第047話『われ、がんばる 2 side︰セルベリア』


 いつの間にか辺りに子供たちの姿は消えていた。


 ………だが、茂みからチラホラ目をチラつかせている。



「驚きましたね。ここにいる子供たち、魔法士でいう『白印級Cランク』の実力を持っていますね」

「……『絶対小児制』と呼ばれる故、じゃな」



 武器を構える三銃士の二人の背後には我らを逃さぬため、武器を構える子供たちが見た限り200人ほどいる。


 日は既に沈みかけている。

 ………夜に子供が武器を持つとはおっかない国じゃな。



「なぁなぁお二人さんよ? どうやってこの国に入国したんだぁ?」



 ひとりのイカした方の輩が二丁の拳銃を人差し指で回しながらこちらへ近づいてくる。…………こいつバカなのか?――――一歩二歩とレギオスと我の手の届く範囲まで入り込む。



「レギオス。 払え」

「……承知―――――」



 われが指示すると同時にレギオスの左腕から仕込み刃が剥き出しになり、間合いに入った愚かな男の首を掻っ切る―――――――筈だったのだが。



「……ほう。避けずに受けますか」

「……そーカッカすんなってよ」



 男は左手に持つ拳銃の銃口をレギオスが向けた刃先にぶつけ、相殺する。

 ………魔法補助エンチャントを付与せずレギオスの攻撃速度に対応するとは、見た目によらず手練のようじゃな。


 男はヘラヘラ笑い、我らに背を向けながらもう一人の三銃士の傍に戻る。敵に背中を見せるとは………それだけ実力に自信が―――――いや、この場合ただの馬鹿だろう。


(………ん? 何か話し合いを始めたようじゃが……)


 何やら揉めているようじゃ。特にやることもないので、耳を済ませてみる。



『………やべぇよ。 頭かいたついでに奇跡が起きたぜ……』

『………やはり、あのメイドの攻撃を受け止めたのはたまたまだったのか。 女だからって調子に乗ったのが仇になったな』

『――――なぁ? 潔く逃げないか?』

『………いやいやまずいだろっ。 今更逃げたらかっこ悪いし、ソルベガ様に顔向けが出来ぬ』

『………チッ。俺らセリムソードとグラムソードまでもディルソード見たく裏切り者になってたまるかだよなぁ……』



 ………うーん、内容の終点が見えぬが、言えることがある。



「「………こいつら、案外弱い」」



 そうと決まれば我らはセリムソードとやらとグラムソードとやらに向かって再び歩み始める。


 ―――――そして我は左眼に魔法陣を構築させ、二人を卑しく睨みつける。



「………"地面でも舐めとけ"」


「え。――――――――ッ?!」



 相手がざこだと分かれば『強制暗示スレイブ』で言うことを聞かせるまでじゃ。


 セリムソードとグラムソードはわけも分からず、地面に突っ伏し、薄汚れたコンクリート地面を舐め始めた。見苦しい光景じゃ。


 その国の象徴たる三銃士の二人の哀れな姿を目撃した小さき国民たちの姿は既に消えていた。…………やれやれ、無駄な時間を過ごした。



「魔王様、そこの二人から情報を聞き出せば………?」

「あっ」



 我の部下は天才じゃった。









 ♢









 輩たちに『強制暗示スレイブ』を使い、情報を聞き出した後。


 我らは一旦身を潜めるため、あるホテルに部屋を借りていた。



 ………そして、レギオスの名案のお陰で色々とこの国に関しての情報、みれあとてぃあの所在を突き止めることができたのじゃ。


 まずは奴隷大国『プレアデス』が樹立された件について。


 つい先月、プレアデス王国はある一人の『銀髪混じりの男』により、国は滅ぼされた。


 そしてその男『ソルベガ』は新たな国王としてプレアデス王国を奴隷大国『プレアデス』として樹立させる。


 国民がいない中、ソルベガは異世界転生者であるが故、我が使う『強制暗示スレイブ』の上位互換ともいえる特殊能力『服従』を使い、世界各国から魔法士クラスの子供たちを集め、国を再建する。


 国民を子供たちのみに絞った理由は恐らく"服従の効果範囲内が未成年"という所から来ているのだと考える。

 

 ………何の目的があってこのような事をしているのかまでは聞き出すことが出来なかったが………。



「今、みれあとてぃあは必ずこの国にいる」

「………そうですね。おふた方が受けたクエストの申し者は存在しませんでしたし。 何よりおふた方は異世界転生者であり、幼女である。 優良物件というわけですね」



 位置までは分からぬが底知れぬ魔力の持ち主が何人か存在している。


 ………きっとこれはみれあとてぃあたちだと断定してもいいだろう。



「………ことが大きくなるまえにみれあとてぃあを救出せねば――――と。おしっこいってくるのじゃ」

「わざわざ言わなくて良いです」



 今日一日ずっと我慢しておったからな。ぼーこーが破裂しそうじゃ。

 

 ………と、女の子がこんな下品なことを喋るとみれあみたいになってしまうので、控えよう。


 そして我は急ぎ足で部屋を出て、廊下の端にあるトイレに向かおうとした時、目の前に銀色に輝く髪がいい匂いと共に押し寄せた。



「「………ぶへっ?!」」



 深くにも人にぶつかってしもうた。

 我は急いで立ち上がり、倒れ込む銀髪の持ち主に手を差し出―――――――



「「あ」」



 きっとこれは運命じゃろう。

 見慣れない黒帽子を被っていたせいですぐには気づかなかったが、この容姿こそ美しくあるが、どこか下品さを漂わせるこの女の子はきっとこの世で一人しかいない。



 ………どうやら、我らとみれあたちとは部屋が隣のようじゃった。


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