4 : Ally
眉間を狙った槍の刺突――剣で逸らしたリョウは、流しながら剣を相手の胴へ。
引き戻された槍の柄が剣を横に逸らし、槍先がリョウの頭上を狙う。
一歩前進。振り下ろされる槍の柄をリョウは左手で掴み、横に流す――今度は胸に向かって繰り出される反対側の槍先。
横から剣で叩いて軌道を逸らし、続けて横に振る――またも槍に受け止められる。
槍に固定された剣を、リョウの右手は逆手に持ち、刀身を引いて今度は反対側から、突く。
長い柄に逸らされる。咄嗟に剣をトスし左手に持ち替えたリョウ。踏み込みながら、剣先を相手の腹へ。
斬撃を受け止める為に出した槍の柄をリョウの右手が掴んだ。槍が自由を失っている所へ、剣先が心臓を狙う。
向こうの手がリョウの剣を持つ腕を掴む――槍は両者の腕が絡め合うように引っ張り合い、拮抗。
対峙した状態から一変、リョウは剣を故意にその場で落とした。
集中――自分の体表から“エネルギー”が流れ込んでくる。吸収時間〇・五秒。
“エネルギー”は体表から脳へ集められ、作り変えられる。その“エネルギー”は脳から出力器官、この場合は掌へ向けて流れる。
“エネルギー”は、見えない、聞こえない、嗅げない、味わえない、触れられない。
だが、“感じる”事は出来る。現にリョウは、自分が吸収して変換し、これから発射する“エネルギー”が掌に集まっている事を認識していた。
そして発射――一発のみ、射出速度は秒速三四〇〇メートル。物質に命中した際に熱エネルギーへ変換する作用を持つ。
至近距離で発射された“エネルギー”は相手の体の中心目掛けて勢い良く発射、するつもりだった。
相手がリョウの行動を察知したのか、掴んだ手首を瞬時に外側へ逸らす。“エネルギー”は何処かへ飛び去った。
次の瞬間、リョウの掌の延直線上にあった敵の装甲車が爆発、破片が撒き散る。
「これでどうだ!」
ニヤリ、と勝利を確信したリョウ。対峙していた男は槍とリョウから手を離す。
青年の肘から先を見ると、空気が揺らいでいた。熱によって空気の屈折率が変わり、それが外側へ流れる事によって陽炎の如く見えるのだ。相手はこの灼熱から逃れる為に離れたのだ。
青年の足元には槍と剣。相手はそれを人目見るなり、すぐに視線を戻した。
リョウの左右の掌が相手に向けられ、放出される大量の“弾丸”。
「逃げんなよっ!」
後方へ下がりつつ避ける相手。それを許さぬリョウは、追いながら弾丸を無差別にばら撒く。
その差は大きかった。リョウはあっという間に逃げる相手へ追い付き、“エネルギー”の弾丸が数発命中する。
怯んだのを確認し、至近距離まで接近。その顔面に横蹴りをヒット。首へ手刀を当て怯ませ、腹部へありったけのブローを浴びせる。
「電子レンジに入れられた冷凍食品の気分を味わさせてやる!」
倒れかけた相手の首を右手で乱雑に掴み、“エネルギー”を一気に送り込む。
次の瞬間、相手の首が熱により、電子レンジに入れた卵のように爆散、頭が弾け飛んだ。
胴体はぐったり倒れ、二度と動く事はなかった。乱雑に死体を投げ捨てる。
「あの野郎意外としぶとかったが、せいせいしたぜ」
「呟く暇があったら次行って働いてくれよ! トレバーのお蔭で不意打ちを防げたのは良いものの、戦力差が大きいんだよ!」
不満を叫ぶハンがまだナイフを持つ男と格闘を繰り広げていた。リョウは詰まらなさそうにそれを見る。
「ハイハイ、行けば良いんだろ? お前も気を付けろよ」
「もうすぐ片付く。そちらもね。前線は任せたよ」
