第98話 早期覚醒
やあ、おいらです。読者の皆さま〜。最終回に向けて、ガンガン突き進んで行くんで、遅れないでついてきてくれよな〜。よろしく……違いました。よろしくお願いいたします。
いつものように幕が開き……ではなくて、いつものように目が醒める。今日も生きている。時計をみる。電波時計だから、正確な時を刻んでいる。万が一、夜中に電池が切れていなければですけれど。時刻は朝の四時。毎度毎度の早期覚醒。寝たのは一時。でも入眠するまでに時間がかかったからね。おいらはナポレオンとだいたい同じくらいの睡眠時間をとっていることになります。でも、あちらさんは一時とはいえ、フランスの皇帝。おいらは、もしかしたら悪の皇帝になれたかもしれなかったけれど、無能な部下の些細なミスによって、日本の警察に拘束され、検察に送られた。そこに、キムタクさんみたいな検事がいたら、もっときちんと調べてくれたかもしれないけど、おいらが捕まったのは残念ながら、神奈川県警。キムタクさんは東京の検事さんだから、おいらとは関係なし。おいらは一審で死刑判決を受けたの。で、何となく面倒だったから、控訴もしなかったよ。国選の弁護士さんは必死になって、おいらを説得したけれど、おいら、鬱が強く出ていてどうでもよかったの。看守の先生にそのことを説明して、本当は消灯時間以外はお布団に入っちゃいけないんだけど、病気だからいいよと許可をもらったの。看守の先生は警察病院に入院する? って聞いてきたけどお断りしました。動きたくなかったんだ。
なぜか、途中で回想がインサートされちゃった。目醒めてから、ゴミの収集日はとっととゴミ収集場に捨てに行きます。二度寝という失態を犯したくないからです。でも、今日はゴミの日ではありません。そうするとテレビを観るか、ネットをみるかのどちらかになります。最近はこの駄文の状況を確認したいから、ネットが中心です。TVを観る時は『はやドキ』から『あさチャン』という、TBSを観ます。昔は美人キャスター勢揃いの『おは4』、『ZIP』ルートの日テレ系が主流でしたが、あまりにもニュースをやらないで、エンタメばかりなので、転向しました。
六時半くらいに、なぜか格子戸に付属している、雨戸を開けます。マンション、アパート暮らしが長かったおいらは雨戸を開け閉めするの三十年ぶりくらい? 二十年かな? 忘れてしまいましたわ。
そうすると、いつもなら、スズメさん達が朝のご挨拶にくるのに、今日は一羽たりとも現れません。おいら、スズメさんが好きだから、パンくずとかあげていたの。さらに、看守の先生には内緒で、格子戸から、路地を歩いているのらねこたちに、クリエイトで買った、カリカリの猫餌をあげていたのですが、こちらも来ていない。「さすが、野生の生き物は勘がいいな」と思いました。
朝食を買いに、ふらりと出かけようとしましたが、看守の先生が来て、「444号。所長の命令だ。扉の鍵を閉める」と言って締められてしまいました。
「あの、お腹と背中がくっついています」とおいらが嘆くと、看守の先生は「ああ、囚人食を用意しよう。口の肥えているお前に食べられるかどうかはわからんが」と言って何処かへ行きました。しばらくして、見た事のない若者が、囚人食を持って来てくれました。弁当でした。玄米入りのご飯と野菜の煮付け、焼き魚、種類はわかりません。で、漬物。残してもいいけれど、お代わりはないそうです。おいらは幼少時、貧乏暮らしでしたから、問題なく頂戴しました。そして、ゴミを片付けようとしたら、弁当の蓋の裏に「何の問題もございません」と書かれていました。おいらは似合いませんけれど、ニヒルに片頬をあげました。悪いぺこりの登場です。
まあ、あとは特にすることもないので、布団にくるまってぼんやりしていました。ああ、気になるのは未読の本の山。まあ、もう読めませんね。もうすぐ、おいらの死刑は執行される。今日のざわついた空気感で、それはわかってしまいます。読者の皆さんもわかりますよねえ? えっ、まさか? そういうあなたは『ナゾトレ』とかいう本を読んで、発想力を磨いたほうがいいんでないの? おいらは、ああいうの大嫌いだから、やらないけどさ。
えっ、心残りはあるかですって? そりゃあ、ありますよ。旧たまプラーザ時代にさ、おいらの母校の後輩の女の子がバイトで入って来てさ。まあまあ可愛いわけ。でも学生だから、仕掛けなかった。その娘、大学卒業してもしばらくは、たまプラでバイトしていたんだけど、体調崩して故郷の宮城県に帰っちゃった。で、その娘、元妻と仲がよかったから、こちらにいた時分は、おいらもついて行って、晩飯とか食べていたのさ。その支払いのほとんどはおいらだったの。そうすると、おいらはいやらしい男、もちろん女の時もあるよ。雌雄同体だからね。とにかく、その娘が欲しくて仕方なかった。その鬱屈した思いが躁病の時に、爆発して、東北新幹線に乗って、彼女の住んでいる街と思われるところの駅までの切符を買ったわけ。でさあ、なぜか福島で降りろって言われたので、「あれ? 仙台じゃないのかなあ」と思ったけれど、脳がまともな判断できないから、そのまま、福島に行って、目的の駅についたの。なーんにもなかった。秋だったから、紅葉が綺麗だったけど、遠い。明らかに、トンチンカンなところへ行ってしまったのです。でも、福島のデパ地下の売り子さん達はとてもいい接客していたな。震災後ということもあるけどね。昔行った仙台の売り子は全然ダメ。なんか、お高くとまっててさ、トンチンカンでね。おいらに化粧品の試供品を渡そうとしたんですよ。いくらおいらが、福山雅治に似ていたって、男女の区別くらいつけてよ。
まあ、その事件が、元妻経由で彼女に伝わり、どうも怒らせてしまったみたい。いくら、病気だったって、説明しても関係回復はないね。仕方がないことです。
うん? なんか足音がする。それも、大勢だ。今は午前十時。さあ、何が起こるのかな? 馬鹿でもわかりますか? そだね〜。
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