幼女決着

母親である黄三縞亜蓮きみじまあれんを殺されて、黄三縞神音きみじまかのんはブチ切れていた。その直接の仇であるサタニキール=ヴェルナギュアヌェは捻り潰したが、それでもまだ気は収まらなかった。激しい怒りはマグマのように黄三縞神音の中に溢れ、人間としての器であるその肉体さえ焼き尽くさんばかりに灼熱化していた。


そんな黄三縞神音の怒りに呼応するかのように地球上のあらゆる火山が活性化、溢れ出したマグマは龍のようにのたうって咆哮を上げた。<炎の精>コルネル=エムクレィシャナシスだ。カハ=レルゼルブゥアの眷属であり、炎を司る神の一柱である。火山を基に顕現するが、それらすべてが同一の存在であり、全にして個であった。


コルネル=エムクレィシャナシスが吸い上げた地球の熱エネルギーは集約され、カハ=レルゼルブゥアへと流れ込む。


それを見てショ=エルミナーレも狂気の笑みを浮かべながら己の力を解き放った。体の中にマイクロブラックホールを発生させ、それ自体が本体となり、幼女の姿の肉体はこの次元に投射された陰影かげとなった。周囲にあるあらゆるものがショ=エルミナーレの中へと落ちていき、質量の全てがエネルギーへと変わる。


まあ、要するに今やこいつ自身が縮退炉になったということだ。


カハ=レルゼルブゥアから発せられる輻射熱だけで地面は溶解し、ショ=エルミナーレの周囲にあるものはすべて呑み込まれていく。どちらももはや存在するだけで天変地異と言ってもいいだろう。


だがまあ、こいつらにとっては地球がどうなろうと知ったことではないのだから、それを気にする筈もない。


「―――――ッッッ!!!」


もはや人間の声ではない声を上げ、二柱の邪神はぶつかり合った。確実に日本列島そのものを消し飛ばすどころか地球の形まで変えてしまうであろうそのエネルギーのぶつかりを、私は強力な結界で覆い、防いだ。


しかし完全に包み込んでしまうと恐らく防ぎきれず、それどころかかえって威力が増してしまう為、上空の部分が開いたすり鉢状の結界として、宇宙に向けて放出させる。凄まじいエネルギーの奔流は金星を穿ち、太陽系の外へと消えた。


その後に残ったのは、勝者と敗者だった。


ほぼ人の形を失ってはいたが、黄三縞神音は人型の炎と化した自らの肉体を巻き戻し、ショ=エルミナーレはそれができずボロ雑巾のようになって地上へと落ちた。黄三縞神音が勝ったのだ。


この程度でショ=エルミナーレの本体は消滅しないだろう。だが、人間の肉体を維持出来なかったことで勝敗は決した。見る影もなくなった幼女としてのショ=エルミナーレの肉体を見下ろし、黄三縞神音はおぞましい邪悪な笑みを浮かべる。


しかもそのままギロリと視線を移し、今度は<狂える母神>レゼヌゥケショネフォオアを見た。その意図を察した私は再び結界を張り、黄三縞神音から迸った力をそれで受け止めたのだった。


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