3章4節:買い物2
「・・・・・・グリフォンのお肉か」
アリスは1キロほどある肉の塊を見ながらそう呟いた。
そして、財布を取り出し中身を確認し、再度値段を確認すし再度財布の中身を確認する。この動作をもう2回ほど繰り替えし、諦めたかのように隣の安いお肉を店主に頼む。
「これかい? あー・・・・・・この肉の値段で、グリフォンの肉売ってやってもいいよ」
「え? いいんですか?」
思わず聞き返すと「いいんだよ、ほらお嬢ちゃん可愛いからさ」と言われ、店主のご行為に甘える事にした。
絡まれて不機嫌だったアリスは一転し、上機嫌となりはにかみながら歩く。
「良かったね」とスラが水の文字で書くと上ずった声で「うん」と返し、お肉をカバンに入れると次の店へと向かう。
道中「そういや、その刀? っていうのも神器なの?」と書かれる。
「そう。
「へぇ~じゃぁ」とスラが文字を書く途中でアリスは喋り始める。
「多分、刃こぼれしないの? って聞きたいと思うんだけど、おやっさん、この刀を打ち直した人ね。その人が言ってたんだけどなんでも昔ごく一部で使われてた特殊な金属で硬いと。それに宗近の能力で更に硬くなるから尚更硬い。故に刃こぼれ非常にしづらいってわけ。これ以外にも理由はあるけど秘密」
説明が終わりちょうど野菜を売っている露店に着き品定めを始める。
「なるほど~、じゃぁじゃぁアリスって」と書いた所で幾つか店主に野菜を頼み、財布を取り出しながらスラの方に目線を向ける。
「あ・・・・・・お兄ちゃんの事好きなの?」と続けて書く。
「うーん、兄としては好きだよ。けど、異性としては見れないかな。血が繋がっているわけじゃないけど、どうしても兄妹として、兄としてしか見れないから」
そう言うと、店主が野菜を入れた木のザルをアリスに渡すと料金を要求してきた。
「・・・・・・安くないですか?」
アリスは店主が言った値段が暗算で計算した合計金額より明らかに低くびっくりして思わず聞き返していた。だが、間違っていないと言われ、要求した金額を支払うと野菜をカバンに仕舞い次の店に向かう。
そして、次の店でもその次の店でも安く売ってもらえたり、おまけを付けてもらえたりし、挙句の果てには昼食をとった店でお代は入りませんときたのだ。明らかに怪しいと考える。
アリスの表情は険しくなっていた。
立て続けにこの様に安くしてもらえたりするのだろうか。否、あり得ない。裏で何かが動いている。
と、考え周囲を警戒しながら最後の店に立ち寄る。
まずパウラゴ(マンドラゴパウダー)と書かれた小瓶を手に取り、メモに書かれていた香辛料を持ってカウンターに持っていく。
案の定、書かれていた値札の合計金額より低い値段が提示される。
「すみません。安いです」
と、殺気をだし、今にも店主を殺してしまいそうな雰囲気を醸し出しながら言い放たれたため、店主は顔を真っ青にし後ずさりする。
「あ、えーっと何処に行っても安くしてもらっていて、怪しんでるだけです」とスラが急いで水で文字を書き、それを読んだ店主は胸を撫で下ろした。
「君、さっきカレルヴォの奴らぶっ飛ばしたろう? ソレでだよ」
「誰・・・・・・」
思わずアリスはそう呟いた。
話によると、先ほど肩をぶつけた男性がカレルヴォという人物だったらしい。どうもこの辺りで色々と悪さをしていたようで、かなり迷惑していたと話された。
此処の自警団を使えば良いのではないかと言ったが、どうもそのカレルヴォと呼ばれる人物の兄弟が自警団関係者におりしかもかなり地位が高い所に居りそうも行かないと話された。
彼女は息の根も止めておくべきだったと考えたが、後の祭りである。
最後に、この情報は1人の少年が運んだものだ。
店を出て、辺りを見渡すと路地に例の少年の影が見え、影は路地えと消えていく。
「妹ちゃん、ちょっと激しく動くけど良い?」
と聞くと、スラは笑顔で頷く。
「んじゃ、参之閃-
と、アリスが呟き、とても薄い半透明の板が空中に1枚出現する。
