自分でも分かんねえ

突然現れた男達によって拘束され私がトラックの荷台に投げ込まれると、一台の自動車が突っ込んできて男達のうちの二人を撥ね飛ばしトラックに激突、荷台から放り出された私は体をひねって地面へと着地した。


その時には残った男達と、自動車の運転手との間で銃撃戦となった。


って、自動車に乗っているのはナハトムじゃないか。逃げた筈ではなかったのか。何をやってるんだこいつは。


私は呆れながら少し様子を窺ってみた。ナハトムに撥ねられた男二人は、あれはもうダメだな。トラックの下敷きになった男も長くないだろう。すると、私を攫おうとした男の撃った銃がナハトムの体を捉えた。


「がっ……!」


声を上げてナハトムがうずくまる。こうなるともう、後はハチの巣にされるのを待つだけだな。


しかし……


「やれやれ…」


そう呟きながら、私はナハトムを撃った男の頭を背後から蹴り飛ばしてやった。男の体は数メートル吹っ飛び、人形のように地面を転がった。死んではいない筈だが、意識はなさそうだ。最後にもう一人残っていたので、一瞬でそいつの目の前に立ち、顔の真ん中に頭突きを食らわしてやった。鼻の骨が折れる感触が伝わって来る。


男達を黙らせ、ゆっくりと、乗用車の中で虫の息となったナハトムのもとに歩み寄る。


「何をやってるんだ貴様は? 余計なことをして命を無駄にしおって」


冷たく言い放つ私に、ナハトムは泣きながら笑っていた。


「…自分でも分かんねえんだよ……気付いたら奴らに突っ込んでた……もしかしたらあんたのことを見て、娘のことを思い出しちまったのかな……」


そう言いながらも、瞳からは光が失われていく。命が消えていくのが見えた。


「まったく……人間というやつは……」


私は頭を掻きながらももう一方の手をナハトムにかざし、巻き戻してやった。ついでに小便で濡れたズボンと下着も乾かしてやった。それから男共も巻き戻し、意識を取り戻して私を見たところでブルカを脱いで軽く微笑みかけてやると、糞と小便の臭いが乾いた空気に混じっていった。


ナハトムには背を向けていたからこいつは見てないが、それでも気配だけでも恐ろしかったのだろう。小便までは漏らさなかったものの腰が抜けて立ち上がることさえできなかった。


再びブルカをまとい、廃車寸前だったナハトムの乗用車よりも男達のトラックの方がまだマシだったので、それを片手でひょいと起こして破損した部分を巻き戻した。中を覗くとちゃんとクーラーまでついていた。まだ十年と経っていない日本製のトラックだった。中東辺りでは特に人気でよく見かけるやつだ。


「これを使うといい。今度こそとっととどこにでも行け」


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