「ああ、奴らに小便ちびらせてやるぜ」
リョウは笑顔で親指を立て、ハンに見せたまま何処かへと走り去った。応じてハンも親指を立て返し、気を取り直して正面に集中する。
相手の右手が握るナイフの先端が伸びる――ハンの右拳がその手首を殴り逸らした。
ナイフを痛みと同時に捨て中華系青年へダッシュ。連続で飛ばす拳。
腕で交互に右、左、右、左……と受け流し、ハンの番。腕の回転を利用して出しては戻し、敵に攻撃の隙を与えない。
腕を胸の前に掲げて防御する。が、中華系青年の拳が隙間をすり抜けた――顎へ一撃。
際限なく拳を打ち続け、相手は攻撃の機会を失っていた。
容赦無きアジア青年。尖らせた指先で耳の根元を叩き、ローキックが膝を折る。
相手が倒れそうになるが踏み止まる。反撃に拳を飛ばし、顔面を殴ろうと……
ハンの裏拳が相手の肩を殴り、攻撃は中断された。次なる敵のキックも、ハンは根元の腰に横蹴りを一発当て、止める。
痛みがスタミナを蝕む。相手は残った力を振り絞って無理矢理ハンに掴み掛かった。
相手の右手がハンの左手を、ハンの右手が相手の左手を、掴んで固定。
体表から吸収、脳へ送って変換、掌から放出。リョウの時と工程は同じだが、内容は違う。
放出された“エネルギー”はそのまま相手の腕に直撃――相手は突如襲った衝撃に、目を見開いた。
掴んでいた右手は離したが、掴まれた左手は全く動かない。痺れる感覚は徐々に残った力を奪う。
「ヤッ!」
ハンが表情を一変し、握る力を倍増。バチッ!――火花が暫く続いた。
大電流を受けて接触面を焦がされ、電気ショックによってハンに捕らえられた人物は静かに息を引き取った。
ちなみにハンはこの「電子操作」を利用し、あらゆる電子機器や複雑なコンピューターに電気信号を送る事で操作も可能だ。数時間前に見せた、とある施設のシステムの一時的なハックも彼がこの能力を活用したものだ。
黒ずんで倒れた死体から掴んだ手を離し、息を整えながらハンは耳に装着した通信機に手をやった。
「こちらハンだ。今から防衛に向かう」
慌てた早口で言い終えると、すぐさま何処かへ走るアジア人。辺りではまだ銃弾や砲弾が争っていた。
両側面から攻めて来る二人の斬撃。左右の腕に装着された籠手で防ぐ。
トレバーは合計四本の剣を相手に防戦一方だったが、策が無い訳ではない。
右方の振りかぶる右腕を掴み、籠手でもう片方の剣を防ぐ。
掴んだ腕が握る剣で、左方の攻撃を防ぐ。空いた拳を左方の胸へ決め、飛ばす。
右腕を掴まれたままの右方が、下から左の剣先をアラブ人の腹部へ。左籠手が腹への突きを逸らした。
もう一度引こうとする腕も左手で掴み、自由を失った正面から苦し紛れの前蹴り――トレバーの左前蹴りが打ち落とし、そのまま相手の足を踏み付ける。
横へ目をやる。別の相手が剣を上に掲げていた。すかさず、下される刃を右のすね当てで蹴り止める。
右足を地に着け、重心。掴んで動きを封じた方を後方へ投げ払った。
引き離して連携を封じればトレバーはもはや余裕だった。
心臓を狙う刃――上半身を引きながら側面を両手で止める。同時に相手の腰へミドルキック。吹き飛ばすと同時に剣を奪い取った。
他方が戻り、二本の刃を振るう。しかし今度は勝手が違った。
トレバーが持つ一本の刃が繰り広げる攻防。相手は気を取られていた。
と、不意に左脛に衝撃――成すがまま、左膝を地面に着ける仮面。
別の敵が後ろからトレバーを突き刺そうと突進する。途端、跪いた男の肩を支えに前方へ一回転、反対側へ。
