第27話 神帝暦645年 8月15日 その20

「さて、チェックメイトですね。両腕を切断された今、あなたに戦闘力は半減以下になったようですね?」


 バンパイア・ロードは右腕は二の腕部分から、左腕は肘から先の部分を団長の攻撃により失っていた。まだ、足業を使えば戦えそうではあるが、両腕を失った状態では、満足に団長の攻撃をしのぎ切れるわけもないのだ。


「ふむっ。そうであるな。致し方なしである。おい、そこの三十路女。あの大爆発を防いだほどの魔力を風の断崖ウインド・クリフに込めておくのである」


「うふふっ? それはいったい、どういう意味なのですわ?」


「やべえ! バンパイア・ロードのやつは追い詰められたから本気を出そうって腹積もりだぜ! おい、ヒデヨシ。お前も風の断崖ウインド・クリフに魔力を込めろ! 俺たちが闘いに巻き込まれて、俺たちだけが吹っ飛ばされるぞ!」


「ウキキッ! それは大変なのですよ。まだ、子豚が丸々1匹残っているのですよウキキッ!」


 心配するとこ、そこかよ!? この状況でまだ焼肉パーティを続行しようとか、すげえな、お前!


「風よ、私たちを包み込むのですわ! 風の断崖ウインド・クリフ発動ですわ!」


「風よ、われらを守るのですよ! 風の断崖ウインド・クリフ発動です。ウキキッ!」


 アマノとヒデヨシが急いで観覧席の俺たち6人を風の魔法で包み込む。その俺たちの様子を見終わったバンパイア・ロードが一言


「良きかな。良きかなである。さて、これで観客を巻き添えにする心配はなくなったのである。さて、目の前の強き男が万全の状態なのである。われわれの本当の力を発揮するのである!」


 バンパイア・ロードがそう言うと、やつの周囲を黒いモヤが渦巻くように発生しだすのである。何だ? こいつ。いったい、何をするつもりなんだ?


「【欲望の団デザイア・グループ】の首魁であるノブナガよ。お前ほどの力の持主なら、われが何をするかわかるはずなのである」


「そんなに買いかぶられても困るんですけどねえ? でも、予想できることはあります。バンパイア族が武器を持たないのか。その応えをあなたは用意しているわけですよね?」


「ふむ。よくよく調べているのである。さすがはA級冒険者なのである。水の回帰オータ・リターン発動なのである!」


 バンパイア・ロードのやつが回復魔法を使ったぞ? なんだ? あの魔法にあいつの武器を持たない理由と関係あんのか?


「続けて、風の恵みウインド・ブレス発動なのである!」


 なん……だと!?


 水と風の魔法を重ね合わせて、回復力をアップさせてやがんのか? 確かに、風の恵みウインド・ブレスは身体の速度を上げる魔法ではあるが、それを回復魔法である水の回帰オータ・リターンと合わせることで、あいつは異常とも思える回復力を手に入れているのか!


「おい、アマノ、ユーリ、そして、ヒデヨシ。あんな合成魔法が出来るって知ってたか?」


「うふふっ。いいえ? あんな回復力アップの仕方なんて初めて視たのですわ? あらあら、これはパクらないといけませんわ?」


「うおーーー。これはすっごい勉強になるよーーー。あたし、今度、お父さんが怪我をした時に試してみるよー!」


 アマノとユーリが新たな経験を積んだとばかりに嬉しそうにしている。そりゃそうだろうな。ニンゲンがバンパイア並みの回復力を手に入れられるかもって話なんだ。この合成魔法をパクらずに何をパクれと言うのか!


「ふむっ。ニンゲンよ。これはかなりの強引な回復力アップの合成魔法である。あまりにもの身体の再生速度のために、精神を掻き毟られるのである。いたたたたたたたたっ! ぐあああああああっ!」


 バンパイア・ロードが地面にゴロンゴロンッバタンバッタン! と、のたうち回りながらも、失った両腕を高速再生させていく。しかしだ。バンパイア・ロードは白目を剥いて、さらには口から泡を吹いているのだ。俺は思わず、ごくりと唾を飲んでしまう。


