ハリハ=ンシュフレフア

生きるために必死であるが故に逆に愉快な光景を醸し出しているそれらを感じつつ、私は空を見上げていた。


その先で、凄まじい力がぶつかり合うのが分かる。カハ=レルゼルブゥアがハリハ=ンシュフレフアと戦っているのだ。その余波で、土星も木星も崩壊し、今は火星も風前の灯火だ。あの勢いで来られると地球そのものがヤバいぞ。


実際、その余波は影響を及ぼし始めている。空気は渦巻き、海は荒れ、地殻は小刻みに震えていた。不穏な気配が地球全体を覆っている。


だがその時、大きな力がカアッと光を放ったかと思うと唐突に消え失せるのが分かった。


「やはり、その小さな体では無理だったか…」


カハ=レルゼルブゥアだった。幼い人間の体では十分に力を使いこなせず、ハリハ=ンシュフレフアに食われたのだ。ただしそのおかげで、奴らの戦いの余波で地球が破壊されるのは回避されたがな。


いよいよ舞台は整ったか。私とお前とで決着をつけるぞ。




それは、無数の牙を生やした渦巻きがうねうねと絡まり合いながら身悶えているかのようだった。そういう何かが空一面を覆いつくしているのだ。地平線のはるか向こうまで。


当然だろう。そいつは今、この地球そのものを覆っているのだから。


「ハリハ=ンシュフレフア…」


私は思わず呟いていた。久しぶりに見たが、相変わらず気持ち悪い奴だ。


すると渦巻きの一つが地上目掛けて伸び、途中の空中にいたものを、ぞぶりと食らった。子供達を乗せた巨大ロボだった。無数の牙に一瞬で噛み砕かれ、バラバラになり螺旋を描きながら巻き上げられた。


再び渦巻きが地上へと伸びると、今度は汎用人型決戦兵器の人造人間が食われた。膝から下だけを残し、やはりバラバラに噛み砕かれて巻き上げられていく。


勝負にならなかった。


無理もない。いくらよく出来ていようとそっくりに作られていようと、その力を与えたのはただの化生に過ぎん。化生の力では、本来の私達には傷一つ付けられんからな。


細いものは直径数十センチ、太いものは直径数百メートルの大小さまざまな渦巻きは、まるで触手のように次々と地上目掛けて伸びて、あらゆるものを食らっていった。さすがに目立つからか、コルネル=エムクレィシャナシスも次々と食われた。渦の一つが私目掛けて伸びてくる。だが…!


「調子に乗るなよこのトンチキが…!」


私は右手を開いて突き上げ、空中にあるものを握り潰すように閉じた。すると牙を生やした渦巻きの先端がぐしゃりと潰れ、かき消えていく。この程度の攻撃が私に通じると思ってる訳じゃなかろうが! ああ!?


今度は体を大きく捩じって縮め、全身で伸びあがって拳を突き上げた。直上の牙を生やした渦巻きが円を描いて消し飛び、青空が覗く。


おぉぉぉおおぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおおぉっっっ。


空そのものが唸り声を上げているような音が空気を震わせ、奴は身を捩った。もっとも、奴もこの程度ではやられてなどくれんがな。これはただの挨拶だ。


さらに払い除けるように手を振るい、真一文字に奴を切り裂く。そして地面を蹴り、宙へと舞い上がった。力を激しく回転させ、再び目に見えぬ巨大な体を作り上げる。ケベロ=スヴラケニヌとやりあった時よりもさらに巨大な体を。


頭頂高三千キロメートルの、透明な巨大JCだな。透明と言っても空気との摩擦などで雲や雷が発生し、空気がない辺りではスペースデブリなどが衝突して燃え、うっすらとその形を浮かび上がらせているが。奴はその私の体にまとわりつき、ぎりぎりと締め上げてくる。牙を生やした渦が触手の如く絡まってきた。


触手プレイか!? 変態め!!


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