「技っぽいの呟くのっているの?」と聞かれ、「さぁ。師匠にこうしろって言われたから」と返し、地面を蹴って跳び、その後店の壁を蹴り更に跳ぶと、空雪を足場にし向かいの家の屋根に飛び移る。
足場にされた空雪はまるで雪のように砕け落ちる。
路地を見下ろし、屋根伝いに走っていくと目的の少年が走っているのが目視で確認出来た。
追いつき、追い抜かした所で飛び降り、彼の目の前に着地する。
彼は止まろうとするが、止まりきれずアリスとぶつかった後、急いで逃げようとする。が、首根っこを掴まれ、逃げる事は叶わなかった。
「捕まえた」
そのまま逃げようと懸命にあがく少年を引きずりながら、適当な広場まで来ると少年を投げるようにして離してやる。
少年は再び逃げ出そうとするが、アリスに先回りされ観念したのかその場に座り込む。
「ねーちゃん、俺をどうする気だよ」
「どうも? ただ話をね」
アリスはしゃがみ込みながらそう優しげな声で話しかける。
「話って、何話すんだよ」
「んー、じゃぁ、なんでこんなことしたの?」
と、問いかけた所で耳元から寝息が聞こえ始める。
「・・・・・・お礼だよ。行きそうな店片っ端に一部始終とその格好話せば、勝手に値引きとかしてくれるだろうからそれで」
彼は目線を逸らしながらアリスにそう伝える。
確かに、ローブを着て大きなカバンを携え、見慣れぬ剣を持ち、スライムと共にいる女性となれば一目瞭然だろう。間違えようがない。
「お礼か。私、そんなたいそうな事してないけどね」
「したよ! ねーちゃんは部外者だから知らないんだろうけど、あいつら!」
途端に此方を向き叫ぶかと思ったら少年はしょげる。
「ねぇ、ねーちゃん」
「ん?」
「旅人なの分かってるけど、街にいてくれよ! 街守ってくれよ!」
「無理」
キッパリと断り、立ち上がる。
「私が守れるものは限りがある。で、この街は大きすぎる」
「この街、小さいのに?」
「うん。君には小さく見えるかもしれないけど、私から見れば大きい。すごく」
過去、戦争の影響で失われた故郷。その後拾われ居着いた先で燃えた村。救えなかった、止めれなかった友人や師匠。それぞれを思い出しながら彼女はそう伝える。
「だから、君が強くなって守ればいい。小さく見えるんでしょ? この街」
「出来るかな? 俺に」
「君次第。ほら行くよ」
そういうと身を翻し歩を進ませ初め、彼に聞こえない声でこう呟く。
「はぁ、ガラでもない・・・・・・。それに期待させるようなこと言って・・・・・・」
「え? 何処行くの?」
そう問いかけられ、アリスは少し考えこう答えてやる。
「着いたら分かる」
「な、なんだよそれー!」
と少年は叫びながら走ってついて来た。
「あ、そういやねーちゃん名前は? 俺、スヴェン・ジョアンヴィルってんだ! スヴェンでいいよ」
「私は・・・・・・」
一瞬、偽名を名乗ろうかと考え言葉に詰まるが、現在の本名を名乗る事にした。
「今はアリス・カゲミヤって名乗ってる」
「アリスねーちゃんね。今はって事は名前変えたの?」
「うん、変えてる。旧名は教えないよ」
「聞かないよ。スライム触っても良い?」
そう言って、走り後ろからスラが寝ている肩側に回りこむ。
「寝ちゃったからダメ」
「そっかぁ、残念」
随分と人懐っこい子だと考えつつ彼に目線を落とす。
すると、それに気がついたのか彼もアリスに目線を向ける。
「どうしたの?」
「いや、急に馴れ馴れしいなと」
少し皮肉を込めてそう言ってやると素直に謝ってくる少年にため息をつき、冗談だと伝える。
「そっかーなら良かった」
彼は無邪気に笑う。
彼女は内心、扱いづらいと考え、変に首を突っ込むんじゃなかったとも考えた。が何処に行くのかワクワクしながらついてくるスヴェンを見て到底そんな態度を取ったり、言葉を吐けはしなかった。
スヴェンの話に付き合い、数分歩いた所でとある店に到着した。
「武器、屋?」
「そう。武器屋」
アリスは短く返答し、店のドアを開けた。
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