3章1節:情報整理

「野宿が始まってもう3日か・・・・・・」


 星空を見上げながらディードはそう呟く。

 アリスの言う逃走ルートを通り、現在はマーレント領の中立地帯。殺害依頼が出ているのか2回ほど傭兵からの襲撃を受けていた。彼はこの事は予想出来ており、中立地帯の移動は避けたかった。

 だが・・・・・・。

 


 3日前。


「中立地帯を抜ける!?」


 ディードはオウム返しをするようにそう叫んだ。


「うん。で、魔物領にある砦に行けって言われた。リザさんか小物なら何かわかるじゃない?」


 頬を膨らませ、不機嫌そうなギャスがゆっくりと答える。


「その付近にある砦は現魔物軍に反発してる組織、俗にいう反乱軍が占領してるギャ。だから、助力を得るならうってつけ」


 「じゃぁ、安全?」とスラは文字を書き「そう」とギャスは即答する。

 どうやら、既に文字は読めないという嘘を付く気は毛頭ないらしい。


「でもなんで中立地帯抜けるんだよ? 傭兵雇って差し向けるって手段もあるだろ?」


 魔撮影機-クリスタルと呼ばれる写真機が出回っており、もし撮られていた場合、高額の賞金を掛け傭兵を雇う事も、依頼と言う形で依頼所に送り不特定多数の傭兵を動かすのも容易。


 そして、最低でもディードの昔の写真を所持しているだろう事は予測出来ていた。

 なんにせを彼から見たらあまりいい手には思えなかった。


「理由は2つ。まずマーレント領はこの中立地帯付近でアトランティッド校って所の大規模演習があるの。立ち入り制限が掛かってる上に、期間はよく覚えてないけど結構長かったはず」

「魔物領は中立地帯ギリギリに軍を置いてるギャね。中立地帯まで踏み込んで来るのは少量だけれど、中立地帯から抜けたら即バレて囲まれるギャよ」

「それが2つ目。極力戦闘を避けるなら中立地帯を抜けていくのが無難なの。まぁ、後2~3日も歩けば演習地域じゃないマーレント領に出れるから、早めに出るならこの時だね。どちらにしろマーレント領には入らないといけないし」


 「なるほど」とディードは呟きながら眉をしかめる。


「兄さん、何か問題でもある?」

「いや、問題はないが、お前の情報源になってる奴って何者だ?」


 何をどう考えてもディードの現状を知りすぎている。

 とりあえずの目的地が反乱軍の砦と言う点も引っかかっていた。


「生徒会副会長様。それ以上の事は知らないし、探っても情報がいまいち手に入ってこないから分からない。信用できるかどうかは半々って所」

「・・・・・・分かった。まぁ、こっちも似た状態だし人のことは言えねぇか」


 彼はギャスに目線を向けその後、疲れ果て寝ているリザ之助に目線を向ける。


「当面の行動指針を決めた所で兄さんと妹ちゃんに先に言っておく事があるの」


 咳払いをし、アリスはゆっくりと以前あったとある事件の事を話し始める。

 それはサクラ・カゲミヤと呼ばれる女性の暴走そして、前当主にてアリスの師匠の死の事であった。

 彼女はディードの力になるとは別に、そのサクラ・カゲミヤと呼ばれる女性を殺す事も目的としていた。


「なんだけど、当面は兄さんの逃亡優先するからその点は安心して」

 


 アリスに助力していた謎の情報源、魔物軍の動向、ギャス達の立場、ギャス本人の目的といった不明瞭な点が多い。

 一度整理しなければと考えつつ、思うようにスラと2人っきりになれる状況にならなかった。


 「危ないから」と言って、この3日間リザ之助かギャスのどちらかが、ずっとそばに居たからだ。ただ、リザ之助は本当に心配だっただけなのか、魔力が回復しきった後は「気をつけて」といって心配するだけで無理に一緒に居ようとはしなかった。

