第46話 決戦重戦車!

衝撃で砲手席から弾き飛ばされそうになるのを辛うじて堪えて、

ふらつく頭を振って車内を見回すミハルの眼に映ったのは・・・


「ミリア!大丈夫?」


砲塔バスケットに崩れ堕ちて、気を失ったミリアに声を掛けるが反応が無い。


「リーン!リーン中尉。ミリアをっ!」


キューポラに居るリーンにミリアを見て貰おうとして振り返るミハルの目に、

キューポラでしゃがみこむ様に気を失っているリーンの姿が写った。


「リーン?リーン中尉?」


慌てて砲手席からキューポラ内のリーンの元へ駆け寄って、

気付かせようと肩を揺すり声を掛ける。


「う・・うーん。ミハル・・・?」


まだ呆然と定まらぬ眼をしたリーンの肩を揺らして正気に戻らせる。


「しっかりして、リーン。まだ終っちゃいない。貫通はされなかったから」


指揮に戻るように言うとミリアの元へと駆け寄って。


「ミリア!しっかりしなさい。まだ戦闘中なのよ!」


背中を叩いて気付かせる。


「う・・・痛たた。はっ!そうだった弾を込めなきゃぁ!」


飛び起きたミリアがふらつく身体で、ショックで取り落とした魔鋼弾を拾う。


「う、みんな大丈夫?被害報告を入れて」


なんとか気を取り戻したリーンが、マイクロフォンを押して被害の状況を確かめる。


各員が持ち場のチェックをする中で。


「車長!大丈夫ですか?私の判断で一時後退中です。どうしますか?」


ラミルは敵弾の衝撃でも気を失わずに済んでいたらしく、

リーンの命令を待たずに独断で後退し、敵の射線から車体をかわしていた。


「ラミル、よく判断してくれたわ、ありがとう。各員被害は?」


ラミルとリーンが会話している間に、ミハルも砲手席へ戻ると照準器等のチェックを済ませた。


「砲塔、砲側照準器異常なし。攻撃に支障なし!」


リーンに砲撃には問題が無い事を報告する。


「無線も宜しい」

「動力系異常なし!」

「装填、魔鋼機械異常なしです!」


各員が全て異常がない事を伝える。


ー  衝撃は大きかったけど、ダメージは少ない。大した装甲ね。

   でも、あんな衝撃を何回も喰らう訳にはいかないわ

   中の人間の方が先にやられてしまうもの・・・


リーンがいまだガンガン痛む頭を擦って考えた。


「戦況はどうなったんだろう。敵重戦車は近付いて来たのかしら?」


キューポラから観測に戻るリーンの瞳に先程より近付いて来た敵KG-2が6両見えた。


ー  6両?確か後9両いた筈なのに。バスクッチが倒したの?3両も・・・


斜め前方で砲撃を続けているバスクッチ小隊を見て気付く。


ー  そうか、2両の75ミリで足を止めさせて、バスクッチの88ミリで倒す。上手い連係ね


3両を倒した攻撃方法に納得したリーンが、改めて攻撃を命じる。


「よし、ミハル。バスクッチと私達で後6両を倒すわよ!」


砲手席で照準を開始したミハルに指示を出す。


「ラミル、戦車前へ!今度は喰らわないように細かく動くわよ」


「了解!」


リーンの命令にギアを変え前進に移る。


「キャミー、バスクッチへ連絡して、本車も攻撃を再開するって」


「はいっ、車長!」


キャミーがレシーバーを押えて直ぐさま、隊内無線で連絡を取る。


「ミハルっ、さっきのお返しをしてあげて。熱いお返しを・・・ね!」


照準器に健在のKG-2を捉えたミハルが振り返る。


「照準よし、右側面を見せる敵重戦車、射撃準備よし!」


キューポラのリーンに命令を乞う。


「ラミルっ停車っ。ミハルっ撃てっ!」


車体が停止し、揺れが収まるタイミングを逃さずミハルの指がトリガーを引き絞る。


((ズッドオオォーンッ))


必殺の88ミリ砲弾が右側面を見せているKG-2に飛ぶ。


((ガガーンッ グワッ))


狙い違わず側面後部に命中し、エンジンが噴き飛び火災が発生する。


「敵重戦車、撃破炎上中!」


キャミーが報告するのと同時に。


「バスクッチ小隊2番車、キャタピラを切られました。行動不能!」


ラミルの叫びがヘッドフォンから流れる。


「2番車が!?」


キューポラのレンズを通してバスクッチ小隊の方を見ると、

車体を敵に晒すように止めてしまった2番車が見える。


ー  いけない。敵に弱点の側面を見せてしまっている。

   早く脱出しないと、狙い撃ちの弾が来る!


