エピローグ

 軍のレーダーは計測できない異常な数値に、警告音を鳴らし続けたものの数分後に消え、そしてそれは、まるで機器の故障であったかのように、世界を覆うほどの2つの大きな妖気は消えてなくなった。



 ――そして、一つの時代が終わりを迎える。



 アルベルトが残した薬は功を奏し、世界を二分するような戦争は無くなった。

 とはいえ、争い自体が無くなった訳ではなかった。


 ヴァンパイアとしての力を保持していたい者。

 500歳を超える寿命を失いたくない者。

 そもそも、人間と解り合えない者。


 理由は様々あったが、それを理解してやれない者も多く、危険分子は排除する――そういった強行に進める組織も、生まれてしまう。

 トータルエクリプス(皆既月蝕)が描かれた旗のもと、ヴァンパイア狩りが行われていった。


「お願いだから、その子に薬を打たないで!」


「黙れ!これでこの子も晴れて人間になれるんだ。何が不服なんだ?」


 母親の腕から、無理やり乳飲み子を奪い取り、注射を刺そうと袖をめくった、その時、一つの弾丸が注射器を破壊する。


「何者だ!」


「そんな赤ん坊に薬を打てば、ショック死することも在るってことをアナタ知らないの?」


「だからどうした、我々を知らんのか?」


 そう言って、月蝕の描かれた旗を叩いた。


「トータルエクリプスだ!」


「あぁ、あの、荒くれ者の集まりで有名な」


「何だと?」


「その辺にしてもらおうか」 


 5人の兵士が、それに割って入る。


「なんだ、お前ら?」


「我々は、イマジニアの近衛兵このえいへいだ。我々と一戦交えたいというのなら、受けて立つが……どうする?」


 リーダー格らしき男が舌打ちすると、赤子を抱いた仲間に指示を出し、その場に置かせた。


「このままで済むと思うなよ」


 そう言い残し、トータルエクリプスの集団は去っていった。


「クレアさん、せめて我々を待ってから行動してくださいよ」


 近衛兵たちは、優秀な兵ではあったものの、人間になったばかりで、その体にまだ慣れてはいなかった。

 もし、戦っていたなら、負けていたかもしれないのだが、そこは長年に渡る兵役のすごみが、相手を退しりぞけたのであった。


「だって、貴方たちを待ってたら、この子、殺されてたかもしれないじゃない。貴方たちだって、家族を失う辛さは、理解できるでしょ?」


 シューレットは、メイヲール城から脱出したヘリの中で、孫を助けた安心からか、眠るような安らかな顔で、その生涯を閉じていたのだった。


「さぁ、ママのところへ、お帰りなさい」


 そう言ってクレアは、母に赤子をそっと手渡した。


「それにしても、鷹也のエクリプスの名が、あんな奴らに使われるのは腹立たしい」


「ハンターとして、有名でしたからね」


「なんとか成らないものかしら?」


「お願いですから、今は鷹也さんの捜索を一番にしてください」


「もちろんよ、ちょっと願望を言ってみただけよ」


 その後の捜索で、メイヲール城には、ウォレフとレイリア、グリンウェルの死体は在ったが、鷹也の体を見つけることは出来なかった。

 採血した際に、そのDNAで鍵を作っていたので、自由にアルベルトの研究所へ出入りできるようになっていたのだが、研究所にも鷹也の姿は無かった。


「鷹也、どこにいるの?」


 クレアは、ロケットペンダントの中に笑顔で映る最愛の者へ、声を掛けるのだった。

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