3, 復讐 of the 幼き知恵

駅から伸びる大通りを3人の高校生が歩いている。

左を歩く青年、帝渡 江舞みかど えむが真ん中にいる青年、府堂 竜ふどう りゅうの前へ回り込んだ。

「おい、府堂。

神島 たかしの最新短編集『とらわれし者』読んだか?」

「いや、まだだよ。

図書室に入ったらすぐ読むけどね。」

神島たかしと言うのは、今話題の推理小説作家だ。

「なるほどな。」

そう言うと江舞は、鞄をあさり始めた。

「ええっと、確かここに入れといたような…。」

「何やってんの?」

 右側にいる少女、有岡 日向ありおか ひなたが問いかける。

「あった!

ジャジャーン!」

まるで、小学生のような自慢の仕方で、江舞が本を取り出した。

「そ、それは

『とらわれし者』じゃないか。」

そして府堂が、お決まりのパターンのような驚き方をする。

「その通り。

俺はこれを発売前から予約していたんだ。」

「ふーん、そんなに面白いの?」

対する日向は反応が薄い。

推理小説には興味がないようだ。

「なにいってるんだ、日向。

神島たかしの作品はあっと驚く仕掛けがされているんだよ。」

「へぇー。

竜が言うから相当面白いんだね。」

どうやら日向は、推理小説ではなくに興味を、持ったようだ。


「なぁ江舞。

読み終わったらでいいから俺に貸してくれよな。」

「元々そのつもりだよ。

はい。」

そう言うと、江舞は府堂に本を手渡した。

府堂はそれを受け取り、早速歩きながら読み始めた。

「おいおい、危ないぞ。」

「大丈夫。

前は見えてるから。」

再び読み始めた府堂が数歩進むと不意に足を止めた。

「おい、これはなんだ?」

そういって彼が指差したのは、目次にある『読者への挑戦状』というところだった。

「あぁ、そのまんまだよ。

解決編が書かれてなかった。」

「つまり、俺たちが謎を解けってことか。」

「そうじゃない?