「おい、アマノ、ユーリ。俺が死にかけの大怪我でもしないかぎり、水と風の合成魔法で回復させようなんてするなよ!?」


「うふふっ。残念なのですわ。せっかくツキトを鞭でしばいたあとに試してみようと思ったのに」


「やめろ! 鞭だけでもシャレにならないくらいの苦痛なのに、さらに、そんなことされたら、気が狂うわ!」


「はあはあはあ。これでないと再生できないほどの傷を負わせるだけでも、貴様はすごいのである。これほどの大怪我、100年前の貴様の先祖との闘い以来なのである!」


「えっ!? あなた、うちの家系にたまに喧嘩を売りに来たって言われているバンパイア・ロードだったんですか!?」


 あっ。そう言えば、昼間、バンパイア・ロードがそんなこと言ってたなあ。焼肉を楽しんでたから、すっかり忘れてたわ。


「ふむっ。およそ100年ごとに貴様の先祖たちとは闘ってきたのである。だが、今から100から150年前、英雄と呼ばれたお前の先祖は、今のお前以上の力を出していたのである」


「えっ!? 先生の御先祖さまが英雄って呼ばれていたんですか!? ちょっと、待ってくださいよ! 先生がこの家系で1番最初に英雄って呼ばれる予定だったんですよ!? あああ、うちの御先祖さまは、先生のやりたいことをひとつ奪うとは、許しがたいですね!」


 怒るとこ、そこなの!?


「団長。もっと、こう、大昔からの因縁の対決って雰囲気を出してくれないか? そうじゃないと、観戦している俺たちが盛り上がらないだろ?」


「いや、そんなこと言われても。前から言ってますが、先生の父の代では宿無し一歩手前まで没落した家系ですからね? その前からも色々と謎の事件に巻き込まれたりとかあったみたいですが、先生って、その辺りのことを、親からほとんど何も聞かされてないんですよねえ?」


「ふむ。やはり、貴様も情報を隠蔽されている身なのであるな。これで四十路の男との会話を合わせれば確定なのである。もし、興味があるのであれば、ニンゲン族の大書庫を探ってみれば良いのである」


「大書庫? 帝立図書館のことですかね? もしかして、あそこの開かずの間と呼ばれているところに先生の家系に関することがあったりするんでしょうか?」


 えっ!? バンパイア・ロードの言ってた大書庫ってそこなの!? マジかよ。あんなところに忍び込もうモノなら、団長と言えども国から追われる身になるぞ?


「おい。団長! 間違っても、開かずの間に潜入しようとか言い出すんじゃねえぞ!」


「まあ、別に、先生って自分の家系がどうとか気にしないタイプなんで、割りとどうでも良いですよね。それよりも、うちの英雄と呼ばれた御先祖さまでも倒せなかった、この男を倒すことのほうが重要ですからね? そしたら、先生は英雄以上ってことになりますからね!」


「ハハハッ! その意気や良しである。さあ、次の隠し玉を見せるのである。土くれよ、ヒトの形となれ! 石の虚像ストン・アイドル発動である! さらに、出でよ、炎の人形よ! 炎の演劇ファー・シアタ発動である!」


「ちょっと、待ってくださいよ! 今更に気付きましたけど、何をさらっと四元魔法の全てを使っているんですか? しかも、全ての属性で魔力B級ですよ!?」


「あっ、本当だ! そういえば、こいつ、石の鎧ストン・アーマを使いながら、同時に風の断崖ウインド・クリフとか、風の柱ウインド・ピラー使ってたじゃん! アマノたちは気付いてたか!?」


「うふふっ。私も今更ながらに気付きましたわ? ダメですわ。カツイエさんと言うニンゲンをやめているヒトが四元魔法の全てを使っているので、すっかり感覚が麻痺していたのですわ?」


「ウキキッ。それでもカツイエ殿は魔力E級なのですよ? ウキキッ」


「ふひっ。全ての属性の魔法を使いこなし、さらに魔力はB級とはこれいかにでございます。もしかして、バンパイア・ソンチョウや、バンパイア・チョウチョウも同じことが可能なのでございますか?」


「ふむっ。精を嫁に搾り取られすぎて薄い男よ、良い質問なのである。あやつらは魔力の桁はわれとは違うものの、本当はどの四元の魔法を使いこなすことは可能なのである。ただ、それがバレては厄介ゆえに、敵と対峙する時は四元のうち、ふたつの魔法しか使わないようにしているのである」


「うわーーー。今日1日で、どれだけ今までの常識を覆ることになったんだろー。あたし、もしかして、今日1日の出来事は全部、夢なのかなーって疑いたくなってきたよー?」


「ユーリ。安心しろ。ここに居るモノ誰もがそう思っているぜ? 昼間からバンパイア・ロードが出てくるわ。さらにそいつが団長並、いやそれ以上にふざけたことをしでかすわ。俺たち、ここで起きたことは一切、口外しないほうが良いような気がしてきたぜ?」


「うふふっ。間違いなく、魔術師サロンあたりに誘拐されますわね。そして、知り得た情報とその精査のために、口に出せないような実験をさせられるのは間違いありませんわ?」

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