第42話 ワードウルフ
「次こそは赤は引かないチュン!」
確固たる意思で宣言をしてコマを進める。
開かれたのは久々に再会できた青マスにとりあえずホッとする。
『大手企業Vとの大型コラボ企画に誘われた。大盛況だったようなチャンネル登録者数が大幅上昇。借金があるなら帳消しにして+1億円の収入』
「……コロンビアチュン」
両手を高く突き上げ、南アメリカ北西部に位置する共和制国家の名前を答えたときのような達成感をポーズにして示す。
「ナイスにゃー!」
猫神様と喜びを分かち合う。
これは勝利にはそこそこ近づいたといっても過言では……
改めて3人の資産を確認する。
猫神様 19億8000万
鷲宮さん 10億2000万
千虎ちゃん7億3000万
下切 雀 1億
圧倒的だった。猫神様が……
なんなら私がこのまま足を引っ張ったとしても勝ててしまいそうだ。
「猫神様チュンおい……」
「運の良さなら誰にも負けない自信があるにゃよ」
思い返せば、たしかに青しか引いてなかったような気がする。
こ、これが一流VTuber……!
「キャリーは任せるにゃ!」
「好き!チュン!」
「じゃあ結婚するかにゃ♡♡♡」
「結婚は飼い主さんの脳が破壊されちゃうのでダメチュン」
「ぴえんにゃ」
盛り上がっているこっちとは裏腹に鷲宮さんは目を閉じて、眉間に皺が寄っている。
そんな様子を千虎ちゃんは何やら楽しそうに見ている。
「フンッ、最後に勝つのは私たちよ」
「掛かってこいにゃ!」
視線を合わせてばちばちと火花が散る2人。
まだ3億ほどしか差がない。
このゲームの特性上、時間が進み、インフレ化したなかでは直ぐに逆転されてしまっても仕方がない。
「どんどん行くにゃよ!にゃーのターン!ドロー!」
サイコロの目は『2』
マスが金色に光る。
「久々の!時間が押してるなかでのミニゲームマスにゃ!ひりつくにゃ!」
『参加費:1億 ドキドキVTuberワードウルフ!
プレイヤーはお題を引き、そのお題について5分話し合う。
だが一人だけ違うお題を引いた狼が紛れ込んでいる。
狼は上手く紛れ込み、気付かれないようにすることで勝利し、市民側は狼を見つけることで勝利する。
狼側は例え投票により見つかったとしても市民側のお題を答えることができれば勝利することができる』
ワードウルフ。
プレイヤーは誰が狼かわからないため、五分という限られた時間で自分が狼かもしれないと考えながら情報を引き出して勝たなければならない。心理戦ゲームだ。
マネージャーさんである栗花落さんからボックスが運ばれてきて、一人ずつ紙を引いていく。
そっと紙に書かれた文字を見ると『河童』と書かれていた。
……カッパ?
緑色をした皿を乗っけたやつであってるよね?
河童なら他のお題は妖怪関係?あとは……お寿司とかだろうか?
みんな相手の挙動を伺って無言の時間が続く。
最初に痺れを切らしたのは猫神様だった。
「しょうがないにゃ!にゃーから雀ちゃん、鷲宮ちゃん、千虎ちゃんと時計回りで何か喋っていくにゃ!」
「じゃああなたからね。有益な情報落としてね」
「うぐぐ」
猫神様は俯いてなんとか言葉を絞り出す。
「えーーーーーっと、み、緑にゃよね?」
「そう、チュンね」
「諸説はあるけど同意ね」
「はい」
よし、諸説があるといった鷲宮さんはかなり味方側だ。
河童って茶色のときもあるし。
「寿司に関係ある……チュンよね?」
「そうね」
「同意するにゃ!」
「これは味方の気がします」
「じゃあ私だけど……、わたしは少し苦手かもしれないわ」
確かに。兵庫にある河童の人形とかめちゃくちゃ怖かった気がする。
「鷲宮さんはおこちゃまなんですね〜、ぷぷぷ」
ここぞとばかりに煽る千虎ちゃん。
はたして河童が苦手な人をお子ちゃまだと煽るだろうか?チュンは訝しんだ。
まあ、答え合わせまでそれは置いとくとしよう。
「適量なら美味しくいただけますね」
ふふん、と胸を張る千虎ちゃん。
その言葉で私目線は、千虎ちゃん確定だ。
鷲宮さんとは話が合っているからたぶん、多数派だと思いたいけど……
千虎ちゃんのお題はたぶんわさび……わさびの色に諸説あったっけ?
いや、もしかしたらあるかもしれない。
そうなると私が少数派に……
鷲宮さんはポーカーフェイスだし猫神様も何かを考えている様子だ。
「ふむ。千虎ちゃんはどういうところが好きにゃ?」
「うぇっ!?えっと生臭さが消えることですかね……」
「なるほどにゃ」
えっ、なんで猫神様は頷いてるの!?
一緒ってこと!?
……わかんなくなってきた。
私はとりあえず確信に一歩でも近づくために少しだけ踏み込んでみる。
「チュン的にはあんまりお目にかかりたくはないチュン」
「雀さんも苦手パターンですか?」
「あっ、はい……チュン」
猫神様またもや頷いている。
これ、とりあえず多数派か少数派かわかんないから頷いているだけか……?もしかして。
「もう決まりだと思うわ」
「チュンもたぶん……わかっちゃったかもチュン」
「にゃーもにゃ!」
「ふふふ、私も分かっちゃいましたよ。じゃあ、せーので指を差しましょう。せーの」
真っ直ぐ千虎ちゃんを指さす。
鷲宮さんも千虎ちゃん。
猫神様も自信はなさそうだけど千虎ちゃんだ。
対する千虎ちゃんは鷲宮さんを指差して、そして周りを見ておろおろしている。
「な、なんでですか!?」
「いや、流石にわかるわよ。自分のお題を発表しなさい」
「……わさびです」
「やったにゃー!」
「えっ、まじのまじで私が狼なんですか!?緑で寿司に関係あるって言ってて、しかも鷲宮さんが諸説あるとか言ってたから別のものだと思ったのに!」
「まあ、チュンたちのお題が緑で寿司に関係あるものだったチュンから……、でも千虎ちゃんには大逆転チャンスが残ってるチュン!」
「そうにゃ!にゃーたちのお題を当てられたら逆転にゃ!」
「確かにそうですね!……えっと緑だけじゃなくて、それで寿司に関係してて鷲宮さんが苦手なもの……わかりました!答えはシソです!」
惜しい!確かにシソにも赤シソとかあるけど。
「違うわ。正解は河童よ」
「カッパ……妖怪ですか?」
「ほら色々体色が描かれてるものによって違うし寿司にもかっぱ巻きで関係してて、爬虫類だから私は苦手」
「あ、あー!!!!!なるほど!!!!!前に匂いが強いもの好きじゃないって言っていたのでてっきりシソだと」
「残念だったわね。1人1億ありがたく頂戴するわ」
「でもチームで見たらあいかわらずそっちのお金が2億減っただけにゃ」
「たしかしチュン」
鷲宮さんは「あっ」と声を漏らして顔を逸らす。どうやら熱が入りすぎてアシストをすることができなかったらしい。
トゥンクだ。恋愛作品だとギャップで落ちていたかもしれない。
「そ、そのうっかり鷲宮さんも可愛いですよ!」
千虎ちゃんのフォローになっていないフォローに鷲宮さんは恥ずかしさからか、顔を逸らして肩を落としたのだった。
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