第11話三人の容疑者! ③

「それでは、まずここを見て欲しい」


 パソコンに映っている映像を部長が停止した。その映像には、一人の男性が教室に入ろうとするところを映し出している。


「この人は上野先生じゃないですか?」

「そうだ」


 防犯カメラの映像の右上に表示されている時刻を見る。

 6時50分。


「随分と早い時間ですね」

「防犯カメラの映像によると、最初に教室に入った人物が上野先生になる」


 防犯カメラの映像は7時まで早送りされる。

 今度は、男子生徒が教室の扉の前を行ったり来たりしている。


「彼は?」

「サッカー部の部長の柳田君だ」


 彼は結局、教室には入らずにその場を立ち去った。


「うーん、何をしに来たんでしょう?」

「さあ?」


 そして、その10分後、眼鏡を掛けた男子生徒が教室に入っていく。


「彼は?」

「化学生物部の部長の香月君だ」

「化学生物部?」

「ああ、和紗君は知らないのか。文化部の一つで、主に生物の生態の研究をしているクラブなんだ」

「そうなんですか」


 そんなマイナーなクラブがあるなんて全く知らなかった。まあ、マイナーっていうのなら、うちのミス研も十二分にマイナーなのではあるのだが。

 それから3分後の7時13分。

 再びサッカー部の部長の柳田先輩の姿が映像に映し出される。やけに周りを気にしてキョロキョロしている。そして、一度教室の扉の前で止まってから、意を決したように開けて中に入った。


「えーと、今、教室に中にいるのはサッカー部の柳田さんと化学生物部の香月さんですよね」

「そうだ。二人がいる状況だと、机に手紙を入れるのは難しいだろうな」


 確かに他人の目がある中で、美咲ちゃんの机に近づき手紙を入れることは、かなりのリスクを伴うと思う。

 それからさらに5分後の7時18分。

 教室の扉が開いて、化学生物部の香月先輩が出て行く。そして、その後すぐに柳田先輩も慌てた様子で教室を出て走り去った。

 防犯カメラの映像はそのまま早送りされ7時30分になり、廊下に登校してきた生徒たちが溢れかえり、各々の教室に入っていく。その間に美咲ちゃんの教室に入った人物はいなかった。


「ここまでが防犯カメラの映像だ」

「昨日のメールの美咲ちゃんの机に手紙を入れた可能性のある人物はこの三人ってことですか?」

「そういう事になるかな」


 最初に教室に入った。上野先生。

 二番に教室に入った。化学生物部の香月先輩。

 教室の前まで来て、一度は帰ったものの再び来て教室に入った。サッカー部の柳田先輩。

 この三人の中に美咲ちゃんの机に手紙を入れた犯人がいるのか?


「というわけでだ。和紗君、君には三人の聴き取り調査に行ってもらう」

「俺ですか?」

「そうだ。私はこれからデートの約束があって…………」

 デートって、どうせ面倒な事から逃げたいだけだろう。


「部長ぅ〜。残念でしたぁ。は〜い。これ〜」


 知夏ちゃんは部長に野鳥観察用のカウンターを手渡す。


「ん? 何?」

「嫌だなぁ〜。さっき言ったじゃないですかぁ。校内の廊下の利用状況調査をするんですよぉ〜」


 あ、そういうことか。校内の廊下の利用状況調査と言って防犯カメラの映像を借りてきた手前、調査をしないで防犯カメラの映像を返す訳にはいかないのか。


「しなきゃダメ?」

「ダメですぅ」

「今するの?」

「はい」


 部長は降参しましたって表情で、知夏ちゃんの隣の席に座り、ノートパソコンに映る映像を見ながらカウンターを押し始めた。

 ポチポチとカウンターを押している部長を見ると、少しだけ可哀想かなって思う部分もあるんだが、普段、デートだ、デートだって女の子と遊び歩いている姿を思い出すと、いい薬かなって気もする。

 まあ、ここは二人に任せて俺は三人の聴き取り調査に行くとするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る