朝の鍛錬
目を瞑り、ただ呼吸を整えているだけにしか見えないだろう。しかしこの時、赤島出姫織の中では魔力が激しく渦巻き、強い力を生み出していた。それを外に漏らさないようにするのだ。
魔法を制御するための鍛錬である。
この辺りも、赤島出姫織は飛びぬけていたようだ。普通なら漏れ出た魔力により周囲に何らかの影響が出るところなのだが、それがほとんどない。僅かにカーテンが揺れただけだ。
しかし……
「……まだまだね……」
魔力を完全に抑えきれなかったことに、赤島出姫織は小さく溜め息を吐いた、
魔法学校に通っていた当時、魔法戦闘についてはまるっきり習っていなかったとはいえ、初等部にいた時点で魔力制御のための鍛錬については既に習熟していたのだ。
なのでこのくらいは造作もない。
本来は生真面目な人間だった。自分を金を生む<金の卵>のように見做していた両親に対する反発から歪んでしまったものの、幼い頃は自分に対する期待に応えようと努力もしてきたのである。
そんな赤島出姫織の純心を、彼女の両親は踏みにじってきたのだ。
離婚そのものは実は成立していないため<内縁>という形ではあるものの父親は既に新しい家庭を築き、よろしくやっているらしい。故に彼女とは顔も合わせようとしなかった。今の暮らしを乱されるのが嫌だったようだ。
自身が、赤島出姫織という人間をこの世に送り出したという事実を無視して。その責任を放棄して。
だがもう、彼女としても父親に対する感情はほぼ無くなってしまっているようだ。
『くだらない男』
と切り捨てて、その存在そのものを無かったことにしようとさえしている。
ただ、一緒に暮らしている母親についてはそこまで割り切れない。
「お母さん、ご飯、用意しておいたから」
昨夜も明け方まで飲んでいたらしく、酒の抜けきっていない赤い顔のままイビキをかいている母親にそう声を掛ける。
「…ん……あぁ……」
と母親も応えるが、おそらく聞いてはいないだろう。夫の気持ちはもう既に自分には向いていないことを本当は知りつつも未練たらしく離婚に応じない惨めな女の姿がそこにはあった。
それは分かっているが、もう気にしても始まらない。
ちなみに食事はほとんどがインスタントかレトルトか、スーパーなどで買ってきた総菜である。料理の才能はあまりないようだ。と言うか、食事に対する熱意がないのだろう。
腹が減るから仕方なく食う。
それだけだ。
美味いものを食えば嬉しくはなるものの、それを自分で作ろうとまでは思わない。
本来の生真面目さも、自身の関心が向いている方向にしか発揮されないのも、赤島出姫織の特徴だった。
だが、そういう意味では、本質的には月城こよみとよく似た人間だとも言えるのだった。
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