7話 バーベキューと肉食系女子



「素蓋さん! 今日はバーベキュー大会ですよ! バーベキューっ!」


 ティフシーが山盛りの生肉を持ってオレの部屋に飛び込んできた。


 ちなみに朝の四時だ。ちょうど日が昇ってきたと思ったら、太陽がそのままオレの部屋に入ってきたような感じだ。


「ティフシー……さすがにまだ早い……っていうか、朝からそんな肉食うの……?」


「そうですよ! バーベキューは朝の五時スタートです! お肉食べるために、もう走り込み始めてる人たちもいますよ!」


「バーベキューに向かうエネルギーすごいな!」


 どんだけ肉好きなんだよ! オレも好きだけどさ!


「当然ですよ~! 今日は一番お肉を食べた人に、豪華な賞品が出るんですから!」


「豪華な賞品?」


 この世界にきて貧乏生活を送ってるオレは、ちょっと食いついた。


 ティフシーは肉を抱えたまま、笑顔で答える。


「これです!」


「え?」


「だから、景品はこのお肉ですよっ!」


「どんだけ肉好きなんだよ!」


 肉の大食いしたあと、もらって一番うれしくない景品だろ!


「お肉はみんな大好きですよ。筋肉を作るのに役立ちますからね! 素蓋さんも早く来てくださいね~!」


「うん、あと二時間くらい寝たらね~」


 ティフシーはオレに顔を近づけてきた。


 耳がくすぐったくなるような、可愛い声でささやく。


「いますぐ起きたら、胸触らせてあげますよ~!」


「マジでっ!? 急に目が覚めてきたぁああああああッッッッ!」


 オレは布団を両足で蹴飛ばし、両手をバネのようにして跳ね起きた。


「起きてくれましたね! じゃあ約束通りです!」


 ティフシーは笑顔でオレの手を握ると、自分の胸元に引き寄せた。


 ぐにゅっ。


「これはランクが一番高い『サバンナビッグカウ』のお肉なんですよ!」


 オレが触らされたのは、食材の肉の方だった。


「あ……うん。そっちの胸ね……」


「なんだと思ったんですか?」


 そう言って、ティフシーはハッとなる。


 顔を赤らめてオレを見上げる。


「いや、違うよ!? オレはただ純粋に『サバンナビッグカウ』の肉を触りたかっただけだからね! ほら、この感触、最高だよっ!」


 そう言って、もう一度握った瞬間。


 なぜか、世界が色づいた気がした。


 どこかで天使がラッパを鳴らし、外は一面に花が咲き始める。


 ふわふわとした柔らかい触り心地は、さっきまでとはまるで別の感触だった。


 なんだ、この全身が癒やされていくような快感は!


「あ……」


 よく見ると、オレが握っているのは牛肉ではなかった。

 

 ティフシーが沸騰しそうなほど、顔を真っ赤にしてオレを見つめている。


 ……あれ? この異世界って、女子中学生のおっぱい触ったらどうなるんだろう?



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「イェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! バーベキュースタートだァアアアアア!」


 マッチョな男が叫んでいる中、オレは店の手伝いで、プロテインドリンクを配っていた。


 ティフシーには許してもらえたのでセーフだ!


 しかし。


「この仕事は退屈だな!」


 いまからバーベキューの大食い大会をやるってのに、ドロドロのプロテインなんて飲むはずがない。


「レモン味の爽やかなプロテインだけど、どうですかー?」


 とりあえず、小柄な美少女に声をかけてみた。


 ぱっちりした目に、ニッコリした口。話しかけやすい感じの美少女だ。


 薄い水色のブラウスがふかふかのおっぱいを包んでいる。柔らかそうな感じだ。


「ありがとうございます! ちょっとお腹の準備体操したかったところなんです」


「準備体操?」


「はい、私は優勝狙ってるので!」


 小柄な美少女はそういってプロテインドリンクをいっき飲みした。


 胸元のネームプレートには『ピスカ』と書いてある。


「ごちそうさまです」


「いい飲みっぷりだね。ピスカ? 本当に優勝狙ってるの?」


「はい、こう見えて去年は三位だったんですよ」


 ピスカはそう言うと、あのゲロマズなプロテインを飲んだとは思えない笑顔で言った。


「お仕事がんばってくださいね! 素蓋さん」


「あ、うん」


 あの子が大食い三位?


 せっかくならマッチョたちより、あの可愛い子を応援したいな!


 そして、ついにバーベキュー大会が始まった。


 大食いの挑戦者はステージに集まっている。


「いよいよバーベキュー大会開始だァアアアアアアアアッッッ! まずは去年優勝のバイソンッッ!!!」


 特設ステージにいたのは、浮き輪のような腹をしたマッチョだった。


 かなり太っているが、筋肉量も並のマッチョたちの倍くらいある。


「去年はエルサイズのビッグカウを丸々一頭完食し、堂々の優勝ッッ!! 圧倒的なマッスルを持ち、食べた瞬間にカロリーを消費していく!!! 吸引力の衰えないただ一人のマッチョ!!! バイソンだァアアアアアアアッッ!!!!」


 いきなりすごいの出てきたーっ!!


