07 やっぱりね! タイトルだもんわかってたよ畜生ッ!!
午後一番。食後の眠気が差してくる時間帯に、玲達はジャージに着替えて校庭に出ていた。
広い校庭にクラスごとで散らばって、1年生全生徒が集合している形である。
正直、今日はこのために来たと言っても過言ではない。それだけ、重要なものの配布がこの後行われるのだ。
「あー、これから『
1年3組。玲達のクラスの担任である雪奈が、先にも増して眠そうにしながら説明を始める。
「面倒臭いけど一応説明しておくぞー。召喚の呪文を忘れるようなあんぽんたんが、うちにはいるからなー」
「……ごめんなさい、はい」
じとーっと注がれる視線に縮こまりながら、玲は謝罪の言葉を口にする。
昨日色々あったから忘れかけていたが、玲は『
その結果、某作品の固有結界の詠唱を唱え始めるという暴挙に及んだ訳であるが、そのお陰か、面倒くさがりの雪奈も一応ある程度の説明をしてくれるようだった。
「『
どうやら体罰上等の先生のようだ。
「それから、『
「え、出来ないの?」
小声で隣に座るリィエルに囁きかけると、リィエルは小さく頷いて答えてくれた。
「本来はな、ある程度行動を共にして、お互いに心を通わせる必要があるのだ。まあ、ざっくばらんに言えば好感度のようなものだな。或いはシンクロ率と言ってもいい。それに併せて、経験が少ない術者の場合、自分の身体に負担を強いることになって失敗したりするぞ」
「……オレ、よく使えたな……ホント」
「何せお前の『
「あい…」
視線を戻すと、雪奈が次の説明に入ろうとしていた。
「武器を貰ったら、『
((あれっ、配るんじゃないんだっ!! てか説明雑っ!!))
最早、知っている前提で話をしている様子だった。
いや、まあ魔法を学習する学校だし、内容としては一応中学校で習う範囲のものであるため、殆どの生徒は問題なかったが。
問題になるのは、玲のように知識が抜け落ちていたり、玲のように案内資料をシュレッダーにかけてしまったりした者だけである。
生徒達は仕方なく、ダルそうに欠伸をしている雪奈の足下に置かれた木箱へと歩き始める。
玲はしばらく待って、木箱の周りが空いた頃に、
「オレ取ってくるわ。みんな待っててくれや」
と近くに座っていた璃由達に言って、返事も待たずに歩き出した。
木箱の前に辿り着いた玲は、手を伸ばしつつ箱の中を覗き込んだ。
それは、銀色のロザリオだった。
最早人間業とは思えないような微細な加工が施された、実に見事な十字架である。
繋がれた鎖を持ち上げて4つ程摘まみ上げ、テクテクと歩きながらそれを見る。
間近で見れば見るほど、その吸い込まれそうな美しさが一層際立つ。
その美しさのせいか、どこか神々しい雰囲気を醸し出しているような、現実の重みではない圧を感じさせる。
「取ってきたぜー」
「ありがとう、玲くん」
「お、サンキュー」
「助かったよ」
口々にお礼を言いながら、差し出された玲の手からロザリオを受け取る璃由、雅、棗。
そして、何ら迷いも無く、彼女達は当然のように首にかけてみせる。
(まあ、ロザリオだもんな。そりゃ首にかけるよな)
玲も倣って首にかけてみるが、鎖が細いこともあって、手に持った時以上に、その過重の少なさが浮き彫りになる。
いや、どころか本当に首にかかっているのかと疑いたくなるレベルである。
いったい、何で出来ているのだろうか。
──閑話休題。
既に他の生徒達は雪奈の言った通りに『
ただでさえ記憶欠落等という憂き目に遇っているのだ、お手本が周りにある内に取り掛かった方が良さそうである。
「うっし。んじゃあ、やってみるかな」
「流石に忘れてはいないだろうが、『
「あいさー」
リィエルの言葉に頷く玲。流石の玲でも、今しがた聞いたばかりのことを忘れてはいない。
助言に従って、玲は意識を集中させ、頭の中に門を開くイメージを浮かべる。