ちなみに俺は解けなかったけど。

府堂なら解けるよな。」

「馬鹿にしないでよ、竜は将来名刑事になるんだから。」

日向が江舞につかみかかる。

「まぁまぁ、日向。

俺が今すぐ解くから大丈夫だって。」

真ん中にいる府堂がなだめると、彼はそのページを開いた。

「じゃあ、集中して読みたいから。」

そう言うと、彼は近くのベンチに座り、読書に没頭し始めた。

「まったく、府堂は引っかかり安いんだから。

俺はただ、その謎を解いてもらいたいだけなのに。」

「いいじゃん、竜にとっても悪いこと無いんだし。

私たちも後ろから読んでよ。」

「そうだな。」

そう言うと2人はベンチの後ろへ回り込んだ。





ーーーーーーーー復讐にとらわれし者ーーーーーーーー



「そうです、今回の事件は利規としきたちは何も悪くないんです。」

「何を言うんだ、白石くん。

現に…」

良かった。

零弐れいじが推理を始めたということは、俺たちの無実が証明されたのと同じことだ。

話は一昨日に遡る。



「おい、利規。

さっさと帰ってロワやろうぜ!」

「おう。」

俺たち、五年三組では『ロワイヤル・ポジション』と言う、オンラインの陣取りゲームが流行っている。

「待って、利規に大樹たいき

俺を忘れるなよ。」

「分かってるって、信次しんじ

じゃ、昇降口で待ってるね。」

そう言うと、俺と大樹は階段をかけ降りていった。


俺と大樹と信次は、幼稚園の頃からの仲良し。

ほぼ毎日3人で一緒に登下校している。喧嘩も滅多にしない仲良しだ。



「なぁ、二人とも。」

「どうした?」

「いやさ、俺迷ってるんだね。」

「私立受験のこと?」

「そう。」

話は信次の中学校についてになった。

少し前、信次から私立受験をしようかどうか迷ってることを聞いた。アイツの成績はとてもいいし、受かるだろう。

問題は、俺たちと離れ離れになってしまうことらしい。

俺と大樹は、離れていても友達だといってるけど、信次は心配している。確かに、俺もその立場だったら心配するに違いない。

「俺は信次のことだから信次が決めるのが一番だと思うけどな。」

大樹が明るい声でいう。

「うん、俺もそう思うよ。」

「そうだよね、うん。

やっぱり受験するよ。」

信次が大きな声で答えた。

その声に驚いたのか、最近できた八百屋のおばさんがこちらを振り向いた。

「へぇー、今の時代は小学生も受験するのか。

頑張ってね。」

「はい!」

その顔はこれから起こるどんな試練も乗り越えようという意思の溢れていた。

その後も学校で起きたことの様々な話をしながら、3人でまっすぐ家へ向かった。


あんなことを言われるとも知らずに。


翌日の放課後



「…じゃあ、これで帰りの会は終わりです。」

「起立。」

学級委員長の零弐が、号令をかける。

「礼。」

「さようなら。」

よし、早く帰って信次と大樹と遊ぼう。

そう思って二人に声をかけたときだった。


「あ、田中君と、山田君、それに鈴木君はちょっと来てね。」

先生に不意に声をかけられた。

ちなみに、田中と言うのは俺。

山田は信次で、鈴木が大樹だ。

声をかけられて驚いた俺たちは、すぐに先生のもとへ向かった。

「どうしたんですか?」

「あなたたち、呼ばれる覚えはないの?」

急に尋ねられて俺たちは戸惑った。

「なんのことですか?」

そう聞くのは信次だ。

「あら、そう。

じゃあ、これでも?」

そういって先生が教室の外へ声をかけた。すると、左腕に絆創膏を何個か貼った子がやって来た。

俺たちと同じくらいの背丈だが、こんな奴が同学年にいた記憶がない。

「この子がどうかしたんですか?」

信次が若干、いらつきを見せながら先生に尋ねた。

「いい加減にしなさい!!」

先生が急に声を荒げた。

「あなたたち、この子に昨日何したか分かってるでしょ?!」

「「「え??」」」

俺たち3人の声は重なって疑問を表した。

「そこまで、惚けるなら私から説明します。

この子は昨日の帰り、

「!」

俺たちは何も言葉を発することができなかった。

「ちょっと待ってくださいよ、先生。

なんかの間違いです。」

「そうです。

僕たちは昨日、3人だけで帰ったんですから。こんな子知りませんよ。」

もちろん俺たちの言葉に嘘はない。

昨日は、3人で信次の受験の話をしたりして帰ったんだから。

でも先生さっきよりも衝撃の言葉を発した。

「バレバレの嘘をつくのはやめなさい!

