第10話 ー時転の章10- 弥助(やすけ)と田中は同期
俺こと
部屋の中に入ってきた、そいつらの片割れを俺は見るなり、すっとんきょうな声を上げてしまった。
「お前、田中太郎じゃねえか!もしかして、昼間やられた仕返しに夜襲をしかにきやがったか!」
「ぶひぃ。お前、何言ってるんだ?」
田中太郎は不思議そうな顔をしているが、俺は騙されないぞ。田中太郎が俺の顔をじろじろと見てくる。すると、田中太郎は破顔し、俺の肩をばんばん叩きやがる。
「ぶひぃ。昼間の
「いてえ、いてえ。そんなに強く叩くんじゃねえよ」
「僕を倒せるやつなんて、そうそういないぶひぃ。歓迎するだぶひぃ」
「うれしいのはわかったから、肩を叩くのはやめろ。痛いっつうの!」
ようやく、田中太郎の熱い歓迎が終わり、俺は解放された。あれ、そういえば何か忘れているような
「田中サーン。そのひとたちが相部屋のひとデースカ」
片言の日本語をしゃべるのは、肌が黒いやつだった。俺はそいつをじろじろと見る。こんな時代に黒人を見れるとは。
「おう、
「おう、あいむそーりー。まいねーむいず
俺も片言の英語で返す。英語は受験でがんばったからな。少しくらいならわかるぜ。
「ハハッ。安心してネ。これでもジパングに来てから3年目なのネ。日本語、ばっちりネ」
「オウいえすいえす。はーわーゆー」
知っている限りの言葉を俺は言う。どうだ、国際派だろ、俺ってやつは。
「あ、あの
「オウいえすいえす。俺もハッピーです」
「ぶひぃ。こいつ、頭でも打ったのか?」
「わ、わたしが投げ飛ばしすぎたのが原因かもしれま、せん」
ひでよしは、おろおろとしている。俺の英語が堪能すぎるのがいけないのか。罪作りなやつだ、俺は。
「ハハッ。
「さ、猿ではありません。ひでよし、です!」
「おう、これはごめんなサーイ。ひでよし殿、よろしくデース」
挨拶も終わり、俺たち4人はちゃぶ台の周りに座る。
俺はそのせんべえをありがたく頂戴しながら、話を続ける
「で、
「信長さまは肌が黒いのは染料を塗っているからだと疑って、身体を洗わせたぶひぃ」
「めっちゃタワシでこすられたのデース。痛い痛いと言ってもなかなかやめてもらえなかったのデース」
「はははっ。そりゃ、買い取られたあとも災難だったな」
黒人だから黒いのは当たり前だろ。なんで洗ってんだよ、信長は。
「なんだか不思議です、ね。肌がもともと黒い、なんて。世界は広い、です」
「しかし、
おっと、そういや、見慣れてるわけでもないが、テレビを通して外人はよく見てたもんだ。つい慣れてしまっているせいもあり、驚きはすくないのは確かだ。
「昔、みたことがあってよ。黒人はさ」
「ほう、私以外にも日本に来てたのデスネ。名はわかりますか」
「ああ、たしか小浜だ、小浜。もう、国に帰っちまったと思う。うんうん」
俺は適当な名前を出して、その場をごまかす。良いだろ、現代日本には実際、来てるんだからよ。
「それより、どこで
「いや、まあ、そこはな。お、俺、ほとんど家から出してもらえなかったんだ。それに村の相撲大会には偽名をつかってたからさ」
言い訳が少々苦しいか?まあ、怪しまれなければなんでもいいとも思っている。
「ふうん、そうなんだぶひぃ。僕を負かすくらいだから自慢してもいいんだぶひぃ」
「それでもひでよしには、完膚なきまで叩きのめされたけどな」
「そ、そんな、たまたまですよ。すぐに
ひでよしは顔を赤くし謙遜する。
「お前ら、2人ともすごいぶひぃ。今度、暇なときにでも町の相撲大会に出るといいぶひぃ」
「そうデスネ。津島の町では、3か月に一度、大きな相撲大会をやっているのデス。そこで優勝すれば、信長さまより金一封となにかしらもらえるのデス」
いいことを聞いた。この時代の力士たちの実力のほどはわからない。でもそこで優勝することは、俺の力士になるという夢に一歩近づく気がした。
「よっしゃ、次の大会で、俺は自分の実力を試してやるぜ。ひでよし、田中太郎、そして
未来に希望を抱き、俺の戦国時代は始まったのだった。
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