第24話 お城へようこそ
「ねぇ、なんで私たちこんな所まで来てるんだろう」
「私に聞かないでくださいよ!」
若干涙目で私に当たってくるカトレアさん。隣を見れば何時も冷静沈着なリリアナさんもどこか緊張気味に見え、一番慣れていそうパフィオさんに至っては足元が僅かに震えている。
嵐のような一学期が終了し、私たち平民にとっては穏やかで心休まる夏休みに入って数日後、突如黒服を着た使用人さん(?)が持ってこられた一枚の招待状。
若干怯えながらも招待状を受け取り、おそるおそる裏返せば予想通り王家の家紋が押された
ことの始まりはあの授業参観。以前学園社交界の時にミリアリア王女様から、『今度お母様がみんなを連れて遊びに来なさいって言ってたわよ』とか言っておられたが、その時は所詮ただの社交辞令なようなものだと思い軽く流していた。っていうか誰が本気に出来るっていうのよ!
「そうだわ、今度ココリナさん達をお茶会にご招待したいのですがよろしいですか?」
授業の一環で日頃お世話になっている両親達を、私たち生徒が接待役となっておもてなしをした。まぁ、そこまで良しとしよう。
マリー先生から見学と称して来られたアリスちゃんのお義母様(王妃様)。至極当然のごとく私たち仲良し五人組のテーブルに着かれ、いきなり始まった母親達によるガールズトーク。
いやいやいや、王妃様、全然アリスちゃんとの関係を隠すつもりないよね? 寧ろアリスの母ですとか言って、普通に自己紹介してるじゃないですか。
この場にいるメンバーだと、恐らくリリアナさんとパフィオさんの両親とは多少なりと面識があるのだろう。パフィオさんのお母さんとは普通に会話が弾み、リリアナさんのお母さんは若干引きつりながらも会話が成立している。
少々、いやかなり私とカトレアさんの両親のことが心配になったが、意外や意外、両方の母親は最初こそは緊張していたが、会話が進むにつれ意気投合。不慣れな敬語を使いながらも会話が盛り上がり、私たち子供組すら入り込めない井戸端会議……コホン、ガールズトークに華を咲かせてしまった。
ただ父親組はそんな母親達の姿に若干怯え気味だったことは、子供なりに触れないでいてあげようと思ったものだ。
「あら、いいですわね。ですがよろしいのですか? その、フローラ様のお家というと……」
「お気遣いありがとうございます。主人にも話しておりますし、ご自宅まで馬車でお迎えを遣わしますので、何の問題もございませんわ」
「でしたらここは甘えさせて頂きましょうか。娘一人なら粗相をしてしまいそうで心配ですが、皆さんのお嬢様と一緒というのなら安心も出来ますし」
いやいや、色んな意味でダメでしょ。
てか、何お母さん普通にOKしてるのよ。
隣で珍しくリリアナさんがカップにお茶を注ぐ際に音を鳴らすわ、パフィオさんは何やら必死に視線で両親に訴えているわ、カトレアさんに至っては震えながら既に目元が潤んでしまっている。
唯一喜んでいるであろうアリスちゃんを見るも、どうも先ほど王妃様の親バカ全開を見せつけられ、恥ずかしさのあまり周りの様子を完全にシャットアウトしてしまっている。
うん、確かにさっきのは部外者の私でも恥ずかしいよ。逆を言えばそれだけ愛されて育ててもらっている、って言うことにはなるんだけれどね。
そんなこんなで私たち子供組の気持ちも知らず、目の前で着々と進んで行くお茶会 in レガリア城。
後日日程を決めて、改めて招待状を送ってくださると言うことでその場は終了した。
そして今……
「いらっしゃい皆んな」
思わず本気で逃げようかと思いかけていた矢先、笑顔で現れたのはドレス姿のアリスちゃんとミリアリア王女。
こうして改めて見てみると、アリスちゃんのドレス姿の方が違和感がないんだから不思議なものだ。いや、こっちが本当の姿なのかもと最近本気で思い始めている。
「じゃ、取り敢えず私たちの部屋に案内するね」
激しく拒否したいがアリスちゃんの先導の元、全員が後へと続いていく。
「さっき逃げようとしていたでしょ」ボソッ
「ひぃ!」
いつの間にかミリアリア王女が隣に来て、私にだけ聞こえる様に耳打ちをしてくる。
って、これ絶対私だけをからかっているでしょ!
前回お会いした学園社交界の時から思っていたが、どうも王女様は私で遊んでいる様にしか感じられない。少し前にアリスちゃんにさり気なく聞いてみたところ、『ココリナちゃんはミリィに気に入られたんだよ。あれでもミリィって王女様だからね、親しい間がらでないとこんな砕けた接し方はしてくれないんだよ』っと嬉しそうに教えてくれたが、平民の私としては全力ご遠慮したい気持ちだ。
「それじゃ好きなドレスを選んでね」
「………………はぁ?」
アリスちゃんとミリアリア様の部屋へとやって来た私たち。二人が同じ部屋っていうのも驚いたが、更にドレス用のクローゼット、いやこの場合一部屋丸々といった方がいいかもしれない部屋に連れて行かれ、目の前に吊るされたドレスの数々を指差しながら何やらとんでもない事を言ってくる。
この場合、普段使わないほどの間抜けな言葉が飛び出すのは仕方がないと思うんだ。
「えっと、ドレスを選んでどうするのかなぁ?」
「何バカな事言ってるのよ。着るに決まっているでしょ、あなた達が」
「「「「……」」」」
いやいやいや、私ならずも全員が固まってしまっているところを見ると、余程衝撃が大きかったのだろう。
確かに招待状には『気軽な服装でお越しください』と注釈が書かれていたが、これは私達平民に気を使わせない為に気配りしてくださったのだと思っていた。それがまさかここに来てドレスに着替えろとはどんな苦行ですか!
「ちょっ、ちょっと待ってください。パフィオさんとリリアナさんはともかく、私とカトレアさんはドレスなんて着たこともありませんし、テーブルマナーなんかも知らないんですよ。もしドレスを汚しでもしたら弁償なんってできませんよ」
リリアナさんとパフィオさんが何やら抗議の視線を送ってくるが、この際軽く見逃して欲しい。
だって見るからに高そうなドレスを着て慣れない仕草で汚しでもすれば、私は一生かかっても弁償しきれないだろう。
「汚れなんて気にしなくていいわよ。アリスが聖女の力でパパっとシミ抜きしてくれるし、破れたところでここにあるドレスはどれも普段着用だから、そんなに値がはるものじゃないはずよ。しらないけど」
まってまって、最期の一言が妙に気になるんですが!
確かにアリスちゃん達が着ているドレスは、以前学園社交界で着ていたドレスと比べれば質素な感じがしないでもないが、伯爵家のご令嬢であるパフィオが軽く引いておられるところを見ると、これらのドレスが決して安物であるはずがない事は明らかだ。
「できればそのー、ご遠慮したいなぁーって。えへ」
可愛く誤魔化してみたものの
「却下、決められないのならこっちで決めるわよ。早くしないとルテア達が来ちゃうじゃない」
うぅ、結局ささやかな抵抗も虚しく、大勢のメイドさん達に囲まれ私たちは各々のドレスに着替えるのだった……
って、あのお二人も来られるの!? そんなの話、聞いてないわよーーー!!
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