第22話動き出した犯人 ⑦

「くっ! 葵、科学生物部室に急ぐぞ!」

「わかった!」


 俺と葵は科学生物部室に向かって走った。美咲ちゃんが無事であって欲しい、という気持ちと、犯人を捕まえて今回の事件を終わらせたかった。


「科学生物部室って、やっぱり、香月先輩が犯人で間違いないよね」


 葵が走りながら俺に聞いてくる。


「…………うーん」

「本当に、今回の事件はあんたらしくないわね!」


 ごもっともな意見で、今回は俺らしくない。

 けど、今回だけは何か違和感を感じる。そして、その違和感は俺にとって、とてつもない不安を呼び起こさせる。


 本校舎から旧校舎の渡り廊下に入る頃には、生徒たちの数もまばらになり俺と葵は一気に渡り廊下を走り抜けた。旧校舎一階の一番奥が科学生物部室だ。

 科学生物部室に到着すると同時に、葵は扉を開けようと取っ手を掴んだ。俺は取っ手を引こうとする手を止めて葵を制止する。


「何なの? ここに美咲ちゃんが居るんでしょ」


 葵はほとんど聞こえ無いような小声で話す。


「居るけど、これは罠だよ」

「えっ!」


 俺は葵の手を取っ手から放し、俺が取っ手を取り、軽く力を入れてみる。

 思った通りだ。

 以前、香月先輩に美咲ちゃんの机に封筒が入っていた朝に、美咲ちゃんの教室に入った理由を聞きに行った時と比べて、若干、扉を開くときの負荷が大きい。


「ちょっと、下がって」


 俺は葵に扉から離れるように指示した。

 扉の取っ手を持つ手に力を込める。と同時に、身体を半身だけ、扉を収める側にずらした。


 シュッ!


 俺の肩先を物凄い勢いで、何かが通り過ぎる。


 ドォーーン!


 反対側の壁に、俺の肩先を通り過ぎた物体が突き刺さった。


「ひぃッ!」


 葵がその様子を見て、声にならない声をあげた。

 突き刺さったのは弓道部で使う矢だ。それも、矢先をかなり鋭利に研ぎ澄ませてあるのだろう、木造校舎の壁に深く突き刺さっている。

 もしも、扉の正面に立っていたら、今頃、壁に刺さっている矢は、俺の喉元に突き刺さっていたはずだ。


 ギリセーフだ。


 部室の中を覗き込むと、奥の方に両足首、両手首をガムテープでぐるぐる巻きにされ、口もガムテープが貼られている美咲ちゃんの姿があった。


「美咲ちゃん!」


 葵は美咲ちゃんに駆け寄り、急いで手足や口に貼られているガムテープを外す。


「大丈夫? 美咲ちゃん!」

「う、うん。でも、こ、怖かった…………」


 美咲ちゃんは目から涙をぽろぽろ溢しながら葵に抱きついた。

 部室内は相変わらず、全ての窓のカーテンが閉められ、水槽の上部にある光が辺りをぼんやりと照らす。

 扉から真っ直ぐ伸びた位置に、弓道部に置いてある弓が固定されて、扉に照準を定めていた。

 弓の弦にフックが付けられいて、そこから伸びるロープが扉へと繋がれている。どうやら、扉を開くとそのロープが外れ、矢が発射されるという単純な造りだ。


 葵が、美咲ちゃんを抱きかかえるように起き上がらせる。


「そっちはどう?」


 ぐるりと、辺りを見まわすが人の居る気配は無い。


「いや、誰の姿も見えない」

「そう」

「美咲ちゃんは大丈夫か?」

「うん。拘束されていただけで、怪我とかは無いみたい」


 美咲ちゃんは、葵に寄りかかりながらこちらに歩いてくる。


「お兄さんは大丈夫ですか? 矢が凄い勢いで飛んでいきましたけど…………」

「ああ、あれは危なかったね。それよりも、美咲ちゃんは大丈夫だった? 香月先輩に連れ去られたの?」

「それがよく覚えていないんです。突然、後ろから襲われて…………それから記憶が無くて、気がついたらここにいたんです」


 美咲ちゃんは小刻みに震えながら、両手で自分の身体を抱きしめている。


「とりあえず、教室に戻ろう。先生やクラスメイト達も心配していたし」

「はい」

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