ありふれた結び目だとしても

カゲトモ

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「そうだコレ、マスターにって」

「えっこれって」

 イケメン二人から手渡されたのは一冊の本だった。ずっしりとしたそれは、ルカさんの編集部で作られている美容雑誌だ。その表紙には良く知った名前が書かれてある。

「マリオ君が出ているものですね。え? 私に?」

「そうですよ。今日雑誌の発売日なんです。どうしてもマスターには渡したいからって。ね、マリオ君」

「はい。ルカさんと出会えたのは、マスターのおかげですから」

「そんな、頂くなんて」

 もともと発売されたら自分で買おうと思っていたし、そんなの良かったのに。

「いえいえ、貰って下さい。俺たち二人からの気持ちなんで」

「はいっ」

 そんな無垢な笑顔を向けられたら、受け取らない訳にはいかないじゃないか。俺としては売り上げに貢献したい気持ちもあるんだが・・・いや、自分で買った雑誌はミケにでも読んでもらうことにしようか。俺のルカさんとマリオ君だぞって。

「それではお言葉に甘えて。大切に読ませていただきます」

「はいっ。本当にマリオ君、格好良くて素敵なんで何度も見てください! 舐めるように!」

 舐めるように・・・?

「それくらい良いって事ですよ!」

「な、なんか恥ずかしいからルカさんやめて」

「マリオ君のページ、付箋付けてあるので見て、見てくださいっ」

「えっと、ここ? です、え?」

 促されるまま雑誌に付けられた付箋のページを開くと、一瞬呼吸を忘れてしまった。

「めっちゃ格好いいじゃないですか!」

「でしょでしょー!」

「や、やめ、やめてっ」

「えっ、マリオ君、マリオ君じゃないみたい!」

「そうでしょ! マリオ君、マリオ君じゃないみたいでしょ!」

「ひぃぃぃ」

 両手で真っ赤な顔を覆ったマリオ君を横目に手のうちのマリオ君をじぃっと眺める。

“イケメン舞台俳優”と書かれた下に、暗い室内に上半身裸でシーツを被る一人の男性。舞台の上にいる時よりも一層存在感を放ち、カメラに向ける瞳の奥には青い炎が揺らいで見えた。

 細い体はしなやかでいて薄く付いた筋肉がうっすらと筋を作っていて、まるで彫刻のように美しい。

最初はいつものマリオ君、その次は目の下に青いラインの入ったメイク、その次は真っ赤のリップのメイク。ページを追うごとにマリオ君のメイクはコロコロ変わる。時に強く、時に切なげに見つめる表情に、きっとこれを見た人は心を打ち抜かれるだろう。

 雑誌のグラビアだからいつもよりはっきりと舞台俳優のマリオ君を見られるからだろうか、なんだか凄く特別で手の触れられない存在のように感じてしまう。マリオ君は目の前にいるのに。

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