第103話 襲撃者の名は
は、恥ずかしくないのかなぁ……
突然やってきた ずぶ濡れだった女の人は、
肌を隠すことなく 濡れた体をタオルで拭いていた。
胸もシアンさん以上にデカいみたいだし、
出逢って いきなり口の中なんて……
思い出すだけで……
よく見たら この女の人、無表情だけど美人だ……
ずぶ濡れだったり、この世界での黒髪だ、っていう印象が強いけど、
女性ってだけで見ると肌もなめらかでキレイだし、
髪も凄いツヤツヤしてる。
あの出会いさえなかったら、って思うくらい。
「あの……」
「……? 」
切れ長の目でチロっと見られた。
なんか表情がないんだけど、色っぽいな……
「おれ、
「……、……、……」
あれ?
「……、……、名前……? 」
女の人、体を拭いている姿勢のまま固まっちゃってる……
何をしに来たんだろう? って思ったけど、
もしかして記憶喪失?
それとも、冒険者っぽい恰好しているから、
おれは彼女をこの世界の人だと思ったけど、
そうじゃなくて、おれと同じ世界から来た人なのかな?
「名前……ないんですか? 」
「……、……、ない。」
マジか……記憶喪失の方なのかな……?
あれこれ考えても しかたないか。
とりあえず、何か服を着てもらおう。
*
(これはいったいどういうことなんだ!? )
ジョンとカルミアの思いは一緒だった。
ジョンは魔物だけでなく、
ソーマを狙う者たちのことも考えてはいた。
屋敷には屋敷で抱えの冒険者たちがいるし、
加工屋には自分を含めて屈強な男達がいる。
外でバーント達が魔物の群れと戦っている間、
彼の身の安全を守ろうとジョンは心に誓っていたのであった。
一方、カルミアたちは街の外で戦闘がある間に、
ラティを助けた礼をするという名目で、
ソーマをクネガーの屋敷へと連れ出そうとしていた。
彼一人だけが望ましいが、もし他の者が同行した場合、
屋敷内で仲間に『処理』させることも決めていた。
そしてもしも、カルミアたちの向かう先に
彼が居なかった場合も考えて、
ヴィラックたちをパプル家の屋敷へと向かわせていた。
彼女達は、今まで潜ませていた仲間を殺した彼らを知らなかった。
ラティとフォリアは、すぐに彼らから離れるように、
また、カルミアの後ろへとまわりこんでいた。
彼らがジョンとカルミア達の様子に
じろりと目を向けていると
「貴様ら、ここで何をしている!? 」
彼らの後方から、男性の声が響いた。
*
(なんで一緒に行動しないといけないのよ……)
シェンナは、先頭を歩くヘムロックと、
自身の隣を歩くエイローの姿を視線に入れて、
心の中だけで毒づいていた。
街の外ではもうじき、
冒険者たちと魔物の群れとの闘いが始まっている頃だろう。
そう思うと、自分たちも共に戦うべきだとシェンナは思うのだが、
今は隊長に連れられて、街中の警備のために巡回をさせられていた。
顔なじみだから、と、ヘムロックはエイローを引き連れていた。
(いつ知り合ったのよ……)
シェンナがエイローからの話を隊長に伝えた時、
彼は頭ごなしに信じずにいたのが、まるで嘘のようであった。
シェンナから見てエイローもまた、
自分より立場が上のヘムロックに良い顔をしているようであった。
それがおもしろくなくて、シェンナは不満であった――
*
ヘムロックは、雑務とか面倒なことを同じ隊長の立場の者に任せ、
黒髪の人間の事に関わったシェンナとエイローを連れて、
街の警備の巡回にあたっていた。
クネガーからの暗黙の依頼のこともあるし、
ヘムロック自身、その目で黒髪の人物を確かめたかったからであった。
そして偶然にも――
「貴様ら、ここで何をしている!? 」
―― 加工屋の前の通り道で凶行に及んだ者たちと遭遇し、
ヘムロックは衛兵士の隊長らしく、声を上げた。
*
「ふむ……おもしろい。」
首をぐるりとまわして赤い髪を振り、
筋骨隆々な男性が落ち着いた声で呟いた。
彼らはジョンとカルミア達の方を向いていたが、
ヘムロック隊長たちが後方にやってきたため、
両者に挟まれる形になっていた。
「サリング、こっちがそうだろうな。」
「わざわざ女を向かわせるんだから、そうだろうよ。」
サリング――と槍を持った髪の黄色い男と言葉を交わし、
「我らは黒魔導教団、シュロソ導師の配下にて、
『
自らの素性を――
「――『
『
「あー……」
「ケッ。」
あきれ顔のサリングと紫の髪の女性を――
「――『
『
「うふふん。」
「潰す……」
―― そして柄の長い短剣を二つ持った薄赤色の髪の優男と、
分厚い腕鎧を装着している黄色い短髪の大男の素性を名乗り――
「我等『
死ぬ前の我々からの贈り物だと思え。」
―― アデニは鉄板のような大剣を、
ヘムロック達に向けて構えていた。
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