第24話 新人Vが現れた!どうしますか?→助ける
『初配信!ファントム・マインドをクリアするまで寝ない枠』#新人VTuber #ツユキシズ#露木静
時刻は深夜3時。草木も彼方も寝静まるそんな真夜中に、いつもの通り起きてた私はRTされた放送タイトルに目を疑った。
____正気か?
あのゲームは私でも2時間集中が保てば良いほうで、逆に集中を保てなければ即死するような鬼畜ゲー。私はトータルで2日ぐらいは掛けたと思う。
好奇心が勝り、Metubeを開く。
視聴数は1000程度で、高評価が120。低評価が……250……
コメントには『下手すぎ』『一生終わんねぇじゃん草』『止めてもええんやで』と好き勝手言われている。
確かに動きは完全な初心者。そもそもゲームに慣れていなさそうな動きだ。
『大丈夫……決めたことですから絶対クリアするまでやります』
そういって壁に頭を擦り付けながら初期武器のカスタムもされていないピストルを持って愚直に突き進んでいく。
そこは、右から迂回して行った方がいいとか、最初は弾薬数がもったいないから無理に戦わないか近接のみでやってほうがいいとか、言いたいことが溢れていく。
でも、これを口に出しちゃったら指示厨っぽいし、ゲームのプレイに口出しされるのが嫌なのは私も同じだからグッと堪える。
よし、見なかったことにして寝よう。
そして起きてからまだやってたら少しだけ考えてみよう。
_________________________________________
________結論から言おう。まだやっていた。
時刻は9時。低評価は300程度まで上がっていて、視聴者数も300を切っている。
少し進んでいるものの、まだチャプター1だ。
コメント欄は夜中よりも見てられないものとなっている。
『やめたら?』
『……一度決めたことですから』
頑固だ。意気地な頑固ちゃんだ。
少し声に湿っぽいものが含まれているようにも感じる。
ファントム・マインドは私の大好きなゲームだ。
大学二年の長い夏休みのなかで、彼方の家で一緒にクリアまで頑張った思い出のゲームだ。何度も挫けそうになったし、何度もキーボードをたたき割りたくもなった。
最後は意地だけで襲い掛かる初見殺しに向かっていた。
やがてクリアできた時の達成感、そして溢れ出る喜び、一度クリアしても何度も、何度も何度もやりたくなる中毒性。
このゲームはただの鬼畜ゲーじゃない。鬼畜の中で、ちゃんとプレイヤーを楽しませる工夫がされている。
だからこのゲームは愛されてるんだ。
そしてそんなゲームを愛している一人の人間として、同じVとして、このままブラウザを閉じることはできなかった。
「……見てるかな」
Metubeのページからツイートンにとび、キーボードの音を立てて、DMを送る。
『……えっ』
送るとほぼ同時に携帯の着信音が鳴り、放送越しに驚いたような声が漏れる。
『あ、あのあのあの!助けてくれるってVTuberさんがいるみたい……』
『まじ?』『これ見てよく来ようと思ったな』『マルチするにしても無理そうw』『贄』
『どうせクリアできないし迷惑かけるから断っとけ』
『……断ったほうが』
言葉に反応して、『気にしないでください』とDMを送る。ついでに一方的にディスコのIDも送りつけた。
『えっとディスコ、これに入ればいいんですかね』
『誰来んの?』『放送見てて来るんだったら相当な自信家でしょ。そもそもクリアしたことない人じゃ話にならないんだし』『ファンマイクリアした人なんて限られてるだろ』
『雀ちゃんだったりしてw』
その通りだったりする。
『あの……』
通話に入ってきたツユキちゃんが困惑したような声を出す。
私も喉の調子を整えていつも通り、喋り出す。
第一声は決まっていた。
「無謀すぎるチュンよー!」
『雀ちゃんきちゃああああああ』『ガチのムキムキ雀じゃん』『勝ったな。風呂食ってくる』
『ぴえっ、ごめんなさい』
「いや、別に謝らないでいいチュンですけど……えと経緯を知らないからあんまり言えないチュンですけどなんでこのゲームやろうとしたチュンか?」
『その……面白そうだったので』
「そう……」
『ドン引き』『楽しそうで触ったことない鬼畜ゲー始める女』『おもしれーゲーム』『草』
『え、えとダメでしたか、ね?』
「や、チュンも面白そうで始めたので謝らないで大丈夫ですチュンよ!」
『そ、そうですか……!』
「ん。じゃあこっちもファンマイ起動したから誘ってほしいチュンけどやり方分かりますチュンか?」
『この招待ってやつでいいんですか?』
「はい。それでディスコに貼ったIDに送ってほしいチュン」
『ツユキから招待が届きました』
承認して、ロード画面に移る。
「あの、まじで最後までやるチュンか?」
『……やります!』
ッスー……逃げ道用意したつもりだったけどこれ逆に私が逃げられなくなったパターンか?
まあ、でも意気地な頑固ちゃんは私も同じだ。手伝うって決めたんだったら出来るところまではやるべきだろう。
「じゃあとりあえずチャプター1をクリアするチュン。えとツユキさんはたぶんこの手のゲームはじめてチュンよね?」
「はい!パソコンでゲームするのも初めてです!」
「そうなんだ。PCで、ってことはゲーム機ではやってたの?」
「はい!その時はコントローラーだったので慣れなくて……」
「ふむ。じゃあコントローラー差してやるほうがいいかもチュンね」
「えっ、コントローラーで出来るんですか!?」
「うん。無線だとPCで設定しなきゃだけど有線だったら挿しただけで使えたはず」
「わかりました!やってみます!」
その間に私もツイートンに呟いておく。
『露木静ちゃんのところに急遽お邪魔してるチュン!一緒にファントム・マインドやっていくチュン!』
……正直、胃がキリキリしてる。
突然の凸。
余計なお世話だと言われて、ぼや騒ぎになってもしょうがないことだ。
きっとこれは正しい選択じゃない。時には見て見ぬふりをすることが正解な時もある。
だけど、私にはそれができなかった。
ただ、それだけのことで、だからといって一度決めたことはもう撤回する気はない。
『わぁ、ほんとだ!コントローラーでも動かせます!』
「コントローラーだとエイムアシストがつくから近距離の戦闘はやりやすくなったと思うチュン!」
『はい!ありがとうございます!これなら頑張れそうです!』
「ふふっ、完全にノリで凸しちゃったけどこのまま二人でクリアしていくチュンよー!」
『はい!よろしくお願いします!』
さっきとは打って変わって快活な声で笑うツユキシズちゃん。
この声が聞けただけでも、価値は十分にあるはずだ。
私はマイクをミュートにして、気合を入れるために両手で頬を軽く叩いた。
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