名所




 我が家が名所になってしまった。


 始まりは二年前の冬のことだった。


 家に帰ってみると玄関の前で知らない女が血を流して倒れていたのだ。


 すぐに救急車を呼んだが、結局その女は助からなかった。


 警察の調べで、その女はうちから遠く離れた地に住んでいたことがわかり、もちろん私とは縁もゆかりもないことが確認された。


 事件性もなく、我が家は不幸にも偶然巻き込まれただけだろうということで決着した。


 しかしそれは始まりだったのだ。


 その後、何度も、居間で、風呂で、キッチンで、階段で、知らない人間が倒れているのを私は目撃することになったのだ。


 もちろん戸締まりはしっかりやっていたし防犯会社に相談し厳重に対策を取ったが無駄だった。


 もちろん警察もこれを偶然だとは思わず私は疑われ徹底的に調べられた。


 しかし彼らと私の接点は何一つ確認されなかった。年齢も性別も立場も違う彼らがなぜ人生最期の場所に我が家を選んだのか誰にもわからなかったのだ。


 私は引っ越した。おそらくあの家はもう売れないだろう。更地にしてほとぼりが覚めた頃に売り払うしかない。


 なぜ私ばかりこんな目に合うのか。


 ため息混じりに私は新居の鍵を開けドアを開けた。


 知らない婆さんがゆっくり回りながらゆらゆら揺れていた。





                 (了)





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