第6話 林檎

いつもの帰り道

季節外れの林檎が落ちてきた

僕にはない幸せだった

誰にも取られないようにシャツの中に隠す

そのまま素知らぬ顔で家路に急ぐ


時がたつほどに林檎は芳醇で甘い香りがする

しばらくその香りを楽しんでいると

僕の手から実はするりと抜け落ち

手のひらをかすかに色づけた


僕は

想い出を都合良く着飾り

誰より何も持っていなかった

黄昏時に美しく色づいた手のひらをかざす

手を抜け落ちたものは大きく

僕は次の林檎を手にする術を知らなかった

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