第28話

『Webの二問解けたよ。これからネットワークの一問目やるね』


 二海はチャットに書き込み、すぐNetworkの問題を開いた。時計を見ると、三時十分前だった。二時間ほどで二問解けたわけだから、ペースとしては悪くない。


 Networkの一問目では、通信ログのダウンロードリンクが置かれていた。ダウンロードしたファイルをWiresharkで開くと、ずらずらたくさんの通信内容が表示された。


 上から下までをざっと眺めてみると、ポート番号8888に対してのリクエストが多かった。これが怪しそうだ、と二海は8888番ポートへの通信内容だけを絞り込むように設定し、そのリクエストの中身を確認した。


 リクエストに対するレスポンスの内容をファイルとして書き出してみると、小さな画像だった。白地に黒で『a』とある。次のレスポンスも同じく書き出すと、『j』となった。その次は『s』。


 つまりこれを順番に書き出していけば、『ajsec_junior_』と続いてフラグが得られるのだろう。二海はせっせとクリックを繰り返し、ファイルを書き出しては保存した。間違えてファイルを上書きしてしまうトラブルもあったが、何よりレスポンスの数が多く、その作業には時間がかかった。


 それでも全部のファイルを並べると、『『ajsec_junior_{88b9aaaf925f731b73d8f90930b4e8e9}』というフラグを手に入れられた。


「疲れた……」


 二海は椅子の背にもたれ、低く息を吐いた。コーヒーをポットからついで、少し口に入れた。


 チャットを見てみると、さきほど自分の書き込んだメッセージに笑顔マークの絵文字がひとつ、リアクションとしてつけられていた。


『こっちは二問目終わって今から三問目』


 とゆあんが書き込んでいる。桃からのメッセージは無い。集中して問題に取り組んでいるのだろうか。さっきの問題でいやに時間を使ってしまったし、さっさと次をやろう、と二海はWebの三問目にとりかかった。


 地図が大きく表示されている。その上には『AJSEC MAPはオンライン地図サービスです。第一回AJSECの会場である東京理工大学の周囲五百メートルの地図を閲覧できます。ちなみにフラグは富士山山頂に埋まっています』と書かれていた。


(これは……あんまりなかったタイプの問題だなあ)


 一問目、二問目とはだいぶ違う。あれは知っている解法を当てはめて解けばそれでよかったが、これは自分で道筋を立てなければいけない。


 もしこれが解けなかったら、という恐れが二海の心をかすめた。時間をかけた挙げ句解けなかったら。他の問題もできなかったら。私のせいで五位以内に入れなかったら。しかし二海は強いてそれを無視して、問題そのものに意識を向けるようにした。


 まず、二海は地図サービスをいろいろいじくってみた。使い勝手は、機能の極端に制限されたGoogleマップに似ている。ドラッグするとその方向の地図が表示され、建物や道の名前が表示されている。右クリックすると『この場所について』というメニューが出てきて、それを選ぶとフォームが出てきた。適当に『あああ』と入力すると、その場所に黄色いコメントアイコンが立った。コメントアイコンをクリックすると、先程入力した『あああ』がそのまま表示された。


(フラグが富士山に埋まってるってことは、富士山の地図を出せばそこにこのコメントが出てるんじゃない?)


 二海は地図を左へ左へとドラッグした。しかしすぐ行き止まりにあたり、それ以上スクロールされなかった。『東京理工大学の周囲五百メートル』に行き当たったのだろう。


 この地図には、縮尺を変更する機能はなさそうだった。富士山にあるというフラグを、富士山からずっと離れた場所の地図しか見られないこのサービスで、どうやって取ればいいのだろう?

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