第9話 一匹狼
背の高い木々の中を、長くツヤのある黒い流線を描いて、やんちゃな少女が走っていく。その先で美味しそうなキノコを見つけると、少女はがつがつそれを食べた。
これが、私が12歳の時の話。
その次の朝、暗い色の毛が生えた鋭い耳が私の左右についていて、私の人生は変わった。
「何あれ〜、オオカミみたい。怖っ」
その通り、私の耳はオオカミの耳に生え変わってしまったのだ。
外に出ると必ずこの耳へのあざけりが耳に入る。だから私はいつもフードをかぶることにした。できるだけ声が聞こえないようにイヤホンもつけた。しかし、人間用のイヤホンは私の耳に合わなかった。
人ではないと言われているようで外に出るのが怖い。
それから、部屋に引きこもっていると、恋愛や友情がすっ飛んで18歳の夏。
「私の子じゃない。」
そう言われ、親から縁を切られたので、
私は自分の耳を病院で整形してもらうことにした。
「今ある耳を切って、作りものの耳を付けます。見た目はほとんど変わりませんが、これはあくまで作りものですから、この耳が音を拾うことはありません。」
私はそれでもいいと思った。
これでようやくバカにされなくて済む。
人間になれる。
それに比べたら、
音が聞こえないくらいはどうだっていい…!
こうして、手術は失敗した。
施術後の耳は、オオカミには見えないものの人間のそれではなかった。切断したあとは化膿して青紫に変色し、作りものの耳は発注ミスでサイズが大きすぎた。
「何あれ〜、バケモノみたい。怖っ」
よりいっそう冷ややかな目で見られたが、
しかし、私はフードを脱いだ。
気にしなくていいのだ。
そのあざけりがこの耳に届くことはないのだから。
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