笑顔のために謎を解く~未来の名刑事(?)府堂 竜~

eFRM

1,正体 of the ストーカー

新登高校 1年F組


ガラガラッ。


「おはよー。」

「おはよー、ってどうしたの江舞えむ

あと少し台風が遅れてくれば学校が休みだったのに、って顔してるよ。」

江舞と言われた青年は肩を落としながら、席についた。

「いやねぇ、有岡ありおか。困ったことがあるんだよ。」

「どうしたのぉ、悩みなら聞いてあげるよ。」

有岡と呼ばれた美少女は、髪をなびかせながら江舞の方へ向いた。

「いや、たいしたことでも…。

いや、重要なことだなぁ。」


ガラガラッ。

「よっ、日向ひなた、江舞。どうした。」

りゅうー。なんか江舞が悩みことがあるんだって。」

「いやぁ、他人にいうほどのものでも…。」

「なんだよ。俺と江舞の仲だろ。」

紙ぺら一枚よりも軽い勢いで竜が江舞につかみかかる。

「そんな単純なことじゃないんだよ!府堂ふどう。」

それに比べて江舞は、広辞苑よりも重い雰囲気をまとって返す。

「ごめんよ、江舞。

まぁ落ち着いて聞かせてくれって。

なんてったって、俺は将来、皆を笑顔にする名刑事になるんだよ!」

「よっ、流石竜!」

「まぁね。」

こう返す竜の表情は同級生の相談に乗る人の顔よりかは、一般市民の相談に乗る警察官の顔に見えた。






「いやぁ、母さんがさぁ、ストーカーの被害にあってるんだよ。」

「え!」

「それは大変だなぁ。こういうことは警察に相談するのが一番いいよ。」

「そこまではまだいい、って母さん言ってるからね。」

「まぁ本人が言ってるならいいけど…。」

「で、どんなことされたの?」

「いや、つい最近からなんだけど…。

いつも江魅えみが朝新聞を郵便受けぬ取りに行くんだけど、あ、妹ね。で、一昨日くらいだったっけな。なんか、紙が入ってたらしくて。」

「それに…。」

「『お前○○スーパーにつとめといるの、知っているぞ。なんで俺のところに来ないんだよ。』

みたいの書いてあったかな。」

「気持ち悪っ!」

「うーん。筆跡とかでわからないかな?

