13.長き人生-Ⅰ

「ぐぬぬぬぬぬぬ……」


 特訓を再開してから二時間ほど経ったであろうか。

 太陽は既に自分の真上付近にまで上っている。


 落ち葉で埋め尽くされていたはずの広場は自分の前方部分だけ土が露出して幾らか削れており、突然の嵐に屋根を奪われたミミズや虫達が迷惑そうに引っ越しを始めている。


 その嵐の元凶である自分の魔法の特訓は言わば"扇風機の強"で難所を迎えていた。

 送り出す魔力の量を増やすと、いくら力強く指先の出口を窄めても押し返されてしまうのだ。

 試行錯誤を繰り返すうちに、体内で魔力をある程度まで圧縮出来たり、渦巻かせたり出来たりと色々発見はあったが、結局出力や指向性を決めるのは指先の出口のようなのだ。


 あーでもないこーでもないと悩んでいると、少し前から槍で地面に何かを描いていたセイルが徐に口を開いた。


「まあ初めての魔力行使でここまで出来たなら上出来じゃろう。一旦戻って飯にするかのぅ」


「え、これ上出来なの? まだ中までで強が出来てないんだけど……」


「送風機のような表現方法じゃの。なるほど初めてならば良いイメージじゃが、魔法は上を目指せば果てが無いからのぅ……。そのうち改めた方が良いかもしれんの」


「そうか……やろうと思えばいくらでも風を強く出来るんだもんね……」


「そういう事じゃ。まあ上手くいかぬ理由も帰りながら説明してやるから一旦戻るぞい」


「うん。わかった」


「キュウッ」


 そう言って二人と一匹で来た道を帰り始めた。


 来る時はセイルの後ろをついて歩いたが、何となくそんな気分だったので隣を歩いてみると、また嬉しそうに表情を綻ばせた。


(ちょ、ちょっと恥ずかしいな……)


「ほほほ。良いのぅ」


「そ、それで、おじいちゃん。上手くいかない理由って何?」


「おお、そうじゃったそうじゃった。なに、難しいことじゃない。単純に力不足じゃ」


「力不足?」


「体を動かしたり物を持ち上げたりするのに筋力がいるように、魔力を制御するのにもそれ相応の力がいるのじゃ。タケルは魔法に関しては生まれたての赤ん坊みたいなもんじゃからの。寧ろタケル風に言えば中まで出来ただけでも驚きなわけじゃ。魔力制御の才能があるぞタケル!」


「なるほど……」


 言われてみれば当然である。

 おじいちゃんと化してからやけに甘やかされているような気がしなくもないが、実際衝撃的な事なのだろう。

 昔の弟子の話から考えるに、生まれたての赤ん坊がいきなり走り回っているような感覚なのかもしれない。

 寧ろ恐怖である。


「あと、これはやってほしくない事じゃから先に言っておくのじゃが、魔力を制御するための力不足を魔力で補うという力業もあるのじゃ」


「なるほど。その手があったか……。でもそれって……」


「その分魔力を余計に消費するのぅ。まあこの力業をこなすのにもそれなりの魔力制御技術が必要ではあるんじゃが。まずはしっかりと一つの魔法を制御出来てからじゃの」


「そっか……うん。わかったよおじいちゃん」


 そうして話しながら歩いていると森を抜けて花畑へと出た。


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