第21話「神は乗り越えられない試練を与えない」
グレイスは、クスクスと笑いながら、一つの真実をフェリオスに告げる。
「フェリオス……実はな、コイツの父親も、成り損ないなんだ」
「なんだと! だから、お前はコイツに……」
フェリオスは、ハメられたとばかりに額に手を遣り、自分に情報を与えなかったグレイスに対して、舌打ちをする。
「チッ、通りでメイヲールに勝てる訳だ。賭けは無効だな」
「おいおい、そりゃないだろ。メイヲールだって、親父の子なんだぞ!」
「いやいや、俺だって、コイツが親父の孫って知ってたら、コイツに賭けてたさ」
「嘘つけ! コイツは、
そんな口論を
既に、体力は全快に近い。
妖気が無いだけに、強さの見当は付かないが「メイヲールを抹殺しに来た」と言うくらいだ。
恐らく、桁外れに違いない……それが、二人か……。
いっそ逃げるか?
否、逃げたところで……ノア以外を排除したと言うような奴らだ、何をするか解らん。
考えれば考えるほど、深みに
「さて、そろそろ体力が回復した頃か?」
「
「当然だ、俺にとっては遊びのようなものだからな。なんなら、もっとサービスしてやろう」
そう言って、フェリオスは振り返り、グレイスに指示を出す。
「グレイス、全快にしてやってくれ」
グレイスは、鷹也に手をかざし詠唱を始める。
カイルほどではないものの、既にメイヲールを越えている。
カイルが言った資質も、
全く、闘う度に急成長するお前には驚かされるよ。
だが、今度は相手が悪過ぎたな。
詠唱が終わった時、鷹也の身体から、傷は
やはり目の前に居るのは神で、自分は神と闘うのかと改めて思い知らされた。
そんな時、ふと子供の頃に習った或るドラキュラの詩を思い出した。
――子として、愛された記憶もない。
そうだ、俺たちは『愛されない子』だったな。
「グレイス、お前は手を出すなよ」
そう言って、フェリオスは鷹也へと歩みを進め、グレイスは「解ってるよ」とばかりに、片手を挙げた。
有り難い、一対一か。
「そう言えば、或る人間がこう言っていたな。神は乗り越えられない試練を与えない……だ、そうだ。ドラキュラ、乗り越えてみせろ」
そして、フェリオスはニヤリと笑い、宣戦を布告する。
「俺の名はフェリオス! 父と子と聖霊の
剣を構え、フェリオスとの間を取る鷹也だったのだが、
「どこを見ている?」
目の前に居た筈のフェリオスは、既に左に移っており、それを薙ぎ払うように剣を振るも間に合わず、弾き飛ばされた。
再び構え直すも、フェリオスの動きが捉えられず、ガードもままならないまま、一方的に殴られ続け、膝から崩れ落ちた。
フェリオスは、グレイスの方へ振り返り、つまらないとばかりに両手を挙げる。
おいおい、少しはフェリオスを楽しませてやれよ。
カイルは、十分に楽しませてくれたぞ、俺を三度も殺すほどにな。
回復効果を受けながら、鷹也は冷静に考察する。
奴を目で追うことが出来ない。
奴には妖気が無いから、気を追うことも出来ない。
否、ちょっと待てよ?
確か俺に……『コイツはジンが全く無い』とか言ってたな。
感じることの出来る別の気が、在るということか?
戦いの中で、体得するしかないのか……。
随分と高いハードル、否、壁だな。
だが、まずはそれをやるしかないか。
「なぁ、もう一つサービスしてくれないか?」
「なんだ?」
「神が、俺の攻撃をどう
「いいだろう、来い」
乗ってくると思ったよ。
再び、全快となった鷹也は、フェリオスに向かい分身を始める。
矢張り、追えるみたいだな。
目が合うことから、本体を追えてることは間違いはなかった。
自分の技が通じるかどうかも気にはなっていたが、正直、期待はしていなかった。
それよりも、ジンという名の気を探すための時間稼ぎの方が、重要だったのである。
だからといって、手を抜けば、いつ飽きられてしまうか分からない。
本気で攻撃はしているものの、結果、掛け逃げをしている状況になっていた。
もう少しだ、もう少しでジンを掴めそうな気がする。
それは、蹴りや殴りに対してはガードもしていたが、剣での攻撃は全て避けていたことだった。
おそらく、入れば斬れる筈だ!
だが、鷹也の動きでは、フェリオスを捉えることが出来ない。
そうこうしている内に、退屈と言う名のタイムリミットが訪れる。
これ以上、何も起こりそうにないな。
「終わりにするか」
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――この討伐……何かが可笑しい。
次回「Enigma」
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