あなた達、受験の話をしてたんでしょ?山田君の。」

「してましたけど、3人でですよ。

八百屋のおばさんはなにかの勘違いしてるんですよ。」

しかし、先生は聞く耳を持ってくれなかった。

「いえ、あなた達の会話の内容に驚いたから記憶に残ってたらしいですよ。

小学生が受験するだなんて。

この子がたまたまその事を覚えていたから、八百屋に電話して確認しました。」

確かにその話はした。

でも、コイツのことは知らない。一体どうなってるんだ。

「とにかく、変な反論はやめてしっかり謝りなさい。

幸い大きな怪我はなく擦り傷程度だし、本人も大事にはしたくないって言うから、親には言わないけど。」

言わないも何も俺たちは何もやってないのに。

大樹はうんざりしてしまったのか、ランドセルを持って今にも帰ろうとしている。

俺も手に通学帽を握りしめ怒りをこらえている。

「やってもいないことで謝るなんて、考えられません。」

「そうです。

やってないのに人のせいにしないでください。」

「もうこれ以上変な疑いをかけないで下さい。

帰ります。」

こう大樹が言ったのをきっかけに俺たちは走って昇降口まで向かった。先生が何か言ったのは聞こえたけど、そんなの聞く気にはなれなかった。

何であんなことを言われなきゃいけないんだ。

絶対アイツが嘘ついてるのに決まってるのに。


「一体どうなってるんだ?」

納得できない俺たちは、校門の前で何がどうなってるか、確認していたり

「わかんないよ俺にも。

ただ、アイツが嘘ついてるのと、八百屋のおばさんが何か勘違いをしてるってことだけだ。」

信次が校門からあのワケわからないやつを指差して言う。

「八百屋のおばさんが協力者ってことはないの?」

俺が素朴な疑問を口にする。

「いやぁ、ないんじゃないかなぁ。

俺たちに聞かれて『一緒だったじゃん』

て言うのと、先生に『一緒でしたよ』

て言うのとではわけが違うじゃん。」

「確かに。」

一体何がどうなってるんだ。

第一、アイツに見覚えなんかないのに…。

あ、もしかして。

「アイツ、この間昼休みの時にゴール使ってた奴じゃね?」

「あ、俺たちが使わせてくれって頼んだときの?」

「そうそう。」

俺たちの学校はお世辞にも校庭が広いとは言えない。

そこで、度々場所取りの争いが発生する。

でも、そんなにきつく言ったわけでもないのに。

「あんなんで恨むかな?」

「そう言えば、あのとき名札見たけど2年だったよ。」

「え!背高くない?」

「でも、それなら納得できるな。

2年ぐらいだったら、場所とられただけでも恨むだろうな。」

なるほど…。

動機(?)は分かったけど。

「一体どうやって?」

「それがわかれば苦労しないよな。」

「やぁ、どうしたんだい?」

そのとき、不意に零弐が後ろから声をかけてきた。

白石零弐。

我らが5年3組の学級委員長でありながら、成績抜群のいわゆる天才系タイプ。その整った顔立ちと、知性、運動神経のよさから男女問わずめちゃくちゃ人気がある。

そして、彼にはもう1つ素晴らしい点がある。

読書、特に推理小説が好きな彼は、それを読みすぎてあらゆる謎も簡単に解いてしまう、いわゆる名探偵となったのだ。

彼は現在までに、学校で起きた数多くの、不可解な謎を解いている。

あ、そうだ。

「零弐。

お前の力が必要なときがやって来たんだよ。助けてくれ。

こんなことがあったんだけど一体どう思う?」

「いいよ、聞かせておくれ。」

こうして俺たちは、零弐に事の次第を細かく説明した。

動機(?)の予想がついてることも交えて。



「…ってわけ。」

「なるほどな。

確かにこの事件は俺の分野だな。」

零弐は、話を聞き終えると深く頷いた。

「で、どう?」

「どう?って言われてもな…。」

やっぱり零弐でもこの一瞬で謎を解くのは無理か…。

そう俺たちが諦めたときだった。

「俺からしてみたら、

「え!

ってことは解けたの?」

信次が、あまりの驚きに声を漏らす。

ちなみに、俺と大樹は声すら出せなかった。

「まぁね。

明日先生の前で推理を披露してやるよ。

そうだな、この謎に題名テーマをつけるなら、

幼き復讐

ってとこかな。」

そう言う零弐は生徒想いの学級委員長の姿、そのものだった。



~読者への挑戦状~

はたして、零弐はいったいどんな推理をしたのか。

皆さん、是非考えてみてください。









読み終えた、府堂が後ろを振り返る。

「どう、内容頭に入った?」

「うん。

でも、謎解きはさっぱりだ。」

「私も。」

そう答える二人の顔は府堂に期待の目線を向けていた。

しかし、当の府堂も

「ごめん。

俺もさっぱり分からん。

いわゆる、嘘をついてる証拠だか、一緒に帰ってるように見せるトリックがあるんだろうけど、一体どんなものか見当がつかない。」

その言葉と共に江舞と、日向は崩れ落ちた。

「やっぱり、竜でもダメか。」

「ま、神島たかしの作品は思いがけないトリックで有名だからな。」

そんな3人に近寄る1つの影があった。


「やぁ、またお会いしましたね。」

「お、お前は。」

そう言って府堂が指差した先には、いつかの事件で喫茶店で会った、あの正体不明の自称名探偵がいた。

「おやおや、その謎が解けなくて困ってるんですか?

