第10話「再会」

「で、どうするんだ、このままヴァンパイアを狩り続けるのか?」


「自分でも解らない。だが、俺がやらなければ、今後そんな奴は現れない気がするんだ」


「全ての芽を摘むのか?」


「あぁ、俺は世話になった人間の家族が居る。その人たちに、安心して暮らせる世界を作ってやりたいんだ」


「そうか、だが、ヴァンパイアが無くなっても、恐らく人は争う事を止めないぞ」


「解ってる。だから、俺が最後の一人になれば、それを食い止められる、そう思ったんだ」


「なるほど、そういう訳か……」


「でも、迷ってる。ここは良い国だ。この国が広がれば、父さんが望んだ共存共栄きょうぞんきょうえいが、叶うのかもしれない」


「そう思うなら、もう少し待ってくれないか。この国は、研究が進んでいる。いつかヴァンパイアを人に変えら……れる……薬が……在るじゃないか!」


 ウォレフは、椅子が倒れるほど、急に立ち上がって、鷹也を指差した。

 現在のところ、この国にヴァンパイアを人に変える薬は存在しない、だが、その薬が鷹也の話に在った。

 鷹也も、指を差されてハッと気づく。


「そうだ! カイルに飲ませたあの薬! 研究所に行けば、資料があるかもしれない!」


「アルベルトは……お前の親父は、本当に凄い奴だ」


 ウォレフは、泣きながら笑っていた。

 笑っている事による涙なのか、今は亡き友をしのんでの涙なのか、自分でも解らないまま、天を仰いだ。


「平和がイメージできたな、俺も出来る限りの事はしよう」


 だが、ウォレフは直ぐに真剣な面持おももちになり、


「だが、薬を飲まないヴァンパイアも居るだろうな。純粋に人を喰らいたい者が居るのも事実だ。平和を勝ち取るために、まだまだ争わなくてはならない。なんだか人が争いを起こす言い訳みたいだが、俺はこのまま進もう」


 ウォレフが差し出した手を握り、鷹也も立ち上がる。


「俺も協力する」


「では、当面の敵だが……今のままでは、グリンウェルに勝てても、ガーランド……いや、ガーランド・オズワルド・レイリアの三兄弟には勝てんぞ」


「そんなに、差があるのか?」


「ガーランドとは、おそらく互角だろう。だが、3人で連携されると厄介だ。闘いに手を貸してやりたいが、そうもいかん。実は、この国は狙われている。ヴァンパイアからもだが、人間からもな。私が居なくとも、そう簡単

に墜ちはしないのだが……多くの血が流される事は確かだ。特に相手のな」


「攻めてくる方の心配までする必要が有るのか?」


「特に人間の場合、攻撃を決めるのは上の人間だ。人には、思慮しりょの浅い指導者が多いからな……巻き込まれているたみに罪はない。そして、何よりも、いくさは重ねれば重ねただけ、恨みは深まり止められなくなる」


 イマジニアが建国されてから3年間、攻められない日は無かった。

 要塞のような国自体もそうだったが、その殆どは国内の学者達を狙ったものだった。

 人が『墜とせない国』だと気づくのに、8年の時がついやされた。

 今でも、選挙が近づくと攻めてくる、そんな愚かな指導者の居る国さえある。


「そう言えば……何故、俺を国に隠したんだ?」


「グリンウェルに、お前とエクリプスが別人だと思わせる為だ。伝わって来ているエクリプスの情報は、服装のみだが……黒のローブと銀製の長剣、やつなら間違いなく気づくだろう」


「二人でグリンウェルを狩れば良かったんじゃないのか?」


 ウォレフは、思わず吹き出した。


「奴はズル賢い。お前が居れば距離を取って見ていた筈だ。それに、協力する状態ではなかっただろう?」


 そうだったとばかりに、鷹也の顔が見る見る赤くなっていく。


「この戦いが終わったら、此処で暮らせ。平凡に暮らすのも良いし、人間の争いに介入する気なら、俺の、いや、お前の親父の代わりに、王の座を譲っても良い」


「その返事は、待ってくれないか?」


「そうだな、ゆっくり……一緒に考えればいい」


 そう言ってウォレフが手を叩くと、部屋の扉が開かれ、振り返れば、そこには懐かしい顔が立っていた。


「鷹也ー!」


 名を叫んだ少女は、思いを涙に代えて、鷹也の胸へと飛び込んだ。


「これが別の手だ。一緒に考えろ」


 狼の王は、イタズラに成功した少年のように、嬉しそうに笑って部屋を後にした。


「探したぞ、鷹也」


「シュー、どうして? 俺は、俺は、ヴァンパイアなんだぞ」


「忘れたのか? お前は、ワシらの家族だ」


 こんな俺にシューは、あの時と変わらず、家族だと言ってくれる。

 親を俺と同じヴァンパイアに殺された筈のクレアも、俺を離そうとしない。


 鷹也は、嬉しくて何も言えなくなっていた。

 家族と言う暖かさを感じながら空を見上げた。


 母さん、見てるか?

 俺の家族だ。

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