第27話「LunarEclipse 中篇」

「別レノ、挨拶ハ、終ワッタカ?」


 その投げかけられた言葉には、薄気味悪い笑みが含まれていた。

 吹き上げるような怒りを押し殺し、鷹也は言い返す。


嗚呼ああ……お前を生きて此処ここから出さないと、誓ったところだ」


 メイヲールは鼻で笑い、両手を広げ構えた。


「ヤッテ、ミセロ!」


 広げられた腕の先を見れば、斬り落としたばかりの右手首が元に戻っていた。

 いつもなら感情的に動いてしまうが、今は不思議と冷静で居られ、相手もよく見えている。

 とはいえ、怒りが消えた訳ではなく、メイヲールを睨み、その間合いに気をつけながら、ジリジリと歩み寄るのだった。


 さて、どうする?

 こんな化物に、果たして勝てるのか?

 感情に任せて、ただ我武者羅がむしゃらに動いても、勝てる相手じゃない!

 考えろ!

 考えるんだ!


 だが、その考えるひまさえも、メイヲールは与えなかった。


達者たっしゃナノハ、くちダケカ?来ヌノナラ、行クゾ!」


 鷹也目掛めがけ、叩きつけるように手を振り下ろしたことで、戦いは再開される。

 その攻撃は、分身を破った時と同じように、物理的には届かないものの、その手から発せられる風の攻撃範囲内だった。

 鷹也は、咄嗟とっさに、剣を横にして防御に構えた。

 だが、その行為は裏目に出る。


「しまった!」


 今度の風は、分身を破った時のような吹き飛ばす横風とは違って、その場にとどめる為の縦風。

 押さえつけられるような風圧に、身動きがとれなくなった鷹也へ、力の篭った蹴りが入った。

 幾つもの柱を砕きながら、反対側まで飛ばされ、壁に激突することで、ようやくその勢いは収まる。


 か、体がきしむ……

 だが、休んでいる場合じゃない!


 剣を杖にして、立ち上がろうとする鷹也。


「我ノ蹴リヲ喰ラッテ、くだケヌどころカ、立チ上ガルカ!面白イ、面白イゾォォォ!」


 メイヲールは、嬉々ききとしてせまり、まだ顔を上げれない鷹也を再び蹴りに行く。

 だが鷹也は、その不用意に蹴り出された右足を掻いくぐって、軸足となって動けない左足を狙う!


 怒り、苦痛、憎しみが入り混じったような叫びを伴って、その左足は切断された。

 更に、バランスを崩し倒れ来るメイヲールの心臓目掛めがけ、剣で突き刺しに行く。


 もらった!


 しかし、剣が胸に到達するよりも早く、右腕にはばまれ、はじき返された。

 鷹也は、瞬時に翼を広げ宙を返ることで、飛ばされる勢いを殺し、離れることなく、その場に降り立つ。


 冷静に……冷静に……

 落ち着け……落ち着くんだ。

 この剣なら、この化物を斬り裂くことが出来る。

 おそらく、斬られた足を付けに行く筈だ。

 今度は、そのつかんだ手を狙ってやる!

 両手両足をぎ落とし、心臓を狙えば、れる筈だ。

 さぁ、拾え!


 アンデット系のヴァンパイアであれば、再生を待つよりも、付け直した方が早く完治する。

 当然、目の前の化物でさえも、そうするだろうと考えたのだが、メイヲールは斬られた足を見ることさえせず、鷲のような翼を羽ばたかせて身を起こした。


 飛んでくるのか?


 メイヲールは、そばに在った城の柱を叩き折ると、まるで槍のように、鷹也目掛け投げた。

 身の丈15mのメイヲールにとってみれば、棒切れ程度の代物だが、人間サイズの鷹也にしてみれば、大型車両が飛んできたのと変わらない。


 迷わず剣を振り降ろし、柱を真っ二つに斬って難を逃れたが、柱の割れた先には、メイヲールの拳が在った。

 ガードが間に合わず、一直線に壁面まで飛ばされ、メイヲールもそれに合わせ飛ぶ。

 壁を突き破って城の外に出た相手の生死を確認することもせず、倒れる鷹也に渾身の拳を叩き付ける。

 まるで隕石が落ちたかのような轟音と衝撃で、地面に大きな穴を穿うがった。


 間一髪、転がってそれを避けることができたが、まだ殴られた痛みで巧く動けず、体勢を立て直そうと、一旦、城内に戻って間合い取った。


「ウォォォォォォォォォォーーーッ!」


 仕留しとめられなかった悔しさを壁にぶつけ、破壊を伴って再び城内に戻ってきた。


「馬鹿な……」


 鷹也は、自分の目を疑った。

 思わず、それが在った筈の場所に目をやると、そこにはまだ、切り離されたメイヲールの左足首は存在していた。


 メイヲールの再生能力は速い……。


 ウォレフの残した言葉が、頭をぎる。


 だから、あの時、ウォレフは避けなかったのか……。

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