール袋からコンビニの弁当を出しながら言った。

「うわーっいらねー。学校からブザーもらってるし!」

「こんなにあってどうすんだよ」

「誰かにやればいいだろ。それかあれだ、ほら、よくCMでやってるネットでいらないもの売れるアプリ?それで売ればいいじゃないか」

「誰も欲しがらねえよ!」

「なんだあ出来ないのか?お前何のために携帯持ってんだ。ゲームばっかやりやがって」

「無料なんだからいいだろうるせーなー・・いてっ!」

光太郎が笛の入った袋を後ろに投げ捨てると諒一が光太郎の頭を小突いた。

「携帯買ってやったのになんだその態度は!」

「2人ともうるせーよ!」

章介がため息をついてテレビの音量を上げた。

「おっ、この映画知ってるぞ。この眼鏡かけた男が途中で裏切るんだよな」

「はぁ!?なんで言っちまうんだよ!」

「ネタばれすんじゃねぇよ、クソ親父!!」

光太郎と章介が叫びながらこたつの中の諒一の足を蹴りだした。

「いてっ、いててっ!蹴るな!ばかやろうっ、明日仕事行けなくなるだろうが!!」


ドンドンドンッ!


3人が騒いでると玄関のドアが強く叩かれる音がした。

「はーい!おいテレビの音量下げろ」

諒一が立ち上がって玄関に向かいドアを開けた。

目の前には腕を組み眉間に何層ものしわをよせ睨む老人が立っていた。

「あー!どうも大家さん、お世話になってます・・・」

「田中さんとこ毎晩うるさいって他の部屋の人から苦情がきてるんだよ。斜め下に住むわたしのところまであんたら家族の騒ぎ声が聞こえてたまったもんじゃないよ」

「あー、いや、ほんとすいません。これから気を付けますので・・・」

「家賃だっていつも他の人より振り込むのが遅いんだから

そこも守ってくれよまったく」

諒一がすみません、すみませんと頭を下げてるとどこからか消防の鐘が

鳴り響き始めた。

すぐに近くの道路を2台の消防車が走り抜けて行く。

諒一と大家が消防車の行く先を目で追うとそれほど遠くない場所でオレンジ色の光が見えて、そこから分厚い煙の柱が空へのぼっていくのが分かった。

「・・・とにかく気を付けてくれよ!」

大家はそう言うと火事が気になるのかそのまま消防車が通った道の方に

歩いて行った。近くの家の人たちも外に出たり窓から様子を伺っている。

「火事?」

光太郎と章介が玄関の横の窓から顔を出した。

「ああ、けっこう近いみたいだな」


ピコン


っと光太郎の持っていたスマホがなった。

LINEというアプリを確認するとメッセージが多く来ていた。


『ねえ、火事おきてるよね?』

『え、火事??どこで』

『さっき消防車通った』

『おまえの家じゃねw』

『ふざけんな』

『火事の場所、廃材置き場んとこだって』

『え、やば近いんだけどwww』

『うちの親見に行ったわ』

『うちも』

『火事現場なうなう』


グループの1人が写真をアップした。

バスのような車から火が出ていてその周りにも火がうつっているように見える。

「えっ・・」

光太郎は目を丸くして言葉をつまらせた。


『お前近すぎw』

『やばい』

『どうした??』

『なんか死体があるらしい』

『え?』

『え?』

『ええええええ』

『マジ?!』

『誰?』

『消防士に下がれって言われてよく見えない』

『見るなよ』

『見たらやばいだろ』

『まじかよ』

『どうした??』

『なになに?怖い』

『小宮の母親がいるんだけどすっげー叫んでる』

『え!?』

『うそまじ』

『ほんと。あれは絶対そう。さきーっ!って叫んでる』

『え?』

『ええええ!!!!!』

『うそでしょ!!!!!!????』

『え、じゃあ・・





死体って小宮咲?』






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