第107話 加工屋の中と外

 ずぶ濡れだった よくわからない女の人がやってきたと思ったら、

どうやら加工屋の外で何かが起きていて、

ジョンの声から思うに、おれが何者かに狙われているみたい……


 どっちの悪も、向かう先は おれ……か……


 おれの髪が黒いからか? ……



 外が大変なことになってるみたいだけど、


 おれと同じ黒髪の女の人が

いつまでも胸と腰にタオルを巻いただけってのも体裁が悪いので、

アインさんには悪いけど、作業着オーバーオールと半袖のシャツを勝手に借りた。


 おれの目の前で髪色を変えてみせた女の人だけど、

何を考えているのかわからないし、

いつ外にいるであろう何者かが店に入ってくるかわからないから、

 おれがさっさと彼女に作業着と白いシャツを着せることにした。


 恥ずかしくないのか、女の人はされるがままだった……


 名前もわからないみたいだし……困ったなぁ……



 でも、本当に狙われているのって おれか?


 髪が黒いだけなら、この人だって黒だし。

あー、でも この人は、髪の色を変えられるんだった……


 考えれば変えられる……だっけ?


 おれも何か、そういうスキルとか能力が身に付かないかな……



 そういえば、悪って ばかり思いこんでて、

ずっと考えないようにしていたけど、


 もしかして、今 襲ってきてるのって……街の人達なのかな……



 店の外の様子が……すごい気になる……





「うごぉおおおおおぉぉぉぉっっっ!! 」

「「「「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!! 」」」」


 加工屋の入り口前、分厚い腕鎧を振るう『殴牙おうが』のラグウォート。


 彼の巨体と盛り上がった筋肉から繰り出される重い一撃一撃を、

加工屋の職人であるヒューズと彼の弟子――屋子やこであるアイン、

そして屋次子やじこたちが総出で受け止め、

 またちから比べの形で、ラグウォートの動きを止めていた。



「ふっ……次から次へと。」


 分厚い大剣を持った赤い髪の男――『火村ひむら』のアデニは、

国の兵士たちに加工屋の男達にと、今の状況に喜びを感じていた。


 国の兵士であるヘムロックとシェンナ、冒険者であるエイロー。

 ソーマを守るために剣と盾を構えたジョンと、

ソーマを連れ去ろうとやってきたカルミア、ラティ、フォリア。

それぞれの思惑は違えども、アデニ達『両手探りょうてさぐり』を危険視していた。


 『両手探』の『貫刺かんし』のサリングは槍を構え、

姦乱かんらん』のカランは柄の長い短剣を二つ、両手に構えていた。



「ラグウォート! いつまで遊んでいる!! 」


 アデニの一喝いっかつに力比べをしていたラグウォートは、


「ぐぉあああああぁぁぁっ!! 」


「「「「うわあぁっ!? 」」」


 唸り声を上げてヒューズたちを突き飛ばし、

後ろに一歩二歩と跳んで距離を取ると――


「潰すっっ!! 」


 ―― ぐるりと一回転した遠心力を利用して、

加工屋の壁を二度 殴りつけた。


 石材と木材とで作られた建物の壁は、

彼の一撃で大きくヒビが入り、

二撃めで壁が崩れ、彼らが進入できるほどの穴が開けられた。



「か、壁がっ……」


 ヒューズたちは その光景に呆然とし、


「くっ!! たあぁぁっっ!! 」


 ジョンはラティやカルミナ、ヒューズたちを押し退けて、

アデニたちに剣で攻撃を仕掛けた。


「そうはさせねぇって。」

「ちっ!? 」


 サリングがアデニとの間に入り、

ジョンの剣先を槍の先端で弾いて逸らした。


 サリングの槍の先端が下がる勢いで 後端が横殴りにかかるのを、

ジョンはギリギリのところで姿勢を低くして避けたが、

勢いが削がれて後退あとずさりさせられ、それ以上近づけなくなっていた。



(工房の方から中に入られる……)


 ジョンは出入り口のほうを守っていたわけなのだったが、

壁を壊されるとは ジョンも思っていなかった。


 その焦りから仕掛けた攻撃を 槍を持ったサリングに妨害され、


 ジョンが視線をサリングより遠くに向けると、

 アデニ達は加工屋の中に進入する前に、

衛兵士の連中と戦闘をするようであった。



(こっちに来ないでくれよ……)


 ジョンは、ソーマが物音を聞いて、

こちらへ来ないことを胸の内で祈っていた。

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