 牛一頭食べるって、こんなのに勝てるやつこの世にいるのか!?


「続いて二人目! 去年、ビッグカウを七割完食!! かなりのマッスルを持ち、食べたものを早めに消化していく!!! 吸引力の衰えるそれなりのマッチョ!!! ブラウニーッッ!!!」


 紹介文ひどいな!


 バイソンのやつ使い回しただろ!


「そして、三人目ッ! 去年はスモールカウを半分食べて終了! あの日、彼女はまだ知らなかった。食べることの喜びを、そして勝利することの難しさを。再びこの舞台に舞い戻った小さなマッチョは、昨日よりも大きな自分を見つめて踏み出した。さあゆけ、ピスカ! 君の歩んできた道のりはウソじゃない。その小さな胃袋は、いつだって君と共にある。頑張れピスカー!!」


 一人だけJポップの歌詞か! そんな凝ってる時間あったなら、ブラウニーの紹介文もっと考えてやれよ!


「では、バーベキュー!!!スタートォオオオオオオ!!!」


 スタッフたちが一斉に肉を焼き始めた。


 バイソンは手掴みで肉を平らげていく。


 ピスカはもぐもぐしながらゆっくり食べている。


「うん、けっこううまいな」


 オレや他の参加者たちも、肉を食べながら三人の戦いを見守る。


「ォオ! バイソンが早くも半分完食!!! ブラウニーが後に続く。ピスカはまだ三皿で、苦悶の表情!! 早くも勝負の行方が見えてしまったか!?」


「やっぱりムリか~。もう苦しそうだしな」


 ピスカは序盤からかなり苦しそうな顔をしていた。


 これはもう勝ち目はないな。


「ペースは落ちてないんだけどなぁ~」


 そうつぶやいたとき、オレはあることに気付いた。

 

 ステージの奥で、ピスカの肉を焼いてるのはティフシーだ。


「これはもしかしたら、いけるんじゃないか?」


 オレはステージに飛び乗り、テーブルを飛び越えた。


「なっ、なんだ彼は!?」


 注目を集めてしまったが仕方ない。


「ティフシー! 肉焼くの代わってくれ!」


「え、素蓋さん? いいですけど」


「サンキュー!」


 オレはティフシーからナイフを受け取り、全力の技術(スキル)で肉をカットし始めた。


 硬い部位は薄くスライスし、柔らかい部分は小さなサイコロステーキにしていく。


 同時進行で網に乗せた肉をひっくり返し、焼き上がったら皿に乗せる。


「ティフシー、運んでくれ!」


「は、はいっ! 素蓋さん、すごいですね!!」


 オレはステージの奥で、徐々に注目を集めて始めていた。


「なんだ彼は!! 突然現れた救世主!!! 鍛え上げた腕のマッスルで、ピスカの食べやすいように肉をカットしていく!!!」


「おかわりですっ」


「な、なんと、ピスカのスピードが急上昇!!!! これまでのもぐもぐタイムがウソのように、ビッグカウを平らげていくーッッ!!!」


「な、なにぃぃ!!」


 バイソンの手は遅くなっていた。汗をぬぐいながら、オレとピスカを交互に見る。


 ピスカはいままでの苦しそうな表情がウソのように、美味しそうに肉を頬張る。


 ほっぺたの膨らみがハムスターみたいで可愛い。


 そして。


「試合終了ォオオオオオオッッ!!!! 謎のヒーローの登場から、一気に大逆転!!! ビッグカウ一頭とデザートのプリンを千個完食し、ピスカが優勝だァアアアアアアッッ!!!」


 デザートめっちゃ食ったな!


 ま、ピスカが優勝できてよかったな! オレは肉食系の女子も嫌いじゃないんだ!


 試合終了後、景品の肉を抱えたピスカがオレのところに来た。


「素蓋さん! ありがとうございました! 私が噛むの苦手なのに気づいて、助けてくれたんですね! 素蓋さんは私の一番好きなマッチョのヒーローです!」


「まあね! オレは気配りができる上に、料理もできる男だからね~!」


「素蓋さん、あの、よかったら私と一緒に……」


 ピスカはモジモジしながら、ぱっちりした目でオレを見つめてきた。


「足腰立たなくなるまで、朝まで私の部屋で……」


「!?」


「この景品のビッグカウ、一緒に食べませんか?」


「…………あ、うん」


 このあとオレは一晩中、肉食系女子の肉欲に圧倒された。



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