そして、一呼吸置いてから、その呪文を紡いだ。
「──『
途端、玲は自分の身体の中から響く音を聞いた。低く、重々しい門扉が口を開けるような、そんな音を。
本来であれば、それだけの筈であった。
事実、他の生徒は呪文を唱えても、ロザリオに光が灯るくらいでそれ以外に何かが起こるわけではなかった。
だが、玲だけは、様子が違っていた。
「えっ!?」
「何!?」
「はぁ!?」
耳に飛び交う驚愕の声。だが、玲はそれが誰の発した言葉なのか、知ることが出来なかった。
だって、そもそも目を開けることが出来なかったのだから。
そして、玲自身も間の抜けた声を出していたのだから。
──発光。青白い光が、玲を包んでいた。その様子を見て、近くにいた璃由達は勿論、雪奈でさえも呆然としていた。
誤爆だろうか──。そんなことを考えたが、どうもそういう訳では無いらしい。
いや、そもそもたかだか『
一瞬、雪奈の思考に『
不備があるのなら、そもそも『
皆が騒然とする中、ただ1人、リィエルだけが引き吊ったような笑みを貼り付けていた。
「……よもや…」
次第に玲を包んでいた光が弱まっていき、ようやっと玲は恐る恐る目を開いた。
ようやく取り戻せた視界には、驚愕の表情で自身を見る一同の姿がある。とは言え、何故見られているのか、皆目検討も付かない。
「……? …えっと…」
静まり返った校庭に、玲の声が響く。
だが、喉から飛び出たその声色が余りにも高かったため、あれっ、と玲の中で嫌な仮説が鎌首を上げた。
「……まさか…」
その嫌な仮説は、どんどんと膨れ上がる。だが、それを認識するのが怖くて、玲は視線を下に下ろすことが出来ずにいた。
もし、もしもこの考えが正しいならば、きっと足元を見ることが出来ないだろうから。
「……」
助けを求めるような、そんな視線を向けてくる玲に対し、リィエルは何とも言えない表情を返す。
それと同時にカシャッと小さな音が響き、リィエルが何かを投げて寄越してきた。
受け取ってみると、それは玲のスマホだった。
どうやら、座っていた時にポケットから溢れ落ちたらしい。
(……デジャブ)
つい昨日、こんなことがなかっただろうか。
何やら声に違和感を覚えて、それからリィエルが投げ寄越したスマホを見て、それから……。
「──」
画面を見た玲の口から、声になら無い悲鳴が絞り出される。
炎のように鮮やかな紅蓮のサイドテール。蒼穹を思わせる、困惑気味の明るく大きな瞳。
汚れを知らぬ初雪のように白い柔肌。
そして、ジャージを押し上げる、いっそ凶悪とでも言うべき2つの丘。
見覚えのある可愛らしい少女の画像だった。
「……リィエルさんや…これって…」
「……」
無言。だがそれは、つまりは肯定の意を示していた。
「はは……ははは……」
渇いた笑いが込み上げてくる。笑う以外に、どうしろと言うのか。
そして──。
「……リィエル」
「……何だ?」
「オレな、もしかしたらあれはあの時だけで、大丈夫なんじゃないか…って思ってたんだよ。けど…なんかこうして、お前が撮った写真を見たらさ……」
「……」
「悪ぃ……(女体化)やっぱ辛ぇわッ……!」
変わり果てた姿で、玲はそう漏らした。
ネタに走ったのは、そうでもしないとやっていられなかったからだ。
「……そりゃ、辛ぇでしょ……」
ネタにはネタで返してくれるリィエルの存在が、何故だか無性にありがたかった。
「ちゃんと言えたじゃねぇか…(どういう訳か全くわかんねぇけど、とりあえず乗っとこう…)」
「……聞けてよかった…(いまいち状況が掴めないんだけど……乗っておこうかな)」
呆然と、少女と化した玲を見ながらも、ひとまずネタに付き合ってくれる雅と棗。何がどうなっているのかは、2人とも全くわかってはいなかったが。
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