後方の背中を蹴り飛ばし、突進して来た男が慌てて刃を引っ込めるが、仲間との衝突を防ぐ事は出来なかった。
着地し、後ろで止まった敵二人の元へ、駆け込みながら右振り下ろしパンチを発射。
間一髪で相手が掌で拳を受け取り、もう片方が起き上がりながらアラブ系男性へハイキック。トレバーはそれを左の拳で迎え撃つ。
トレバーが“意志”を左右の籠手に送った。オン・オフだけの単純なパターン、そのお蔭で一瞬の内に素早く切り替える事が出来る――今の様に。
右籠手から長さ二十センチメートルの刃が腕に沿って飛び出し、拳骨を掴む掌を貫く。左籠手から突き出した同じ長さの刃も、同様に迫り来る足を突き刺した。
痛覚に手足を引っ込める敵二人。無口だが表情の歪みは隠し切れておらず、動きが止まる。
二人の頭をそれぞれぐいと掴み、胸の前でガツンとぶつけた。そこへ伸びる刃付き籠手。
グサッ、と子気味良い音――二つの命がこの世を去った。
頭に突き刺さった刃を引き抜き、トレバーは表情一つ変えず籠手の刃を引っ込め、睨むように前を向く。
離れた所につい先程倒した敵達と同じ格好をした者、それも五人。例外なく人相が輪から名ぬマスクを付け、二本の剣を持っている。
(どうやら俺の邪魔をするのが目的らしい)
突進する十の足音、風を切る十の刃。トレバーは何も動かなかった。
トレバーの姿が揺らいだ。
地面を軽く蹴り、先頭の二人へ急接近。対する相手二人はアラブ人の動きを捉えられていなかった。
腹部へ刃無しの拳を、それぞれに叩きつける。拳が敵の表面に触れると同時に“エネルギー”を送った。
接触瞬間の僅かな時間。体表から脳、そして腕を経由し手に、至近距離で発射。
トレバーに触れた二人の人物は二つの出来事に驚いた。一つは、目の前の男が一瞬で目と鼻の先に移動していた事。
もう一つ、何の変哲も無いボディブローを食らった瞬間の事だった。パンチ自体の衝撃は当然あったが、攻撃を受ける立場の彼らにとって、余計なものが付加されていた。
体が動かない。疲労でも麻痺でもなく、誰かに掴まれて固定された訳でもない。自分の意志で体が動かせなかった。
ほんの一瞬だけ、でも効果は絶大だった。
動作不能になったのは意識的に動かす筋肉だけでなく、無意識的に脳が操作する器官を含む。バランス器官を一時的に止められただけで、二人は成す術もなく地面に寝転がってしまった。
残る二人。一斉に飛び掛かる。
一人目の飛び蹴り。体を半歩横に移動して躱し、ラリアット。
二人目のストレート。頭を傾け、避けたところでカウンターのストレートを顔面にめり込ませた。
三人目の回し蹴り。体勢を低くし回し蹴り、腹に炸裂する。
例外なく、それぞれ相手に触れた手足から“エネルギー”を送り込んだ。その度に平衡感覚を失った人体が地面に転がる。
籠手から生えた刃が容赦なく、起き上がろうとおぼつかない五人の左胸を平等に貫通した。
死体に目もくれず、トレバーはその場を立ち去る。戦闘中に感じた疑問を残しながら。
(妙だった。全員が“同じ”だった。人物としての違いはある筈だのに“本質”がまるで同じだった。“標準”に比べて劣る様でもあった……)
移動しながらトレバーはこの事を後で報告すると決心した。
(どうやら俺を危険視しているらしい)
更に遠目に見える人影を眺めながら……
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