スーパーについて知ってるなら職場の人かもしれないし。」

「俺もそう考えたんだけど、パソコンで打たれた文字だったし…。」

「し…?」

日向が先を続けるように催促する。

「その次の日は俺が提案して、遠回りして行ったんだけど、そんなのしても無駄だ!、って次の日も郵便受けに入ってたし。」

「えぇ!」

「なるほど…。」

こう言うと府堂は頭に手をあて考え始めた。


ーーうーん。遠回りしているのを知ってるから…。やはりあとをつけてるのかなぁ。でもそれだったら気づくと思うし…。


「しかも、父さんと母さん最近仲悪いしもう嫌だよ!」

「っとことは、お父さんには相談してないの?」

「うん。してない。」

「そっか。

とりあえずあとをつけている人がいると思うからそれを調べるのが良いと思う。」

「だよね。帰って母さんに相談してみるわ。」






それから数日後の金曜日。

週終わりのムードとは反対に、江舞の顔はとても暗かった。

「どう?犯人分かった?」

「いや、ダメだった。それどころかほぼ毎日郵便受けに紙入ってるし。」

「どうして?」

「どうしてって言われても…。」

江舞への質問が続けられる。

「まぁ、私立探偵を雇ったのね。」

「何でだよぉー。そこは警察だろ。」

警察に憧れる府堂が文句を言う。

「そういう筋で有名な人だったから大丈夫だよ。

って皆思ったんだけどな。」

「ダメだったの?」

「うん。

母さんの後ろに誰かつけている人がいないか見張ったけどダメだったし、

『探偵を雇っても無駄だ。』

っていう紙も入れられてたし。

あ、郵便受けも見張ってくれたけど誰も来なかったし。」

「なるほどね。」

「あっ!もしかして郵便局の人とか?なんか推理小説とかで読んだことあるよ。

毎日家に手紙を入れるけど、それが当たり前だから、郵便受けに来た人として認識されないとか…」

日向が得意そうに自分の考えを話す。

「いや、それでもない。

探偵の人も考えたらしいけど、毎日違う人だった。」

「なんだ。」

日向が肩を落とす。

「盗聴機が仕掛けられてたりしてるんじゃない?」

「それもなかった。調べてもらったけど。」


ーーなるほど…。ってことはとりあえず百聞は一見にしかずだな。


「じゃあ、放課後、お前ん家行っていい?」

「お、いいよ。」

「なるほどね。百聞は一見にしかずか。」

「流石日向、分かってるぅ。」

「まぁね。」

「…。」

江舞は言葉に詰まってしまった。





そして、放課後。

部活に所属していない3人は直接江舞の家に向かった。

「お邪魔しまーす。」

「お邪魔しまーす。」

「ただいま。って言っても誰もいないけどね。」

「へぇー。妹は?」

「中学の部活で文芸部の所属してるから今頃締め切りに向かって必死に書いてるんじゃない?」

「そうなんだ。」

日向と江舞が話している間、府堂は家の中を見て回っている。


ーーうーん。外から家の中は見えなさそうだし。第一そんなにしつこいなら、結婚してることも知ってるだろうにな。


府堂は考えながら歩いている内になにかが頭の中で引っかかっていることに気付いた。


ーーなんだなんだ、このモヤモヤした気持ちは。何かのせいで気が晴れないような…。



「うーん。本当に困ったよ。父さんと母さんはまだ仲悪いし。」

「まだ相談してないの?」

「うん。

でも、心のそこからお互いを嫌いになってるわけじゃないと思うから、相談するだけで変わると思うんだけどな。

俺と江魅も仲直りしてほしいと思ってるし。」

「うーん。まぁ、ストーカーが変な気を起こして悪化させても困るし。」


この間にも府堂は歩き続け、考え続けている。

そして、ようやく気付いた。


ーーこ、この方法なら。というか、犯人は…。


「おい、江舞、ちょっといいか?」

「お、府堂、何を思い付いた?」

「やっと分かったぜ。ストーカーの正体が。」

「流石竜!」

「誰だ誰だ?」

「それはだな…」 

こう言うと府堂は何かを江舞に伝えた。











翌日の朝。


江舞の家の郵便受けに忍び寄る影があった。

「こうすればもう…。」





「どうしたんだい?」

突如声をかけられ、影は驚いた。


「こんなことをしても誰も得しないよ、




江魅ちゃん。」


「え、どうして私の名前を。」

そこには呆然と立ち尽くした江魅がいた。



「府堂の言う通りだったな。

江魅、そんなことまでしなくても…。」

「お兄ちゃん…。」


「おかしいと思ったんだよね。」

そう言うと府堂は独り言のように話し始めた。

「誰もつけてなければ盗聴機もなく、郵便受けにも近づく人はいない。

でもこれは物理的に無理だ。

こう思ったとき、あることが思い浮かんだ。

内部犯ではないのか、と。

この時ストーカーという行為自体が目的でないのかもしれないことにも気付いた。

周りに相談させることが目的ではないか。

そう考えると江魅ちゃんには、動機と方法もあることに気付いた。

お母さんとお父さんを、仲直りさせるきっかけを作るために。

郵便受けに近づくのも毎朝、新聞を取りに行ってる彼女なら怪しまれずに、しかも簡単にできる。というか、郵便受けに入ってたようにみせかけて自分が持ってきたものを皆に見せることも可能。

文芸部に、所属する彼女ならコンピューターを使う機会も多い。学校でああいう文面を書いても、推理小説のネタだと言い訳できる。

犯人ながらすごいやつだ。

皆を笑顔にする刑事になるにはこのようなことを未然に防ぐことも重要だな。」


こう呟く府堂を柔らかい朝日が照らしている。

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