 あまり使いたくはなかったが、アリスにそれとなく頼み、ギャスを引き剥がしてなんとか時間を設ける事が出来た。


「さて、スラ。まずはギャス達の事どう思う?」


 久々の2人っきりの時間とはいえ、呆けてのんびりと時間を浪費するわけにも行かず本題を切り出す。


 「どうって、多分反乱軍の所属だと思うよ」と書かれディードはびっくりする。

 すると、続けて「だって、私が安全? そうって聞いて即答したでしょ? それって内情知ってますって事だよね」と書き言いたい事を理解する。

 もしギャスが内情を知らない場合、よほどの馬鹿じゃない限りは安全とは言い切れない。言えても曖昧な表現になるはずだ。更に初日の魔物軍の暴走が云々と言う台詞にも合点が行く。


「あー・・・・・・となると反乱軍は暴走しかけてる魔物軍から離反したって所か」


 「暴走ってのが本当ならねー」と書き、スラはため息を付く。そして、「多分あなたを担ぎ上げるつもりだと思うよ。ほら、打倒してすり替える王は此処に居る分けだし、見返りなしで助けるなんて虫のいい話なんてないよ~」と続ける。


「確かにな。なら従順な振りして逆に利用しちまうって手もありか」


 と、冗談を言うと「それが一番だねー」と書かれ彼は思わず笑ってしまう。


「じゃぁ、次はアリスの情報源の方。此方はどう思う? 反乱軍関係者なのは確実だろうが」


 スラの顔が少し険しくなり「情報が少なすぎてよく分からないね。でも、プッチちゃん達以上に気をつけておいた方がいいかも」と返ってくる。


「そう返すって事は何か引っかかるのか?」


 「そりゃ、おかしいからね~」と書かれディードは思わず「どこが!?」と返してしまった。

 スラが言うにはまず、反乱軍と繋がっていたらなぜアリスをギャスと共に送らなかったのか。

 次に準備が用意周到な風に見せて、行動に移させるまでにワンクッション置いたのか。


 情報共有が遅れたという線もあり得るが、魔通信機の存在で可能性は低い。

 魔通信機-ドラウプニルと呼ばれる代物は、魔力周波数と呼ばれる物を予め設定しておき、その周波数が合っている物同士が通信ができるという物だ。主に魔通信機や量産型ドラウプニルと呼ばれている。


 魔通信機には子機と親機の2種類が存在する。指輪の形をし、兵や傭兵の間で使われている物は子機と呼ばれている。子機同士での通信可能範囲は最大4~5キロと言った所だ。親機と呼ばれる物は持ち運べるような代物ではなく、人間領には各地に大きな塔が点在している。これがドラウプニルの親機だ。通信可能範囲は最大30キロ。そして最大の特徴は親機は単独での通信は不可能だが、中継器としての役割がある点。つまり、子機の通信可能範囲は親機を通す事で広げる事ができるのだ。


 魔物領、魔物軍ではあまり流通はしていないが国境近くであり、アリスから見せてもらった地図が正確ならば、親機から30キロ範囲に存在する反乱軍の砦。そして魔通信機を入手できるアリスの情報源。繋がっているとすれば通信して情報共有して居ないわけがない。とスラは結論づけていた。


「つまり、俺の状況を把握したのはつい最近で、アリスの探し人と魔王の息子が同一人物かっての裏とりの時間を稼ぐために動かすのを遅らせたみたいな感じか?」


 「裏とりというより、私達をどう"動かすか"の変更だと思う」と書かれ彼は少し悩む。


──そうなると、なぜ反乱軍の砦に向かわせるんだと言う話になるんだよな。


 「問題はなんで反乱軍に向かわせるかって話だよね」と続け彼は肯定する。


「あぁ、そこだな。・・・・・・なぁ、ふと思ったんだが、つながってはいないが内情は知っているって線はないか? 例えば密偵が反乱軍に紛れ込んでいるとか」

「むゅー・・・・・・」


 スラは唸るようにそう鳴くと「有り得そうだね~」と書いた。


「ただ、もしそうだとしても、中身は一切見えないのがなんともなー」


 そう言うとディードは体を起こし、立ち上がる。


「さて、そろそろ戻らなきゃな」

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