幼女騎士、聖剣を持つ。〜マトモに主人公やるとは言っていない〜

暁 蒲公英

チュートリアル

第001話『ちゅーとりある』

『・性別を選択してください。』

 

 ■男性 

 ■女性



 真っ白い空間に存在するのは俺とこの変な選択画面。…………まるでゲームの開始チュートリアルである。


 もしかしたら白髪の博士が三つのボールに入っている生物モンスターを選ばせてもらえるイベントが待ち受けているのかもしれない。


いや、そもそもこの空間で俺一人の時点でその流れは成立しないか。



「これは夢……なのか? それか死後の世界とか言い出すんじゃないだろうな?」



 たしか、俺は自室で野球中継を見ながらビールを頬張っていたところ、急な心臓の痛みに襲われ、意識を失った―――――――

はずだったんだが。



「…………これって所謂あれだよな? ラノベとかにある『異世界転生』ってやつなんじゃないのか?」



 "謎の死"…………そして"謎の空間"。

 残念ながら女神や神様という人物的テンプレキャラの存在は皆無だが、これはきっと異世界転生前の開始チュートリアル。そうだ、そうに違いない。


 ならば目の前に存在する謎の初期設定をしていくうちにチート級の武器や能力を選べる選択肢が出てくるに違いない。――――――そう。何事も前向きに考えるんだ。仕事だって前向きでなければあの地獄のような残業に耐えられないからな。



 これが夢オチならそれでいいんだ。

 そして仮に夢じゃなく、真実だった場合、下手な設定はできない。

 …………だから俺は正直に性別を選ば――――――――



 

『・選択されました。』

『女性』

 ※この設定は後に変更出来ません。



 

「…………は?」




 気の抜けた声が白い空間に響き渡る。きっと今の俺、凄い顔してるんだろうな。だって驚きのあまり顎が閉じないもん。



「…………ふぅ」



……って。――――――おいおい?! 嘘だろ?! まだ俺画面に触れてねぇぞ?!


一度深呼吸をして見るもの、心の落ち着きがおさまることは無かった。



「40歳手前のジジィが女性に転生するなんて前代未聞だろ…………?!」



額に汗を滴らせながらも必死に『戻るボタン』らしきものを探す。

 …………しかし"米印"と記されたとおり、前の選択画面には戻れず――――――――



 ふと。

 俺の中で何か・・途切れた。

 うん、きっと理性だろう。

 

 ―――――――何故か笑いが混みあげてくる。これが人間が追い詰められた時の感情爆発というものなのだろう。

 …………そして。



「あーッ!! この際、超絶美少女になってやらァァァァァァ!!!!」



『意地』という名の『ヤケクソ』である。

次々と出現する選択肢を即答していく。



『・髪型は?』

 そりゃあ大和撫子を彷彿させる『ロング』に決まっておろうがッ……!!


『・髪の色は?』

 女は『女神ヴィーナス』だ。よって『銀』。

ほい次っ。


『・目の色は?』

 人は蒼い空の下で育つ。

 よって『青』。


ここまで来るとただのこじ付けであるが、感情爆発には抗えない。



『・声質は?』

 清楚系でもMっ気がありそうな『清楚系ボイス94』だな。単純に声がエロい。



『・武器は?』

 やはり無難なつるぎだろう。子供時代からの憧れだ。"チャンバラキング"と呼ばれた程だからな。

 よって『聖剣』っと。


『・体型は?』



「……………」



『ロリ』っと。



 選択肢が終了する。

 熱くなりすぎた俺はそのまま床に倒れ込む。


…………ふぅ。最後の選択肢は自分の趣味が出ちまったが、まぁいいだろう。はは。ははは…………


 空笑いをする俺の眼前に画面が出現する。―――――――そこに書かれていたのは。



『ようこそ』



 その一言だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る