第3話 初冬の雨の夜に戻って来た!

年末が近づいて来た。明日からは12月、もう師走だ。クリスマスやら年末セールやらで、世の中は急にあわただしくなってくる。11月の終わりはずっと雨が降っている。秋から冬に移る冷たい雨、山茶花梅雨だ。


駅からアパートが近いのでなんとかしのげているが、会社から地下鉄の駅の入口まではかなり離れているので濡れてしまった。ズボンと靴がずぶ濡れだ。


アパートに着くとすぐに服と靴を脱いで乾かす。靴に新聞紙を丸めて入れておく。今日は帰りが遅くなった。もう9時少し前になっている。そういえば、家出して来た未希と出会ったのも丁度4年前のこんないやな雨の晩だった。


ドアをノックする音がする。聞き違いかな? やはり誰かがドアをノックしている。玄関へ行って「何かようですか? どなたですか?」と言うが、返事がない。


部屋に戻りかけようとするとまたノックの音がする。すぐにドアを開けた。雨に濡れた若い女性が立っていた。すぐに誰だか分かった。


「未希か?」


薄明りの中で頷いた。1年8か月ぶりの未希だった。


「入ってもいいですか?」


「もちろんだ。どうした今頃、何かあったのか?」


未希はうなだれて入ってきた。手には小さなバッグと折り畳み傘を持っている。ソファーに座らせると憔悴しているのがすぐに分かった。


雨に濡れて寒そうなのですぐにお湯を沸かす。コーヒーを入れてカップを手に持たせる。カップの手が震えている。別れた時よりも随分女らしくなっている。


「どうしたんだ、今頃、急に訪ねてきて、何かあったのか? 聞かせてくれるか?・・・・言わないと分からない。今でも俺は未希の保護者だから」


立て続けに話しかける。


「ごめんなさい。ここにおいてください」


未希はただ泣くばかりだった。理由を言わない。


「まあ、いいか、夫婦喧嘩でもした娘が実家に帰ってきたと思えば。寒そうだから風呂を準備する。入って温まりなさい」


俺はバスタブにお湯を入れた。未希はもう泣き止んでいたが、うなだれている。バスタブがお湯で満杯になるまでの間、どうしてやったものかと考えている。でも理由が分からないと対応のしようがない。


風呂の準備ができたので、未希に入浴を促す。未希は俺の目の前で服を脱ぎ始めた。とっさのことなので唖然として見ていた。


忘れていた未希の裸がそこにあった。腕と脚に青あざがある。あの時と同じだ。未希は無言でそれを見せたかったかもしれない。そのまま浴室に入って行った。


そうだ! 着替えとバスタオル。あの時と同じで、未希の着るものなんてこの男所帯にあるはずもない。この前と同じようにトレーナーの上下とシャツとパンツを出して持って行く。


「未希、着替えをここに置いておくから。いつかと同じトレーナーと下着だ。これしかない」


しばらくして、未希はトレーナー姿で俺が座っているソファーのところへ来た。


「相変わらずダブダブだな」


そう言うと、未希は初めて少し笑った。寂しそうな笑顔だった。


「あの時もこれを貸してくれましたね。ダブダブで大きかったけど暖かかった」


「どうした? 身体に青あざなんか作って」


「彼に暴力を振われました」


「いつもか?」


「最近、ひどくなりました」


「それで家出して来たのか?」


未希は頷いた。未希の左手の薬指に指輪の痕が残っていた。これからどうしてやったものかと考えていると、未希が抱きついて来た。


「抱いて下さい。好きなようにして下さい。あの時と同じように。そして私をここにおいてください」


抱きついてきた未希を俺は力いっぱい抱き締めた。未希の身体はあれから少しも変わっていない。未希の匂いがする。懐かしい未希の匂いがする。


このまま俺のものにしたいと思ったが、思い留まった。未希から身体を離す。


「未希、それはできない。未希は今、結婚している。俺が今、未希を抱けば、未希は不倫をしたことになる。未希にそういうことをさせたくないし、俺もしたくない」


「あの時は私を思い通りにしたのに」


「あの時、未希は、見ただけで結婚していないのが分かったし、18歳だと言った。確かに俺は未希に人には言えないようなひどいことをした。今はそれを悔やんでいる。だからなおさらできないんだ」


「分かった。おじさんは私を大事にしてくれた。今も大事にしてくれる。ありがとう」


「今日はここに泊めてあげる。俺のベッドで寝るといい、俺はこのソファーで寝るから。明日は金曜日だが、俺は会社を休む。朝からゆっくり話を聞こう。今日はこれで休んだ方が良い」


俺も突然のことで気が動転していた。しばらく考える時間が欲しい。未希は奥の部屋に行った。しばらくしてから覗くともう眠っていた。俺は風呂に入ってからソファーで寝た。


目が冴えてほとんど眠れなかった。未希を抱き締めた感覚が腕やら胸から抜けなかった。


未希がほしいと思った。未希を抱きたいと思った。あそこも固くなって、未希を抱けるほどに甦っていることに気づいた。嬉しかった。


絶対に未希を取り戻して、今度こそ俺のものにする。どんなことをしても。そう決心した。

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