第165話 心の中にある不安
ジョン、バーント、ヴィラックが村へ戻り、
その足で村の医師のもとへと向かったのは、
「裸の女が、人一人を抱えて走っていった。」
「抱えられているのは、あれは恐らく黒髪だった。」
「ただならぬ様子で医師の家のほうへ向かっていた。」
「ロスティ様や村長が同行していた。」
と、村の中のあちらこちらから、
村人たちの噂話が耳に入ってきたからであった。
その村人たちの中には、
「村長が何かに怯えるように走り去っていた。」
その姿を見た者がいて、不安を抱いている者達もいたが、
それをジョン達が聞こえるようなところで話す者はいなかった。
「いったいどうしたんだいっ? 」
駆けつけたジョンが診察室に入ると、
「今、ようやく落ち着いて 寝ているところだから。」
騒がしく来た三人へ、アルテナが注意をした。
ソーマはアルテナの手を握ったまま、
アルテナに両手で、手を包み込むように握られたまま、
穏やかな顔で寝入っていた。
*
「ふぅん……」
ヴィラックはソーマの胸元を見て、
ニタリと笑みを浮かべていた。
ソーマの胸元にソーマは片手を置いたまま、
その手に青白い女性の腕が
黒い魔力の
(この村で おれやお姫様が感じていたのはコレか?――)
ヴィラックがそんな疑問を抱くと共に、
女性の腕は
(……他に誰が見知ったのか、気になるねぇ……)
ジョンもバーントも、アルテナもロスティや医師の男性も、
それに気づいた様子もなく、ヴィラックは口を閉じ
遠巻きに この場を見守ることにしていた。
*
ソーマが教会で急変した時の様子や、
それまでに看病をしていたアルテナ達の話を聞いて、
医師が診察をした結果、
「診察をした限りでは、病み上がりで歩きまわったため、
不調がぶり返したかにしか思えないのだが……」
と、思案顔で医師はアルテナ達に言い、
「精神的な面で負担が大きくなると、
肉体にも強く影響が出るのだが、何か心当たりは? 」
心当たりのあるアルテナ、ジョン、バーントの三人は、
各々、苦い思いをして目を伏せていた。
その三人の様子を見て察した医師は、
「ふむ……こればっかりは、薬などで簡単に治るものではない。」
と、ソーマの事に関して、アルテナ達に任せることにした。
現実世界における精神科医、心療内科というものが、
この世界には確立していないからで、
心を落ち着けたり、不安を
*
医師の診察を終え、ソーマも落ち着いて寝ているわけだが、
そのまま医師の家で寝かせておくわけにもいかず、
ソーマを起こさないようにバーントが抱き上げて
借りている家へと戻っていった。
その道中、
(精神面での負担……)
ロスティはアルテナたちに同行しながら、
一番後ろの位置で歩きながら、
バーントの背中で見えなくなっているソーマを思った。
(いろんなことが、負担になるようなことがあった……)
医師に聞かれた時の彼らの様子を見て、
村の中で黒髪を周囲に見られた時のことを思い出して、
(自力で動けなくなるくらいに……)
礼拝堂の中での異変時のソーマの様子を思い出して、
ロスティは杖を握る腕に力がこもってしまっていた。
先ほどの、ソーマとアルテナの様子を
手を握りあう様子がロスティの脳裏に浮かび、
(本当なら―― )
不調により不安になっているソーマの手を
優しく両手で包み込む自分の姿を想像してした。
常日頃ロスティが手にしている金の装飾がある杖も、
普段から着ている白の
(不安を取り除くのは、私の役目……)
村の、信徒たちの、人々にパルステル教の教えを説き、
その心にある不安を取り除くことが、
カラパスの村でのロスティの役目であった。
(なのに私は、ただ見ているだけで、
何もできなかった……)
その想いが、ロスティの心の中に残ってしまっていた。
それらを思い考えるあまり、
アルテナ達と共に行動している姿を
村人たちに見られていることに、ロスティは気づかずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます