初めてここで
<仕事>は、簡単ではあったものの
背は決して低い方ではないがとにかく筋肉量が少なく力がない。スタミナもない。
「なんだお前? 十やそこらのガキの方が馬力あんぜ?」
そこで働く労働者の雇い人らしき髭面の男が呆れたように言い放った。
『うるせえ…殺すぞ……』
心の中でそうイキがるものの、もはや足が生まれたての仔鹿のように震えている。
「ああもういい、金は払ってやるから休んでろ!」
髭面の男は、その場で腰に下げていた袋から銅貨を十枚取り出し、
何度もこの男の下で働いたことのあるベテラン連中は、
「だらしねえなあ」
と笑いつつも、
「頑張れよ、あんちゃん」
とも言ってくれたのだった。
ともあれ、初めてここで自分で働いて金を稼いだもののそれが僅か銅貨十枚だったことで、
『もしかして銀貨三十枚って、かなりの額だったんじゃないのか?』
などということにようやく気付いた。それはつまり、トレアの値段についても、正規品の奴隷に比べれば十分の一以下でも今のこいつにとっては決して安い買い物ではなかったと気付いたということでもある。
『でもまあ、損はしなかったけどな……』
甲斐甲斐しく自分に尽くしてくれて、何より自分を見てくれるトレアを買ったことを、
そのトレアは、小屋の方で主人の帰りを待ちつつ、掃除をしたり、小屋の周囲の草むしりをしたりして働いていた。
『久しぶりに草鍋以外のものも食いたいかな……』
そう思った
合わせて、魚の干物らしきものを銅貨三枚で買った。それを今夜の夕食の献立に加えてもらおうとしたのだ。
あと、小袋に入った豆をやはり銅貨一枚で買う。これも献立に役立つかもと思ってのことだった。
稼いだ銅貨のうちの六枚を使い、今日の食事に充てる。
そして、
『あいつの服でも買ってやるか……』
布を袋状に縫い合わせて、頭や腕を通す穴を開けただけの、服とも言い難い粗末なそれだけしか着る物がないトレアのために、ほんの少しだけマシな感じの古着らしき服を、残りの銅貨四枚で買った。
下着も買ってやりたいと思ったが、今日稼いだ分は使い切ってしまって、買えなかった。デインにもらった金の残りはまだあったものの、そちらにはなるべく手を付けないようにしようと思ったのだった。
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