第103話 襲撃者の名は

 は、恥ずかしくないのかなぁ……


 突然やってきた ずぶ濡れだった女の人は、

肌を隠すことなく 濡れた体をタオルで拭いていた。


 胸もシアンさん以上にデカいみたいだし、

出逢って いきなり口の中なんて……



 思い出すだけで……



 よく見たら この女の人、無表情だけど美人だ……


 ずぶ濡れだったり、この世界での黒髪だ、っていう印象が強いけど、

 女性ってだけで見ると肌もなめらかでキレイだし、

髪も凄いツヤツヤしてる。


 あの出会いさえなかったら、って思うくらい。


「あの……」

「……? 」


 切れ長の目でチロっと見られた。

なんか表情がないんだけど、色っぽいな……


「おれ、蒼真ソーマって言うんですけど、お名前は? 」

「……、……、……」


 あれ?


「……、……、名前……? 」


 女の人、体を拭いている姿勢のまま固まっちゃってる……



 何をしに来たんだろう? って思ったけど、

もしかして記憶喪失?


 それとも、冒険者っぽい恰好しているから、

おれは彼女をこの世界の人だと思ったけど、

そうじゃなくて、おれと同じ世界から来た人なのかな?



「名前……ないんですか? 」

「……、……、ない。」


 マジか……記憶喪失の方なのかな……?



 あれこれ考えても しかたないか。



 とりあえず、何か服を着てもらおう。





(これはいったいどういうことなんだ!? )


 ジョンとカルミアの思いは一緒だった。



 ジョンは魔物だけでなく、

ソーマを狙う者たちのことも考えてはいた。


 屋敷には屋敷で抱えの冒険者たちがいるし、

加工屋には自分を含めて屈強な男達がいる。


 外でバーント達が魔物の群れと戦っている間、

彼の身の安全を守ろうとジョンは心に誓っていたのであった。



 一方、カルミアたちは街の外で戦闘がある間に、

ラティを助けた礼をするという名目で、

ソーマをクネガーの屋敷へと連れ出そうとしていた。


 彼一人だけが望ましいが、もし他の者が同行した場合、

屋敷内で仲間に『処理』させることも決めていた。


 そしてもしも、カルミアたちの向かう先に

彼が居なかった場合も考えて、

 ヴィラックたちをパプル家の屋敷へと向かわせていた。



 彼女達は、今まで潜ませていた仲間を殺した彼らを知らなかった。


 ラティとフォリアは、すぐに彼らから離れるように、

また、カルミアの後ろへとまわりこんでいた。



 彼らがジョンとカルミア達の様子に

じろりと目を向けていると


「貴様ら、ここで何をしている!? 」


 彼らの後方から、男性の声が響いた。





(なんで一緒に行動しないといけないのよ……)


 シェンナは、先頭を歩くヘムロックと、

自身の隣を歩くエイローの姿を視線に入れて、

心の中だけで毒づいていた。



 街の外ではもうじき、

冒険者たちと魔物の群れとの闘いが始まっている頃だろう。


 そう思うと、自分たちも共に戦うべきだとシェンナは思うのだが、

今は隊長に連れられて、街中の警備のために巡回をさせられていた。



 顔なじみだから、と、ヘムロックはエイローを引き連れていた。



(いつ知り合ったのよ……)


 シェンナがエイローからの話を隊長に伝えた時、

彼は頭ごなしに信じずにいたのが、まるで嘘のようであった。


 シェンナから見てエイローもまた、

自分より立場が上のヘムロックに良い顔をしているようであった。


 それがおもしろくなくて、シェンナは不満であった――





 ヘムロックは、雑務とか面倒なことを同じ隊長の立場の者に任せ、

黒髪の人間の事に関わったシェンナとエイローを連れて、

街の警備の巡回にあたっていた。


 クネガーからの暗黙の依頼のこともあるし、

ヘムロック自身、その目で黒髪の人物を確かめたかったからであった。



 そして偶然にも――



「貴様ら、ここで何をしている!? 」



 ―― 加工屋の前の通り道で凶行に及んだ者たちと遭遇し、

ヘムロックは衛兵士の隊長らしく、声を上げた。





「ふむ……おもしろい。」


 首をぐるりとまわして赤い髪を振り、

筋骨隆々な男性が落ち着いた声で呟いた。


 彼らはジョンとカルミア達の方を向いていたが、

 ヘムロック隊長たちが後方にやってきたため、

両者に挟まれる形になっていた。



「サリング、こっちがそうだろうな。」

「わざわざ女を向かわせるんだから、そうだろうよ。」


 サリング――と槍を持った髪の黄色い男と言葉を交わし、



「我らは黒魔導教団、シュロソ導師の配下にて、

火村ひむら』のアデニ ―― 」


 自らの素性を――


「――『貫刺かんし』のサリングに

小裂しょうれつ』のカムコル ―― 」


「あー……」

「ケッ。」


 あきれ顔のサリングと紫の髪の女性を――


「――『姦乱かんらん』のカランに

殴牙おうが』のラグウォート ―― 」


「うふふん。」

「潰す……」


 ―― そして柄の長い短剣を二つ持った薄赤色の髪の優男と、

分厚い腕鎧を装着している黄色い短髪の大男の素性を名乗り――



「我等『両手探りょうてさぐり』の名を、

死ぬ前の我々からの贈り物だと思え。」


 ―― アデニは鉄板のような大剣を、

ヘムロック達に向けて構えていた。

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