第32話「最嘉と停戦交渉」(改訂版)
↓京極 陽子&久鷹 雪白のカットです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892612224
第三十二話「
――シュルッ
拘束した
グイグイ……ギュッ!
「あぅ……う」
――カチャリ!
我ながら見事な手並みだ。
少し間抜けな声を上げ、瞬く間に後ろ手に皮ベルトで縛り上げられる
――ほんと、我ながら手慣れた荷造り職人に匹敵する素晴らしい手際だったな……
「……ふぅ」
全てを終えた俺は軽く息を吐くと、拘束した
「知ってたか?剣が無いと素人同然なんだぞ、
言葉で答えなくても、奴の顔を見ればそれが計算外の出来事だと言うことがわかる。
「ちっ……
無理も無い。
俺自身未だに信じられないトコロでもある。
この戦国で武芸を極めんとする者は、自身の得手を除いてもそれなりに心得ているのが常識だ。
”武芸百般”……
俺や
それが……
「鮮やかね、でも女性を自分のベルトで縛るなんて……ああ、そういえば、そういう変態的な技は昔から得意だったわね……あなたは」
「って!おおーーい!!適当なこと言って俺の評価をねじ曲げるなっ!」
横から茶々を入れて”くすくす”笑う黒髪の美少女は、久しぶりに俺をからかってご満悦のようだ。
「
「おっと勘違いするなよ
「……なに?」
縛られた状態で俺の手の中にある
「ちょっとな、細工をした……
「……」
無言で俺を睨んだままの”
――そうだ、あの時はまんまと”
「ちっ、小賢しいガキじゃ……」
俺の顔を散々に睨み倒してから吐き捨てる
――とはいえ、実際はどうもな……
「で、どうする?俺の実力はさっきで良く
少々の疑問を残して、それでも俺はここぞとばかりに交渉に踏み切るきっかけと話を進め、老いた騎士の向こうに佇む、暗黒のお姫様に目配せする。
そして俺の意図を十分に理解しているだろう、
「
「はっ!」
暗黒の美姫が一声すると老騎士はビシリと姿勢を正す。
「我が
主君である
――さすが
この状況では
戦で大敗し、起死回生の一手も失敗……
そう印象づけることで、やっとこの後の交渉事がスムーズに運ぶ。
「ちっ……どう足掻いちゅう、分が悪いちことかよ」
――ああそうだ……普通ならな……
実際率いてきた兵士は三対三、お互いの国の手練れ同士、戦力は五分と仮定するとして。
残るは”主戦力級”の戦士の比較。
普通ならこっちの優位は動かない。
だが実は俺の足はもう限界……
こうして立っているのがやっとで、戦うことは無理だろう。
そして、爺さんも
実際、”
「……」
正味のところ、このまま継続した場合……
案外あの禿げ一人にやり込められるかも知れないという事だ。
――つまり、それを悟らせない事がこの交渉の肝だということ。
「……」
「……」
駆け引きの緊張した沈黙が支配する空間。
――どうだ?
重苦しい雰囲気の中、中性的な顔立ちの男は、やがてゆっくりと両手を挙げた。
「やめじゃ、やめ……はぁ……つまらん結果になったぜよ」
一気に緊張の糸が切れた顔で万歳する”
「む……」
主君のその動作と供に、剣士、
「…………」
――ふぅ……なんとか……なったか……
俺は肺の中の空気を一気に吐き出したように肩の力が抜けるが、勿論その態度はおくびにも出さない。
「ひとつ確認じゃが……鈴原、
「……ああ、この戦に関しては、俺も
「ほほぅ……」
それを受けて、
”今さっき、あからさまに
といった顔だが、俺は涼しい顔で受け流す。
事実、この戦いに関してはどちらにも加担したし、どちらにも敵対した。
仕事の依頼として代価を手に入れ、
つまり、
「信じられないか?」
「…………いや、構わん、なら、停戦交渉の仲介人はこの場で
「……」
――やはりこの男は見かけよりもずっと頭が切れる
この場でとは
ヘタにこの場は一旦停戦して、後日会見の場を設けようものなら……
色々と敗戦側である
そして……
もし、それでも、この場で到底看過できない条件を提示された場合は……
即座に場を蹴り、無謀であろうとそのまま死に物狂いで戦闘を継続させる覚悟があるとアピールし、勝者に出来うる最大限の譲歩を迫れる点も大きい。
今更勝敗は変わらないとは言え、”窮鼠猫を噛む”なんてこれ以上の被害と労力は誰も望んでいないからだ。
一見、力押し一辺倒の戦術、いやもっと大きく戦略といった部分まで……
実は
――さすが”
「…………」
妙に感心した俺は、
「くすっ」
そして、美姫も異存は無いとばかりにニコリと微笑んだ。
――うっ……可愛い……じゃなかった……よし、大体予定通りだ
「では、了承した。
俺はコホンと咳払いをひとつすると、
「ふふ、相変わらず用意が良いのね」
「ちっ……喰わせ
二人の態度は様々だ。
それを受け取り、面々は目を通す。
――
―
「
不機嫌そうに
「……ああそうだ」
――俺の用意した停戦交渉文書の内容
敗戦国となった
この二領土は
「……」
渋い顔で文書を睨む
何故ならこの二領は今回の戦の最中に
たとえこの戦をこのまま継続させたとしても、どうせ既に離反している状況には変わりがない。
「……鈴原、
「いや、無い無い……それくらい戦の始まる前から有力な策のひとつとして予想できる範囲内だろう?それだけだよ」
事前に書いたはずの俺の文書に今回の戦で離反した二領が記載されていた。
その事に疑いの目を向ける
「予想できる?はっ!二度も同じ策に、こん俺が引っかかる愚か者じゃと
「愚か者?……いいや、引っかかるだろ?二度目は」
「?」
自虐的に呟いた
「いや、意外と引っかかるんだよ二度目は」
「……」
「だから、計略なんていうのは、相手の性格や考え方、特徴……つまり敵の個性を突いたものが多い。で、一度その策に引っ掛かったって事は、その策はその人物には有効ってことだろ?」
「じゃが、普通は同じ轍を踏むような輩は愚か者と……」
「質が同じ計略ってだけで隠蔽方法や手の付け所は全然違う。そこを上手くやるのが策士の腕の見せ所だからなぁ……まぁ今回は最初の
そう、
正直、俺でも当事者なら看破出来たかは疑問だ。
「こん
「……で、
俺はそんな
「三年は長いわ……」
「いや、それ位必要だろう、
俺はそう言って落ち込んでいる
「……」
そうだ、これはあくまで停戦交渉。
敗者である
「……
「!?」
俯いた
「解った、なら追加で我が
「……」
「あい解った……じゃがその”証”はどう立てる?後日正式な文書で……」
「それならここにあるぞ」
「ここにあるわ」
俺と
そして俺の手には、国家元首たる者だけが所持する事が許される国家の”印章”が握られ、
どちらも停戦条約を結ぶ上で申し分ない品だ。
「…………
ここまでの先を見越していた俺達を、最早
第三十二話「
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