じゃあヒントをあげましょう。」

「ヒント?」

偉そうに語る謎の少年に、3人が疑念の目を向ける。

「まぁ、そう怪しまずに。

ヒントはあなた達が着ているものですよ。」

そう言うと彼は、府堂達が着ている新登高校の制服を指差した。

「は?

小学生に制服なんて無いでしょ。」

日向が若干戸惑いながら聞き返した。

「えぇ。

信次が中学受験をするところからも、彼らが通っている小学校は普通の公立学校でしょう。

「じゃあ、一体なんで?」

「制服に代わるものがありますよ。小学生にも。文章を、よく読んでください。

では、僕はこれで。」

そう言うと、少年は去っていった。

「なによ。

制服に代わるものって。」

日向は分からないのが原因か、かなり苛ついてるように見える。

「うーん。

制服に代わるものか…。」

対して府堂はこの間の一件もあり、真剣に考えているようだ。

ーー制服か…。制服の働きと言えば、俺たちの所属する高校を示すことだな。

つまり、その学校であることを示す何かがあればいいのか…。

不意に府堂が本を開き再び読み始めた。

「何か気付いたのかな?」

「かもな。」

日向と、江舞が会話する中、府堂1人が真剣に本を読んでいる。


「あ!」

突然府堂が声をあげた。

「どうした?」

「分かった分かった。

そういうことか。

「え?」

「通学帽だよ。」

そう言うと、府堂は推理を始めた。

「恐らく、主人公達を困らせた奴、仮に太郎とするよ。

太郎は、陣取りの問題で主人公たちに恨みがあったのだろう。

で、何か復讐をしたかった。

そこで、自分で自分を傷つけてあたかも暴力を振るわれたようにしたのさ。

だから、左腕にしか傷がなかったんだよ。」

「なるほどな。

でも、八百屋のおばさんよ目撃証言の問題は?」

「あぁ、あれはおばさんの勘違いだ。

太郎は、主人公達の後ろを歩いてたのだろう。

一応一緒に帰ってたことにしようとしてたからね。

そのとき、ちょうど八百屋の前を通り主人公達がおばさんとやり取りを始めた。

そこで太郎にはある考えが思い付いた。

一緒に帰っている、と言う目撃証言をとることさ。

できたばかりの八百屋のおばさんなら、あまりその小学校の人間関係は分からないだろう。

そこに、同じくらいの身長の四人が現れた。

しかも、その四人は同じ帽子、つまり通学帽を被っている。」

「そういうことか!」

納得の顔を縦に何回も振った。

「そう。

おばさんはその四人が一緒に帰っているのだと勘違いしてしまったんだよ。

これが真相さ。」

「なるほど。

流石竜!」

例のごとく、日向が府堂のことをべた褒めする。

もちろん、その様子を見て江舞がひかないわけがない。

「ふー。

とりあえず謎が解けて良かった!

ありがとな、竜。」

「まぁな。

これしきの謎、俺にとっては楽勝さ。」

「って言っときながらあの、少年のお陰じゃん。」

江舞が少し呆れたように言った。

「まぁね。

でも、あの少年どっかで見たことあるんだよな。」

府堂が少し首をかしげながら、思い出そうとする。

「あ、これじゃない??」

日向がそう言いながら、とらわれし者のあとがきの写真を指差す。

「え、これ神島たかしの写真じゃん。」

「確かに似てなくないけど…」

「年齢が違いすぎるよ。」

「確かに…。」

府堂の最後の言葉で少しの間沈黙が続いた。

「もしかしたら、神島たかしの息子じゃない?」

「あぁ、二人の伝説の名探偵の血を引いてるって言われてる?」

「そうそう。

神島たかしの父親が、神島隆星と言われていた、伝説の名探偵。

そして、神島たかしの妻の母親は確か…」


この続きはまた今度。

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