リーンが搭乗員を思って一刻も早く脱出してくれるのを願ったが、


((グワンッ ガガーンッ))


脱出も間に合わず敵5両からの集中射撃を受けて、

2発の直撃弾と3発の至近弾で大破炎上してしまった。


「くそっ!2番車大破。撃破されました!」


ラミルが歯を食い縛って味方の被害を報告してくる。


ー  味方の被害に構っている場合じゃない!


ラミルの報告を聞いてもミハルは照準器から目を離さず、

残り5両となったKG-2に照準を合わせる。


「敵はどうやらバスクッチ小隊に狙いを絞っているみたいね。

 ミハル、奴等が砲をこちらに向けるまでに撃つわよ!」


「了解ですっ!」


バスクッチ小隊に砲口を向けているKG-2にいを定める。


砲塔側面を晒した敵に照準を絞りながら、


「撃ちますっ!ミリア射撃後直ぐに装填してっ!」


ミリアに次弾の用意をさせて指を引き絞った。


「撃てぇっ!」


((ズグオオオォムッ))


射撃した弾が残り5両の内最も近い敵に飛ぶ。

ミリアが素早く次弾を込めると、


「装填よしっ!」


即座にミハルに告げる。


照準器の中で砲塔に大穴を開けられた敵戦車から乗員が脱出するのを確認して、

その隣で射撃する為に停車した敵へ照準を合わせた。


っ!」


次々と射撃する。


((バッガーンッ))


「しまった。バスクッチ隊3番車被弾!停車っ!」


リーンの声がヘッドフォンから流れるが、ミハルは照準を止めない。


ー  早く敵を諦めさせないと。

   こちらが倒されてしまう。アルミーアに狙いが集中しちゃう!


ミハルは照準器の中で後部から火災を発生させた敵にトドメの一撃を加える。


ー  どうして脱出しなかったの?ごめんね・・・


火災を発生させても砲をこちらに向けてくる敵に、指が勝手にトリガーを引いた。


((チッ))


炎上中の敵に射弾を送り込み撃破を確信すると、

その隣であくまでバスクッチ隊を砲撃しているKG-2に照準を合わせる。


「残り4両、突撃してくるっ!」


リーンが敵重戦車を警戒して、


「近付かれる前に倒しきらないと。

 ミハル、手近な奴から倒して。

 ラミル、後退してっ、早くっ!」


敵が少しでも接近してこちらの装甲を破ろうと計って来ているのが解る。


「キャミー!バスクッチに連絡。

 左側の2両を狙ってと、こっちは右側の2両を倒すわ!」


マイクロフォンからリーンの命令を聴いたキャミーが無線で連絡を取る。


ー  敵は何故退かないの?13両中9両も撃破されたというのに。

   こちらは4両中2両をやられただけなのに。

   しかも、自分達を撃破していく2両が健在だというのに?


照準器の中で、只、我武者羅に突撃して来る4両に言い知れない虚しさが心を過ぎる。


「どうしても・・・譬え死んでも私達を倒して道を開きたいみたいね、彼等は・・・」


リーンがミハルと同じ様に思ったのか呟く様に言った。


「何故?それが命令だとしたら、そんな命令なんて従わなきゃいいのに・・・」


キャミーも向って来る敵に同情の念を持った。


「私もそう思うけど・・・それだけなのだろうか?

 本当に命令だけで突撃してくるのだろうか。

 私には敵が何かに怯えているかのように思えて来るのだけどな」


ラミルが敵重戦車の攻撃方法があまりに不自然に思えてそう呟いた。


「何かに怯えている?一体何に怯えているというのですか?」


ラミルの呟きにキャミーが聞き返すと、


「そうだな・・・自分達よりもっと強い者に後ろから撃たれるのを怯えているかの様に・・・だ」


ラミルの眼が敵重戦車の更に奥の方へ向けられる。


「まさか・・・同士討ちを怯えているのですか?」


キャミーはラミルの一言に首を捻る。


「違う。前にあっただろ、衛星国の兵を後ろから撃つ馬鹿な野郎共と闘った事が・・・さ」


ロッソア帝国の軍には衛星国出身者を見張り、

後退する者や攻撃を怠る者に同じ軍だとしても構わず撃つ懲罰隊が居る事を思い出す。


ー  そう、アラカンの村でクーロフ大尉達を殺したのも懲罰隊率いる重戦車隊だった。

   もし、そうだとしたら、この重戦車隊の後方にも新たな敵が控えている事になる


照準器で敵重戦車を捉えながらも、その後方に目を向けてミハルはあの闘いを思い出していた。


「敵残存重戦車、距離2700。バスクッチ車に狙いを絞っている右側の2両。撃てっ!」


リーンの命令に思考を中断して狙いを絞る。


ー  アルミーア達を撃たせない。あなた達が退かないのならば、私は撃つ!


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