頑張ったじゃないか
「こんなの、どうしろって言うんだよ…」
だが、ドラゴンはやる気だった。
「グゥオオオォォオオォオォオォォォォーッッ!!」
その咆哮に叩かれ、新伊崎千晶がハッとなる。
そうだ、負けてなどいられない。自分は勝たなければいけないのだ。家族を守る為に。
そこで、無茶を承知で再び召喚を行った。<引き裂かれし門>メヒェネレニィカを通じて、異世界からドラゴンを呼び寄せたのだ。
ドラゴン使いが一度に操れる数には限りがある。一般的な奴なら一頭が精々だ。何百ものドラゴンを操った<魔女>ケェシェレヌルゥアは次元が違う存在であった。
しかしこの時、新伊崎千晶は十二頭ものドラゴンを呼び出した。最初の一頭と合わせて十三頭。
それらを制御する為に、途方もない負担がのしかかる。脳が焼き切れるような感覚の中、目、耳、鼻から血を流しつつ、気力を振り絞った。
「い、けえぇ…!」
もはや自分の体を動かすこともままならない中、新伊崎千晶はドラゴンに命じた。十三頭のドラゴンはそれに応えるように飛び立ち、牙の渦に挑みかかっていいく。
だが……
だが、それでも力の差は歴然だった。グリズリーの前に置かれた赤ん坊が十三人の幼児に変わったところで、結果は変わらない。多少は抵抗もして見せたものの、結局は一方的な虐殺が繰り広げられただけだった。
ドラゴンは次々と噛み砕かれ、渦へと飲み込まれていく。人間よりは力があっても、やはりどうすることもできなかった。
「ちくしょう……」
血の涙を流しながら呻いた新伊崎千晶を、庇おうと立ちふさがったドラゴンもろとも、牙の渦が飲み込んだのだった。
「ははは…これはもうヤバいかな……でも、俺としちゃあ頑張った方ですよね……
ボロボロになった赤揃えの鎧を纏い、腹からこぼれだした腸を押さえつつ、無限ガトリングガンを放ち続ける広田は、そう呟きつつ泣いた。
刑事に向いてないと言われて辞職して、仕方なくガードマンのアルバイトで食いつなぎながら自分の存在意義を探し続けてきたこいつだったが、最後に人間を守る為に全力を尽くせたのならもうそれで十分なんじゃないかと思っていた。そして誰かに、『お前はよくやったよ』と言ってもらいたかった。
空に向けて無限ガトリングガンを放ちながらも、意識が薄れていく。
すると広田の肩をポンと叩く者がいた。今川だった。
「頑張ったじゃないか。もういい。ゆっくり休め…」
「今川さん……」
その言葉に安堵の表情を浮かべた広田の体を、牙の渦が食らう。だがそこにいたのは広田だけだった。広田が見た今川は、こいつの願望が作り出した幻だったのだ。それでもこいつにとっては救いになったんだろうがな。
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