不愉快極まりない
「な……!」
あまりのことに、
それでもさすがにいろいろと慣れてきているからか、今のこいつらは普通の人間のようには取り乱したりもしない。
しかし私はそんなことには関心はなかった。
「…!」
気配を感じ窓の外に視線を向けると、肥土透と黄三縞亜蓮もつられるようにそちらに振り向く。
「古塩……!」
「古塩くん……」
肥土透は険しい表情で、黄三縞亜蓮は不安げな表情で、小さくその名を口にする。
そう、そこには、あのニヤついた実に不愉快極まりない
「……」
が、奴は自分の名を口にされたことには応えず、やはり不快な笑みを浮かべたまま、私達に向かってゆっくりと右手に掴んでいたものを掲げる。真っ赤に染まった、ボロボロの<何か>だった。
まあ、私には一目でその正体が分かったがな。
「…月城こよみ…」
「…え? 月城…?」
思わず呟いた私の声に肥土透がハッとなって訊き返す。改めて窓の方へと向けたその視線の先には、血まみれの頭と胸だけになった月城こよみの姿があった。
「―――――っっっ!!!」
それを見た瞬間、肥土透の中にすさまじい力が湧き上がり、体が爆発するように巨大化する。
「があぁっっっ!!」
獣のごとき咆哮を上げつつ、肥土透は壁の一部ごと窓を突き破り外へと飛び出す。その体はエニュラビルヌ本来の姿に戻っていた。
「あ、馬鹿、よせ!」
そう言った私だったが、本気で止めるつもりだったら止めることはできていた筈だ。だがこの時の私は、肥土透に同情していたのかも知れん。だからあいつの好きにやらせようと頭のどこかで思ってしまったのだろう。
その一方で思う。
『負けることは許さん』
私はそう言った筈だ。なのに何だ、その不様な姿は。だらしないにも程があるぞ、月城こよみ…!
もっとも、本当は分かっていたのだがな。
今の月城こよみは、辛うじて残った私の<力>の一部が使えているに過ぎず、しかもそれすら十分には使いこなせていない。ゆえに実質的にその力は私の影と同等以下でしかない。サタニキール=ヴェルナギュアヌェが相手では勝てる道理などなかったのである。それでも月城こよみがやる気だったから任せた。それだけだ。
さらにこの後、私は思うことになる。真っ先に死んだ碧空寺由紀嘉はむしろ幸運だったのかも知れんと。なにしろこれから先の地獄を見ずに済んだのだから。
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