俯瞰した樹の根っこ
斉賀 朗数
安寧
落ち着きます、ここはすごく。どこだろう、ぼくは ここ に留まっている。だけど、ぼくは知っている。そう、知っているから、だから、待ちます。たまに待つのが退屈になるときがあって、そんな時は ぐっ と力を入れてみたりします。そうすると そっ と、あたたかい いや、あたたかかったんです。それがだんだん、あたたかくなくなっていくのを、肌で感じていたんです。とうの昔になくなったそれで、またなくなっていくこれを。どうして薄れていってしまうのでしょうか?
だれもしらない気がしています。
ここ は、くらい。いま は、じとりじめりと雨。
ぽ、つ。
と、つ。
ぽ、つ。
と、おちる。
あとにも先にも安寧は、拡散。沈下。侵食ないし濾過。別の安寧は跋扈。風化。あるいは あるいは そう、色褪せです。目に見える色褪せです。セピア。いえ、それは 記憶。ありし日の記憶だと思います。記憶はだれにも共有されずにただ、
埋まって、
埋まって、
埋まって、
埋まって、
埋 まって、
埋まっています。
あの人もそのおかあさんも、そのおかあさんも、そのおかあさんも、兄弟も、みんなみんな、よく ここ に来て、あたたかく来ていきました。いつから ここ は、厄介ものになってしまったんでしょう? めんどうなものになってしまったんでしょう? 知らない。でも知っています。本当は、恥ずかしくも、知っています。途絶えたんですよ。あたたかくあった日はしみこんだ露たちと、ともに眠るねむる骨と骨とほねと土のつちの土の中にもぐりこむ日の太陽の太陽のひかりとひかりと光。眼窩の慎ましくあった双眸は直向きなあたたかいひかりの鮮烈な歓迎を知らないのでしょう。それならばと蠢く眼窩の、みみずをあたたかく見守る、慎ましく。でもたまに ぐっ と力を入れるのをあたたかく、許してください。
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